天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

リアクション公開中!

温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

リアクション

 宿前。

「ここが妖怪が経営する宿か。確か、キースとウルディカは温泉宿は初めてだったな。十分に骨休めをして楽しんで欲しい」
 体力は戻ってはいないものの涼しくなってすっかり活動力が復活したグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はチラシと目の前の建物を確認した後、魔道書と未来人のパートナーに言った。今回は、夏の間、自分の事で神経を張り詰めていた二人のために休養に来たのだ。ほんの少し妖怪の宿に興味が有るというのも含んでいたり。
「確か湯に薬のような効能があるとか、いくら妖怪の山とは言え俄に信じられないな」
「……温泉ですか」
 温泉初めてのウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)はそれぞれ疑いと微妙な反応。
 それを見たエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)
「お二人は存分に初めての温泉を楽しんで下さい。グラキエス様のお世話は私がいたしますので。さ、部屋に荷物を置いて少し休んでから温泉に行きましょうか」
 チャンスとばかりにグラキエスを確保し、促して宿へと向かうのだった。
「……」
 気付いたウルディカは舌打ちしてから渋い顔でグラキエス達の後ろ姿を見た。
「ウォークライ、気持ちは分かりますが、折角のエンドの気遣いですから渋い顔はしないで行きましょう」
 ロアは溜息を混ぜながらウルディカを宥めた。
「……そうだな」
 ウルディカは一つ息を吐いてから宿に向かった。その後ろをロアが続いた。
 部屋で少々体を休めた後、男湯の方へと向かった。

 静かな男湯。

「……これが妖力が込められている湯か。効能は確かだな。エンドロア、どうだ?」
 慣れないながらも温泉体験をするウルディカは体が軽くなったのを感じつつグラキエスに声をかけた。
「疲れが取れていく感じはする。あのチラシは本当だったんだな」
 グラキエスも湯の効能をしっかり実感していた。
「そうですか。エンド、体に良いとは言え長湯は駄目ですよ。まあ、ヴァッサゴーがいますし大丈夫だとは思いますが、何かあったらすぐ言って下さいね」
 ロアは効能よりも暑さに弱いグラキエスの身を心配して警告するも本日はエルデネストに任せるのだった。不埒ぶりもグラキエスを世話する時の仕事ぶりも知っているので。
 そこへ
「ほら、お二人は気にせずに温泉を堪能して下さい」
 エルデネストが割って入った。言外に手を出すなと込めて。
 ロア達は仕方無くグラキエスの事をエルデネストに任せてそれぞれ温泉を楽しむ事にした。
 エルデネストはこまごまとグラキエスのために働いた。
「グラキエス様、冷たいタオルと飲み物をお持ちしましたよ」
 のぼせ気味のグラキエスのために冷たいタオルや飲み物を持って来たりして適時に冷やす。
「ありがとう」
 グラキエスは礼を言って受け取るなり冷やしていく。
 その間、
「……」
 エルデネストはじっとグラキエスの表情などを観察。実は、それが目的で世話にかこつけて側をうろうろしているのだ。体質上あまり見られない温泉でのグラキエスの様子を楽しむために。
「エルデネスト?」
 冷やし終えたグラキエスは自分を見ているエルデネストに訝しげに声をかけた。
「いえ、大丈夫でしょうか?」
 気付いたエルデネストはいつもの調子でグラキエスを気遣った。
「大丈夫だ、ありがとう」
 グラキエスは軽く笑みを浮かべた。
「そうですか。お望みとあらば如何様にもお相手いたしますので心行くままお楽しみ下さい」
 エルデネストはグラキエスの世話も出来て自分の目的も果たせて満足そうであった。
 この後も、ロアとウルディカは存分に温泉を楽しみ、グラキエスはエルデネストの世話を受けながら温泉を楽しんだ。

