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エピローグ

 ごと……。
 研究室内に厳かな音が響き、本棚に作られた小さな扉が閉じられた。
「これで良し……」
 シェミーがつぶやく。騒動が終わった後、彼女ははジアンニ伯爵の本を封印したのだった。
 二度と誰も開かないように、厳重に結界と鍵を施しておく。
 それが終わったのを見届けて、コニレットがたずねた。
「これで……本当に終わりでしょうか……」
 不安げに瞳を揺らすコニレットに、シェミーはうなずいた。
「ああ、きっとな……。もっともまた、誰かが本を開いたりしなければだろうが」
 何十年先、何百年先のことはシェミーにもわからない。その時になってみれば、同じようなことは繰り返されるかもしれない。けれどもいまは、こうして書は永い眠りにつくことになった。
「もしかしたらジアンニ様は……私たちと遊びたかったのではないでしょうか?」
 双葉 みもり(ふたば・みもり)がなんとも不可思議なことを言った。
「また君はそんなことを……」
 皇城 刃大郎(おうじょう・じんたろう)はすっかり呆れてしまう。
 けれども、みもりはまったく変わらず、にこっと笑った。
「だって、一人でずっと本の中にいるのは退屈でしょう? きっとワクワクドキドキするようなお話を、演じてみたかったのですよ」
 もちろんそんなことはありもしないが、シェミーはくすっと笑った。
「……かもしれんな。まあ、そんな物語は本の中だけで十分だが」
「取り込まれそうになってたような人が、よく言いますよ」
 コニレットがぶーっと文句を垂れた。周りの仲間たちもどっと笑う。
「うーむ……面目ない」
 頭を掻きながら、シェミーは恥ずかしそうに言った。
 それからみんなは、せっかくだからご飯でも食べに行こうと研究室を出ていくことにした。
「ねえねえ、シェミー。なに食べる? 私はカツ丼! がっつり食べるんだ〜!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が両掌をあげて、気合い十分に言う。
「お前……よくそんな小さな身体にそれだけ入るな」
 シェミーは呆れながら、けれど、自分にカツ丼にしようかなんて思った。
「………………残したら食ってくれ」
「任しといて! えっへん!」
 自慢になることかどうかはわからないが、美羽は胸を張ってどんと叩く。
 それだけちゃんと食べてる美羽が小さいのだから、きっと自分の背はこれ以上伸びないだろうな。シェミーは人知れず、ため息をついた。
 がやがやと、仲間たちがすっかり研究室から引き払う。最後に出ていこうとしたシェミーは、ふと足を止めて、研究室をふり返った。
 本の中に身を投じたジアンニ伯爵の気持ちはわからないではない。けれどもそうして本だけに囲まれて生きていくよりかは、誰かと笑い合って生きているほうが、シェミーは面白いと思う。
「――さらばだ、ジアンニ伯爵」
 ぼそっとそうこぼしてから、シェミーは仲間たちのもとに向かった。



「エメリー? エメリーっ、どこにいるんだーっ」
 蒼空学園の中庭――。
 これから食事に行くというシェミーたちから少し離れて、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)はいつの間にか姿を消していたエメリアーヌ・エメラルダ(えめりあーぬ・えめらるだ)を探していた。
 と――
「あら、アルク」
 中庭の木の根元で、背中を木の幹にあずけているエメリアーヌがアルクラントに気づいた。
「どうしたの? こんなところで」
「どうしたのじゃないだろ……。急にいなくなるから、心配したんじゃないか」
 アルクラントはむすっとしたように言う。
 エメリアーヌはくすくすと笑った。
「ごめんなさい。ちょっと一人になりたい気分だったのよ」
「…………なにかあったか?」
 アルクラントは心配そうにたずねる。エメリアーヌは瞼を閉じるようにほほ笑んだ。
「特別なことじゃないけれどね。すこし思い出してたわ」
「思い出す?」
「こうして……あなたの中から私が生まれたときのことよ……」
 エメリアーヌは遠くを見る。
 まだ一年も経たないほど前、エメリアーヌはアルクラントの見聞録から生まれた。エメリアーヌとの付き合いはそれからまだほとんど経っていない。けれども、元々の記憶メディアである『素敵八卦』との付き合いは二十年以上だ。
 だからエメリアーヌは時々、アルクラントの全てを知っているような言い回しをする。子どもっぽく、けれども大人びた、どこか不思議な言い回しを。そんなときアルクラントは、自分自身の深く根深いところまで見透かされている気がしてならないのだった。
 そして、それはきっとその通りだ――。
 エメリアーヌはそっと添えるように言った。
「知ってる? アルク。私、とっておきの話があるのよね」
「とっておきの話?」
「ええ。私が本当の意味で生まれた時、私だけの過去が生まれた時……そんな話よ。もっとも、どうせあんたは覚えてなんかいないんでしょうけどね」
 アルクラントは眉をひそめた。
「そいつはわからないだろう? 言ってみなければ」
「いいえ、わかるわ。だから私はあんたの魔導書なんだもの」
 くすっと、エメリアーヌは笑った。
「私にとっては、何よりも大切な瞬間……。ジアンニ伯爵のように……もし、長いまどろみの中に居続けるなら……きっとあそこに私は在る」
 エメリアーヌは言いながら、ひょいっとスキップするように跳んだ。
 そして、アルクラントにふり返る。
「ねえ、アルク」
「ん?」
「もし私がいなくなったら、その場所を見つけてくれる? 私を探してくれる?」
 エメリアーヌはほほ笑んだままだ。アルクラントは彼女のもとに歩きながら、言った。
「当たり前だろう? どこまでも探し続けるさ。……君は私にとってかけがえのない存在なのだからね」
 エメリアーヌはいっそう嬉しそうに笑った。
「さ、行きましょ行きましょ。みんなが待ってるわ」
「お、おいっ、引っぱるな!」
 自分と精神を分ける魔導書に引っぱられながら、アルクラントは中庭を後にした。

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

 シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
 迷宮図書館グランダル、いかがだったでしょうか?

 久しぶりのNPC陣の登場で、執筆もいささか緊張してしまいました。
 けれど書いてみると、皆さんのアクションのおかげで動きだすことができて、感謝するばかりです。
 特に面白かった設定は丸々採用する形も取らせてもらいまして……改めて、アクションには救われるなぁと。

 NPCたちはまたどこかで登場することもあるかもしれません。
 その時にはぜひとも彼女たちと絡み、生きている登場人物にしていただければと思います。

 それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
 ご参加ありがとうございました。