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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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大図書室



「これ、返却お願いするぜ」
「はい。ええと、『安全な呪詛返し』と『主人公の条件』ですね。確かにお受け取りいたしました」
 イルミンスール魔法学校の大図書室の受付で、司書さんがアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)から蔵書の返却を受け取りました。
 イルミンスール魔法学校の大図書室には、数千年にわたる膨大な蔵書が保管されています。大半は魔法に関する書籍で、初心者用から秘技に関する魔法まで、膨大な知識体系の集大成です。さらに、ここしばらくは地球製の書籍も大量に入ってきましたので、その蔵書量は数百万から数千万冊と言われています。
 ただ、その膨大な蔵書量から考えますと、世界樹の中の大図書室の施設容積があまりに少ないので、何らかの空間魔法によって蔵書スペースの拡張が行われているとも言われています。
 蔵書の多くが魔法関係の物という特殊性もあり、たびたび本が暴走するトラブルも起きているイルミンスール魔法学校の名所でもあります。
 以前の大掃除で、メインフロア以下の階層化しているフロアの探索と掃除が行われました。図書室と言うよりは下層フロアが別世界化していたことから、やはり何らかの特殊空間が本を保管するために世界樹の中に押し込められているようです。
 世界樹のやや下層部分に広がる大図書室のメインフロアは、入り口近くに貸し出し返却のカウンターがあり、その周辺は催し物スペースとなっていました。このスペースでのみ飲食も可能で、読書会などは主にこのスペースで行われています。
 魔法学校らしく、図書室のシステムも蒼空学園のような機械化された物とは一線を画しています。
 たとえば、書籍検索システムなどは、カウンターにある魔法紙に魔法の羽根ペンで書籍名を書くといった具合です。すると、魔法紙がひとりでに折りたたまれていって、折り鶴の使い魔となり、本がおかれている本棚まで案内してくれるという具合です。
 中央部は閲覧用のテーブルがならんだホールになっていて、生徒たちはそこで探しだした本を読みます。その周りには、放射状に背の高い書架がならんでいました。その高さは遥か見あげるほどで、まるで高い塀か壁のようです。そこに、みっしりと本が詰まっています。
 もともとザンスカールには有翼種のヴァルキリーが多かったため、平然と高い場所に本があります。魔法学校の生徒たちは、空飛ぶ箒などを使って高い場所の本をとっているようです。そのため、他校の生徒たちがたまさかやってきたりしますと、結構苦労します。その場合は、書籍整理のためにあちこちにいるゴーレムや、ハーフフェアリーの司書さんたちが手助けしてくれます。
 放射状に広がる書架は、先に行くと枝分かれして分類が細分化していく形です。はたして、その書架がどこまで広がっているのかは、把握している者は少ないと言われています。
「ええと、案内魔はどこへ行ってしまったんでしょう。困ったなあ……」
 空飛ぶ箒で飛んでいたフィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)が、案内の使い魔を見失って困っています。気を抜くと、迷ってしまう者も続出するのがイルミンスール魔法学校の大図書室なのです。そのため、月刊世界樹内部案内図の編集部が大図書室の特集をしてくれると聞いたとき、司書さんたちは大喜びしたのですが……。
「もう、なんだか、今日はうるさいわね」
 読んでいた本から顔をあげて、アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)がつぶやきました。
 大図書室の静かな環境は、読書好きのアゾート・ワルプルギスにとって大切なものです。それを破る不届き者は許せない存在です。
「で、この大図書室で、ココさんたちが行方不明になったというわけですのね」
「ええ。まあ、そういうことです」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に聞かれて、アラザルク・ミトゥナがうなずきました。
 月刊世界樹内部案内図のバイトとして大図書室を調べに来たゴチメイたちだったのですが、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)を初めとして、全員がみごとに遭難してしまったのでした。さすがに二度目だと聞いて、留守番役だったアラザルク・ミトゥナも苦笑するしかありません。とはいえ、世界樹の中での遭難は甘く見ると大変ですから、笑いごとではないのですが。
 それもあって、編集部ではすぐに捜索隊を募集したのでした。エリシア・ボックたちも、それに応募して大図書室にやってきたというわけです。ちょうど、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が忙しそうなので、暇潰しにはもってこいだったようです。
「アルも一緒なので、大事には至っていないとは思うのですが、よろしくお願いいたします」
「まっかせなさい。人助けですわ」
 アラザルク・ミトゥナに頭を下げられて、エリシア・ボックが胸を張って言いました。
 アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)も一緒なので、一応安心しているアラザルク・ミトゥナは、ここでゴチメイたちの帰還を待つつもりのようです。
「それでは、道案内、よろしく頼みましたわよ」
 キーマ・プレシャスバイト雇用券をひらひらさせて、エリシア・ボックが言いました。夏合宿のお宝探しで手に入れたお宝を使って、キーマ・プレシャスを助っ人として呼んだのでした。
「うーん、ボクも世界樹は不案内なんだけど、護衛ぐらいは務めさせてもらうよ。じゃあ、行こうか」
 そう言うと、キーマ・プレシャスとエリシア・ボックはアラザルク・ミトゥナの許を離れました。

