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とある魔法使いと巨大な敵

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とある魔法使いと巨大な敵

リアクション

巨大アッシュがロープによって一度地面に倒れるのを見たハデスは、戦闘員に向かって
「巨大アッシュが倒れたぞ! 契約者達を近づけさせるな」
 そう号令を掛けたために、周囲はマシンガンの発砲音が途切れることなく響いていた。
「ちょっと……たしかにさっきは囮になるって言ったけどさぁ……」
 飛空挺の窓に跳ね返る小さな花火を見ながら、後ろに居るであろう人物へとネージュは呆れた声を出す。
「だって、私達魔力があまりないネ。それに、【火遁の術】とか使ったら森を燃やしてしまうかもしれないネ」
 ネージュの言葉に応えたのはロレンツォだった。
 ロレンツォとアリアンナは、巨大アッシュを地面へとこけさせた後すぐにアッシュの足をロープでグルグル巻きにしようと近づいたのは良かったのだが、ハデス率いる戦闘員に見つかってしまったため、やむなく飛空挺を乗り捨ててネージュと合流したのだった。
 どうしたものかと三人で考えていると、発砲音が少しづつ消えて行く事にアリアンナは気がついた。
「私達にも援軍が来たんですかね?」
 アリアンナとロレンツォは、盾にしていた樹の影からそっとハデス達が居る場所を覗き見た。
「はぁっ!」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、両手に持った青のリターニングダガーを投げ、戦闘員のマシンガンの軌道を逸らした上で【疾風迅雷】を使い、自身の蹴りで戦闘員のマシンガンごと戦闘員達を伸して行く。
「蹴り落としても、拾われたら意味が無いであろう」
 ハデスはそう言うと、戦闘員の一人が落としたマシンガンを拾い上げセレアナへと銃口を向け引き金を引いた。
 二・三発発砲音が鳴ったかと思うと、すぐに音が聞こえなくなる。
 セレアナが視界からずれると、何故かハデスの後頭部に先ほど投げたダガーが刺さっており地面に倒れていた。
「すごいですネ。セレアナさん」
 セレアナは、わーっと歓声が上がった方向を振り向くとロレンツォ達三人が拍手をしていた。
「まだ黒幕は倒していないのよ。あなた達」
 呆れた声で肩を竦めると、セレアナはハデスの頭に刺さったダガーを引き抜こうと歩き出そうとした時だった。
「良く寝たですぅ。ふぁぁぁ……あれ? なんで巨大化しているんだっけ? と言うかなんでこんな所で寝ているんですぅ?」
 エリザベートのとぼけたような声が聞こえる。
 その声に真っ先に反応したのは、巨大アッシュだった。巨大アッシュはエリザベートの方に顔を向けると、
「エリザベート!! やっと起きたな!! 貴様にやられた恨みは肉体が朽ちたとて魂は鮮明に覚えているぞ!! 恨みに満ちた呪詛を食らうがいい!!」
 唐突にアッシュの声で叫び出した。
「はい? 私あなたの事なんて知らないし記憶にもありませーーん。あ、アッシュは知ってますけどね」
「な……なんだと……この私がエリザベートに忘れられている……だと」
 エリザベートの言葉に相当ショックを受けたようで、巨大アッシュはがっくりと膝と両手が地面に着くのも構わずに深く落ち込んだ。
「隙ありっ!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が3−D−Eを使い、近くの樹から巨大アッシュのうなじへと飛び降りると、首元へパンチを入れるが中に居る黒幕には効果が無いと感じられた。
「セレン! 優達が来たわ。今のうちに少しでもダメージを入れて!」
 下から聞こえたセレアナの声にセレンは、「解った!」と一言言うと、別の弱点を突こうと移動したのだった。

「くっ……おのれ、今回のところはこれで許してやろう! 覚えておけよ!」
 気絶から気がついたハデスは、立ち上がると頭に刺さったダガーを投げ捨て【戦略的撤退】を使い戦闘員を見捨てて一人さっさと戦場を離れ始める。
 逃げるハデスを追いかけようとネージュはしたのだが、セレアナに制止され巨大アッシュの方へと顔を上げた。
 と、そこへ二つの影が近くの樹から巨大アッシュへと移るのが見えた。
「セレン、遅れてすまない。加勢に来た」
 巨大アッシュの腕に降りた優と聖夜は、セレンを見ると大きく頷いた後巨大アッシュの両膝裏や両肘を狙って攻撃を開始する。
「このカスタマイズされたアッシュには痛覚なんぞ持ち合わせては居ない。そんな所を攻撃しても無駄だ!」
 勝ち誇ったような声で巨大アッシュは笑うと、三本目の樹を引き抜きセレン達を振り払おうとでたらめに両腕を動かした。
「どうすれば……」
 急所を攻撃するのを諦め始めた優は、一度地面に着地すると同じく攻撃をやめたセレンを見る。
「とっておきを使用するしかないわね」
 セレンは巨大アッシュを見上げると、次にパートナーのセレアナの顔を見る。
 セレアナは、セレンの決断に頷くと二人同時に【タイムコントロール】の詠唱へと移る。
「……と言う事は、俺達はセレン達の護衛か」
 詠唱に入った二人を見ると、優は野分の柄を持ち直すと巨大アッシュの足元のアキレス腱に狙いを定める。
「それは必要ないわ……私の歌であのアッシュを怯ませるから」
 ひょっこりと現れたさゆみが優の行動を遮るように言葉を投げかけ、どす黒いオーラを纏わせながら、さゆみは振り返った優へと不気味な笑みをつくる。
(ひぃっ……!)
 さゆみの笑みを見ると、背筋が一気に冷たくなった優は戦闘態勢を解くと、すんなりと場所を譲った。
 場所を譲られたさゆみは、優に一言お礼を言うと手に持ったマイクを通して巨大アッシュに【悲しみの歌】と【恐れの歌】を歌い始める。
 歌は棘を含みながら巨大アッシュへと響いて行く。
 巨大アッシュは最初は豪快に暴れていたが、徐々に歌の効果が出て来たのか樹を振りまわすキレが落ちていき、五分ほどすると完全にとはいかないが攻撃性を失っていった。
「今だ!」
 両耳を指で塞いでいた優は、セレン達の詠唱が完了した事を目で見ると二人に向かって合図を言う。
「「【タイムコントロール】!」」
 二人の両手が前へと突き出ると、突如巨大アッシュを取り囲むように蒼いレーザーが地面から天へと延びる。レーザーで囲まれた空間は無数の時計が出現し、中央に出現したひときわ大きな時計は、時を刻む音を鳴らしながら針が逆回転を始める。
 短針と長針が十二を差した時、ポーンと時を鳴らす鐘が一つ鳴る。
 鐘が鳴ると、蒼いレーザーは消え巨大アッシュは森へと戻ってくる。
「な……なんで……効いていないなんて……」
 【タイムコントロール】で老化させたはずなのに、さっきとちっとも変っていない巨大アッシュを見てセレンとセレアナは絶句する。
「時間すらも持ち合わせてはおらぬわ!! ………煩いハエ共め。この街ごと消えるがいい!」
と、巨大アッシュはそう言いながら雄たけびをあげると、閃光を放ち爆発した。