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リアクション
◆シャングリ・ラ放送局アガルタ支店の突撃取材
「みんな、寒くなってきたけど体は壊してないかしら?」
「本日はそんな寒さも吹き飛ばすイベントのご紹介です!」
元気の良い声で、カメラに向かって話しているのはワイヴァーンドールズの2人。五十嵐 理沙(いがらし・りさ)とセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)だ。
彼女達の番組、『アミーゴ・アガルタ』の今回の特集は今開催中の『ハロウィン・カーニバル』。
ハロウィンということで理沙は黒いタイトなドレスを着ていた。歩くたびに大胆に入れられたスリットから白い足がのぞき、
「あ! いいにおい。たこ焼きの屋台ね」
「ちょっと理沙!」
見つけた屋台へめがけて走っていく背中は空気にさらされ、そしてハロウィンらしく悪魔の羽がつけられていた。
(ちょっと寒いけど、ファッションのためなら我慢我慢……まあ、動き回ればそこそこ暖かいし)
一緒に行動するセレスティアも同じような格好……というわけではないようで、彼女は時折胸の辺りを気にしていた。大胆に強調された胸を。
(うぅ、理沙と同じでもいいですのに……)
内心恥ずかしさを抱え、さらには上下分かれているためにかなり寒々しい。
だがセレスティアはそんな内情は表に出さず、笑顔でリポートしていく。
プロだ!
向かった先のたこ焼きの屋台では、うごめく無数の触手の持ち主、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が2人を出迎える。周囲の客たちはその姿にあまり寄っていかないようだが、理沙は気にせずにたこ焼きを注文。
「トリック・オア・トリート! たこ焼き1つください!」
「うむ。よかろう! あとこれは粗品だ」
イングラハムは無数の触手を上手く動かして、理沙からお金を受け取り、代わりにほかほかのたこ焼きのパック+ハンドタオルを乗せた。
「喉が渇いたなら、中の店でくつろぐといい」
集客のために店前でたこ焼きを売っていたらしく、ちゃんと店の宣伝もするイングラハム。
無数の手足でたこ焼きを作っている様子は確かに目を引くが……通りかかる子どもが泣いているので、宣伝効果がいいのかは不明だ。
「ふふ。ここはとある名物で有名な食堂さんなんですよ?」
「勇気のある人推奨だけどね」
理沙とセレスティアは意味ありげな言葉で締めくくり、たこ焼き片手に次の場所へと向かう。
「ん〜おいしい!」
理沙の感想を聞いた周囲の人々は、恐る恐るたこ焼きを買ったという。
「さて、順番が前後しましたが『ハロウィン・カーニバル』は街全体で行っている祭りです」
「あちこちで楽しそうなお店や企画もあって、どこに行こうか迷っちゃうわよね〜」
「ということで、こちらのマップをご用意しました」
セレスティアがじゃじゃんっと出したのは手書き……のようにも見えるマップ。そこには店の位置や目玉商品などが分かりやすく描かれてあった。
街の各所に置いてあるのでぜひ利用してください、と説明を終え、次の目的地へ向かう。
「お店に行くなら仮装と、さっき私が言っていた合言葉を忘れずにね!」
◆平常運転にはため息がつきものです
「……慣れっておそろしいわよね」
自らの格好――レースのついた黒いハイレグビキニを見下ろし、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は額を押さえた。
頭には三角帽子、体を覆うマントから見るに魔女の格好らしいが、少々……かなり露出度が高い。この服を提案したセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)曰くセクシー魔女路線らしいのだが、下手をすればセクシーランジェリーにも見えかねない。
それでもその格好を平然と着こなし、周囲の純粋な通行人の顔を赤く染めながらも、違和感を感じさせないのはさすがというかなんというか。
「セレアナー、何ぶつぶつ言ってるのよ。次行くわよー」
「……ええ、今行……あら、あれは……」
追いかけようとしたセレアナが動きを止めた。セレンフィリティが首をかしげて視線を追いかけると、見知った姿を見つけた。
「あら、ジヴォートとイキモさんじゃない。あなたたちも来てたの?」
「おやセレンフィリティさんとセレアナさん。ええ、お祭りをやっているとお聞きしまして。