    ★    ★    ★

「お腹減ったうさー」
「こらこら、図書室なんだから、あまり騒いじゃダメだぞ」
 ゴチメイたちの捜索を始める前から関係ないことを言い始めるティー・ティー(てぃー・てぃー)を、源 鉄心(みなもと・てっしん)が注意しました。
「ダメ兎に言っても、今さらですにゃー」
 無駄だと、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が呆れ顔で言います。
「どうせなら、このままここで昼寝をするというのは……」
「却下だ」
 サボろうとするスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)を、源鉄心が一蹴しました。
「とにかく、どこに行ったのか探……おや、あれは風紀委員会の面々かな」
 さて、どこから探そうかと周囲を見回した源鉄心が、天城 紗理華(あまぎ・さりか)たち風紀委員会の捜索隊の姿を目に留めました。
コンちゃんたちもいるにゃー」
 大神 御嶽(おおがみ・うたき)たちと一緒にいるコンちゃんメイちゃんランちゃんたちの姿を見つけて、イコナ・ユア・クックブックが言いました。
「どうやら、ゴチメイたちの迷子になった場所に心当たりがあるみたいだな。一緒に行って、損はないだろう」
 他にも同じ方向へと急ぐ物たちに気づいて、源鉄心が言いました。
 そちらは、禁書保管庫の方向です。
「団体行動にゃー」
 イコナ・ユア・クックブックにうながされて、スープ・ストーンとティー・ティーも源鉄心と一緒に移動を始めます。まして、大勢のミニいこにゃミニうさティーも一緒ですから、なんだか、民族大移動です。
「すいませんうさ、すいませんうさ。ちょっと通してほしいうさ」
 静かに本を読んでいる人たちを押しのけながら、ティー・ティーが進んで行きました。
「やれやれ。騒がしいこと。それにしても、先日減った分をなんとかしなければ……」
 椅子の後ろをすり抜けられて、『融合魔法とその触媒』という本を読んでいた娘が顔をあげました。実は、十二天翔が探しているコウジン・メレその人ですが、イルミンスールの制服を着て、白い髪を頭に巻きつけるようにして学生に変装しています。それにしても、一昨日から大図書室に忍び込んで何をしているのでしょうか。
「お腹、減っているんですかうさ?」
 コウジン・メレのつぶやきを耳聡く聞きつけたティー・ティーが、そう訊ねました。何を隠そう、お腹が空いているのは、ティー・ティー本人なのですが。
「いいえ。どうぞお通りください」
 愛想よくティー・ティーに言ってごまかしますと、コウジン・メレが源鉄心たちの行く方を見ました。そちらには、何やら三人の女の子が招き猫姿のゆる族キネコ・マネー(きねこ・まねー)に頭突きをしようとして、アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)に首根っこを掴まれて取り押さえられています。
「あの者たち、組成が違うか。ならば、減った分の補充も可能か?」
 メイちゃんたちを見たコウジン・メレが、すっくと立ちあがりました。カモフラージュのための丸い伊達眼鏡をつけてフードを被ると、そろりとランちゃんたちの方へ近づいていこうとしました。
「あのー、ここどこー?」
 ピッと、制服の裾を掴まれて、コウジン・メレが立ち止まりました。
「ええっと……」
 さすがにここで騒ぎを起こすわけにはいかないので、コウジン・メレが戸惑いました。声をかけてきたのは、川村 玲亜(かわむら・れあ)川村 玲亜(かわむら・れあ))です。
「お姉ちゃんと一緒に来たのにはぐれちゃって。それで、どこまで歩いても、本ばっかりでえ……」
 えぐえぐと涙ぐみながら、川村玲亜が言いました。迷ったと言っても、結局はどこかを一周してきて、中央ホールへ戻ってくるを繰り返しているわけですが。けれども、川村玲亜の姉の川村 詩亜(かわむら・しあ)の姿はどこにもありませんから、迷子になっているというのは事実のようです。
「ここは図書室ですよ」
 とりあえずまっとうな返事をすると、コウジン・メレはそそくさとコンちゃんたちの消えた方へと逃げるようにして立ち去ろうとしました。
「お姉ちゃん、どこにいるか知らない? ううっ、やっぱり、私が迷子になっちゃったのかなあ。それとも、お姉ちゃんが迷子? ねえ、どっちだと思う?」
 わけの分からない質問攻めにされて、コウジン・メレが辟易とします。とにかく迷惑だと、コウジン・メレはなんとか逃げだそうとしましたが、しっかりと制服を掴まれていて動けません。コンちゃんたちは、とっくに禁書保管庫の中に姿を消していました。
「ああ、見捨てないでー」
 今頼れるのは目の前の人だけと、川村玲亜が必死にコウジン・メレにしがみつきます。なんだか騒がしいやりとりに、自然と周囲の目も集まります。
「とにかく、ここにいれば大丈夫よ」
 手間取ったものの、コウジン・メレがやっとのことで川村玲亜の手を振り払って、コンちゃんたちの後を追って行きました。
「ああ、待ってー」
 川村玲亜は、急いでコウジン・メレの後を追いかけていきました。