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とある魔法使いと巨大な敵

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とある魔法使いと巨大な敵

リアクション


・Nicht ein Held sein

 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)がふらふらとした足取りで、巨大アッシュに近づこうとした時だった。
 目の前に小型マイクが落ちている事に気がついたさゆみは、拾おうと身体を屈ませる。
「こんな所にマイク……?」
 落ちているマイクは、最初に墜落した飛空挺に乗っていた吹雪が持っていた物で、さゆみはそんな事も知らずに拾い上げようとしたのだが……
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
 頭上から美羽の声が聞こえたかと思うと、さゆみを下敷きにして二人とも地面へと倒れる。
「痛た……って痛くない……」
「……私の方が痛いわ」
 下から聞こえた声に美羽は素早く離れると、起き上がるさゆみに対してひたすら平謝りをした。
「ごめんなさい。ごめんなさい。まさかクッションになってくれる人が居るなんて……」
「大丈夫?二人とも怪我してない?」
 アデリーヌが心配そうに美羽とさゆみに声を掛ける。
「私は大丈夫です。ちょっとお尻を打ったぐらいだし……」
 美羽はアデリーヌに気を使い大丈夫と強調する。一方のさゆみはアデリーヌの方を向くと笑顔で頷いただけだった。
「美羽! 大丈夫?」
 Sインテグラルナイトから降りたコハクが、美羽の元へと駆け寄る。
「あ……さゆみとアデリーヌも来ていたんだね。やっぱり二人もアッシュを心配したから?」
「そうよ……むしろ私達はアッシュをシメに……」
「え?」
 さゆみの口から物騒な言葉が聞こえると、コハクは聞きなおそうとしたのだが、さゆみはすでにコハク達を見てはおらず、後ろで起き上がり始めた巨大アッシュへと目線が移動しているのに気がついたのは、さゆみが突如大声でアッシュに対して叫び始めてからだった。
「死ねぇ!! 氏ねでもなく詩ねでもねぇ。死にやがれこの腐れアッシュゥゥゥ!!」
「ど……どどどどどうしたの? いきなり叫び始めて」
 豹変したさゆみを怖がってか、コハクは美羽をかばう様にお互いにくっつきあうと青ざめた表情でアデリーヌへと説明を求めた。
「ああ……アッシュが関係すると、彼女はトラウマで闇落ちをしてしまうまでになってしまったの」
 アデリーヌの説明になっていないセリフに美羽はがたがたと震え始める。
「たしか……前回の大食い大会で、料理にすらなっていないリゾットを出してた……」
「そ、それはアッシュが悪いのよ。アッシュが……アッシュが……アッシュが……アッシュが……」
「そ……それ以上アッシュの名前出さない方がいいんじゃないかな? アデちゃんさっきから顔色が悪いよ?」
「顔色が悪いのは元からですわ……」
 超低音で呟かれた言葉は、笑いすら起こらなかった。
 美羽がこの後どんな言葉をアデリーヌに掛けようか迷っていると、一台のトラックがアデリーヌ達の方へと近づいてくる音が聞こえる。
「おーい。こんな所に居たのか……」
 トラックの荷台に乗っていた優は、トラックから飛び降りるとトラックを運転していたコルセアに一言お礼を言う。
「いえいえ。吹雪を回収する通り道だったってだけよ。ワタシこそ全然手伝えなくてごめんなさい」
「回収、無事にできるといいな」
 「ええ」と、少しだけ頷いたコルセアは、「じゃあ、またね」と言って優達の輪から抜けて東へと走り去っていった。
 「あれ? 人数増えてないか? アデリーヌさんが居るって事は綾原さんも居るって事だよな」
「彼女はあの巨大アッシュを見てとうとう闇落ちをしてしまったわ」
「さっき落ちる寸前ってニュアンスだった気が……」
 美羽の鋭い突っ込みにアデリーヌは聞こえない振りをすると、さゆみが向かったであろう巨大アッシュの居る場所を指差す。
(すごいな。あの人もう巨大アッシュに近づいてる)
 優は、手を目の上に当てて遠くを見ると乱戦になっているであろう場所を見る。
「すごいなー。闇落ちすると走るスピードが速くなるなんてすごいなー」
 神代 聖夜(かみしろ・せいや)が、目を輝かせながらすごい。すごいと連呼する。
「そなたが闇落ちしても全然かっこよくはないのです」
 そう言いながら、陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)はジト目で聖夜を見る。
「とりあえず、こんな所で立ち話をしていても終わりはしないからセレンとセレアナをサポートしに行くぞ」
「そうね」
 優の言葉に美羽達は頷いたのであった。