仮装、お似合いですね」
「……お前ら、なんつー格好を」
「こらジヴォート。まずは挨拶だろう」
「う……悪い。久しぶり、だな。まあその……似合ってるな」
「あら、ありがとう? もっと近くで見てもいいのよ?」
「く、くんな!」
さっそくジヴォートをからかうセレンフィリティだが、一瞬だけ眉を寄せた。
「……まだ仮装してないみたいだけど、もしかして今から?」
「そうなんですよ。何にしようかと話してたんですが」
だが一瞬で元の顔に戻ったセレンフィリティは、イキモの話しを聞いてにやりとした。
「せっかくだし、あたしが選んであげるわ」
「えっ? ちょ、引っ張るなって、おい!」
「安心しなさい。立派な芸人にしてあげるから」
「安心できるか!」
ずるずると引きずられていくジヴォートを苦笑しながら見送ったセレアナは、隣に無言で立つプレジに密かに問いかける。
「何かあったのですか? 元気がないようですけど」
セレアナの問いに、プレジはしばし無言を貫いた。どこまで言ってもよいか迷っているようだった。
「……もうすぐ、あの方にとって大事な方の命日なのですよ」
そうですか。
呟くセレアナの手にはHCが握られていた。そしてセレンフィリティもまた、ジヴォートを掴んだ腕とは逆にHCを持っていた。
「……これなんてどう? 色合いがステキじゃない?」
「ぜ、前衛的だな」
「じゃあこっちは? このヒモを引っ張ると、なんと頭の花が咲くのよ!」
「だからなんだよ! ってか、面白がってるだろ」
「何言ってるのよ。当たり前じゃない」
「開きなおんな!」
ガーっと吼えるジヴォートの頭を、この危機(?)を乗り越えるための算段が埋め尽くし、どこか暗い面持ちが少し消え去っていた。
セレンフィリティの、そんな分かりにくい励まし方にセレアナは苦笑しつつ、暴走しすぎないようにとパートナーに駆け寄った。
暢気そうに見えるジヴォートだが、今は社長だ。妙な格好をして噂が立つのも困るだろう。
と考えた矢先に、パートナーが掴んだ衣装に頬が引きつる。
「……セレン。さすがにそれは」
「そう? ここの角度が最高だと思うんだけど」
「……っ!」
「あ、逃げた」
一体どんな衣装を着せようとしていたのだろうか。
◆貸衣装屋での攻防
「ハロウィン・カーニバルといったら貸衣装屋! ということで紹介するわね!」
「ここでは好きな衣装を格安で借りることができるんです。でも仮装といってもたくさんあるので、悩んでしまいそうですね」
「そういうときのために、アドバイスしてくれる人たちがいるの、ね?」
「はい! ファイ達に任せてくださいですっ!」
理沙に声をかけられて元気に返事をした広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)は、カメラに向かって綺麗にお辞儀をした。
「その人の印象からや、どんな姿になりたいかの希望を聞いたりして、一番似合うコーディネートをしますです!
たとえばおとなしくて可愛らしそうな人だったら、合うイメージには三角帽子にローブという魔女っぽいこの服に、髪型はこんな感じとか」
衣装やアクセを手にとってカメラに見せるファイリア。たしかに愛らしい組み合わせだ。セレスティアが手を叩いて頷く。
「まあ、可愛らしいですね」
「ありがとうです!
それに衣装はいろんなものが用意されてますです。
大人っぽいのがいいのなら……ウィノナちゃん!」
「はい、なんでしょうか」
ファイに呼ばれて出てきたウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)は、膝下までのスカートのクラシックメイド姿で
衣装に合わせてクールな使用人を演じながら出てきた。
ウィノナは 【Wi’z】として衣装のアピールと集客を担当しているのだが、今は衣装の交換のために戻ってきていた。
ちなみに今の服ですでに三着目だ。そのつど服に合わせてキャラクターも変えている。
先ほどまでは胸元を露出したチューブトップ、膝上のミニスカートで露出したセクシーな衣装を着ていた。コンセプトはずばり、『大人の女性のコスプレ』。
そして【Wi’z】といえばもう一人。ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)も衣装のアピールと集客担当。彼女のコンセプトは『カッコいい女性』で、先ほどまではロビン・フッドの衣装で弓を構えていたのだが、今回は……?