 湯上がり。
「……何をしているんだ」
 ウルディカは腰に手を当て一気飲みをしているロアにツッコミを入れた。
「これが温泉の決まりだそうですよ」
 情報収集が得意なせいかそれとも知識欲のせいかロアは変なセオリーを踏襲していた。
 近くでは
「温泉を堪能した事ですし、次は部屋で名物の鍋に舌鼓を打ちましょうか」
 エルデネストがグラキエスをマッサージなどでケアしていた。
 部屋に戻る途中、調薬友愛会に出会った。
「あなた方もこの宿に来ていたのですね。凄い偶然です」
 調薬友愛会会長のヨシノは偶然の出会いに喜んでいた。
「休養に。そちらは?」
 グラキエスは自分達の訪問理由を話した後、ヨシノ達の状況も知りたく訊ねた。
「招待とシュオンの療養のために」
 ヨシノは隣の包帯だらけの青年を紹介した。
「もしや、実験狂とかいう奴か」
 ウルディカが言葉を挟んだ。仲間の話でしか知らないが何となく察した。
「そうだよ。よろしく」
 シュオンは明るく挨拶。
「招待、ですか。誰からですか? もしよろしかったら教えてくれませんか?」
 ロアはヨシノ達がここに来た経緯が気になり問いただした。
「構いませんよ。多分、あなた方のお知り合いだと思いますから」
 ヨシノはあっさりとグラキエス達の知り合いに招待された事を明かした。
 そして、グラキエス達は調薬友愛会と共に交流会への飛び入り参加を決めた。

 部屋。

「マスター、ポチ、マリナさんがご招待して下さったこのお宿、大変素敵な温泉宿ですね。お土産も沢山買う事が出来ましたし、次は温泉とお鍋ですね。マスター、お土産ありがとうございました」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に買って貰った大量のお土産にすっかりほくほく顔。
「……ほとんど食べ物ばっかりというのがな……というか」
 ベルクは買った土産がほとんどが食べ物である事に溜息。フレンディスの食いしん坊属性がすっかり悪化している。それだけでなく今回はマリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)の奢り招待であるという事も気になっていた。後で宿泊料金を全額請求されるんじゃないかとか。
「ふふん、妖怪宿とは珍しいですね。ま、どれだけ凄い妖怪が居ても僕の優秀さには勝てないと思いますが」
 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)はいつものツンとした調子。
「後でポチのドッグフードもお願いしましょう。きっと美味しいですよ」
 フレンディスはポチの助ににっこり。飼い主としてポチの助の事は忘れていない。
「ご主人様がそう言うのならこの優秀な科学忍犬たる僕の舌に合うか確かめてやるのですよ」
 言葉とは裏腹に妖怪が用意した食べ物にポチの助が好奇心いっぱいなのは激しく揺れる尻尾で明らか。
「……で、招待したのは俺達だけじゃないんだよな。あの調薬の連中も呼び出したんだっけ」
 ベルクはまだ来ていないメンバーについて訊ねた。
「『調薬探求会』メンバーに会った限り常識はあるので双方の関係修復も出来ると思ってさね。目的の為の手段は選ばない所は警戒すべきだけど」
 マリナレーゼは調薬友愛会の相談役の立場を利用して彼らを招待したのだ。今日は交流がメインで情報収集するつもりは一切無い。
「来るのは両方だよな。行商で忙しい中でも俺達に協力してくれて助かるぜ。マリ姉、後でキッチリお礼を……」
 ベルクは今回の礼をしようと切り出した。
「お礼さね……」
 マリナレーゼが答えようとした時、襖が開いてお待ちかねの名物鍋が登場し話は中断。
「鍋ですよ。とても美味しそうですね!」
 フレンディスは鍋が置かれるなり、箸と椀を装備し食べる気満々。ポチの助のドッグフードも忘れずに頼みすぐに運ばれた。
「どんなものか食べるのですよ」
 ポチの助は尻尾を振りながら食べ始めた。しかし、ポチの助には事前にベルクから頼まれた重大な任務があった。交流会中の情報処理という任務が。