「あ、あれ? こ、こんな衣装いれてましたっけ?
といいますか、明らかに私が入れた物じゃないですよ!? 誰ですか、着せようとするのはー!?」
試着室でそんな小さな悲鳴――本人は大声を上げたいが、他の客もいるので抑えている――が聞こえた。
ウィノナは試着室を見て、くすりと笑う。
(ウィルは……カッコいいけど、素材は良いからもうちょっと可愛らしいのとか着せておきたいんだよね。
いくつか混ぜたんだけど、どれ着てくるかな〜)
どうやらウィノナの仕業らしい。
ウィルヘルミーナはすでに先ほどまでの衣装を脱いでいる。そして確認せずに持ってきてしまった衣装は『胸だけ覆ったチューブトップとちょっとかがむと下着が見えちゃいそうなほどのミニスカートの悪魔っ娘』。
彼女にとってはかなり勇気のいる衣装だが、また先ほどの衣装に着替えて選びなおしている時間はない。同じ衣装で行くわけにも行かない。
泣く泣くその衣装へと着替える。
(……仕事ですから、着ますけどね。ううう……)
2人は別れを告げてから本来の役目のために外へと向かう。 腕には運営委員の腕章がついているため、
「すみません。この喫茶に行きたいんですが」
「はい。そちらの場所は――」
「あ、そ、その衣装はどこで」
「こちらは――」
などと声をかけられるのに対し、ウィノナは衣装のキャラを演じながら正確に、わかりやすく答えていく。
ウィルヘルミーナも、恥ずかしさをこらえながら(スカートの丈を気にしながら)
「とりっく・おあ・とりーと!」
「ふふ。可愛らしい魔女さん。こちらをどうぞ」
「わーい。ありがとう、悪魔のお姉ちゃん」
仮装した子供達に笑ってお菓子を渡していった。
一方で貸衣装屋では、男性の衣装のアピールに移っていた。
「男性の方のはこちらです! カッコいいのを中心に揃ってるです」
「いいわね……できれば誰かモデルが……あ! ちょっとそこのカッコいいお兄サン取材手伝って!」
理沙の目に留まったのは、着せ替え人形から逃げてきたジヴォート。ジヴォートは一度後ろを振り返り、どうやら自分に話しかけられたと気づいた。
「は? 俺? って、お前らは……これまた寒そうな格好だな」
ジヴォートは一瞬戸惑った後、寒々しい格好に呆れを見せた。気温がある程度管理されたアガルタとはいえ、外の季節とある程度合わせているため、肌を露出するには厳しい気温だ。
「ファッションに我慢はつきものよ。それよりも……じゃあ、お願いするわね」
理沙は胸を張って応えた後、ファイに託した。ジヴォートが首を傾げる。
「お願いって何」
「分かりましたです!
えっと、じゃあ髪型も変えて、う〜ん、衣装は……ご希望はありますか?」
ファイが首をかしげてたずねる。頭の中に、いくつものパターンを思い浮かべ、どれが一番ジヴォートに合うかをシュミレートする。どんな希望を叶えてみせる、と気合を入れて。
ようやく着せ替え人形から脱してきたジヴォートだが、その運命からは逃げられないのだと悟った。
とりあえず、ネタじゃないやつ、と希望を告げる。
「ネタ、です?」
「ああ、いや……こっちの話だ」
「よく分からないですが、こういうのとこれだとどっちがいいですか?」
「そうだな。じゃあ、右のやつで」
「分かったです! じゃあこれにあわせて……」
何やら考え込み始めたファイリアを、ジヴォートは呆然と見つめ
「……なんで女はこんなに着替えさせるのが好きなんだ……」
そう呟きながらも、笑みを浮かべた。
彼は隠し事が得意でない。そのことを自覚している。だから周囲に自分の元気がないことが悟られているとも分かっている。
そしてジヴォートにも伝わっているのだ。みんなのそのキモチはすべて――でも
「――なんでここに――はいないんだろうな」
たったそれだけのことが、彼の喜びを打ち消すのだ。
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