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調薬探求会との取引

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調薬探求会との取引

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 山中。

「……ったく、何なんだ。こんな夜中に騒ぎを起こしやがって」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はかなり苛立っていた。そもそも怒って当然である。
「怒りは分かりますが、落ち着いて下さいな」
 リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は自分の言葉では怒りを収める事は出来ないと分かりつつも宥めの言葉を発した。
「あぁ。あの黒亜ってヤツを捜していたところだったな。この山の奴らとは前に酒を飲み交わした仲の奴もいる。とにかく見付けて覚悟のほどを見せてもらおうか」
 シリウスはこの山での花見を思い出しつつ目の端に怖い光をちらつかせたと思ったら歩く速度を上げ、リーブラを引き離した。
「……無罪放免とはいきませんが……怒ったシリウスは容赦をしませんし」
 どうなることやらとリーブラは先を行く背中を見つめつぶやいた。
 そんな時、
「おい、相棒」
 リーブラが付いて来てない事に気付いたシリウスが振り返った。
「あ、はい」
 急いでシリウスの元に駆けつけ、再び二人での黒亜捜索を再開した。

 捜索開始後、しばらく。
「おい、どうした?」
 シリウスは往生している妖怪達を発見し、声をかけた。
「何が起きたのか分からないんですが、宿で使う食材を採った帰りにこの人に会って放っておけなくて宿まで連れて行こうと何とかここまで連れて行く事は出来たんですが……」
 一人の妖怪、背中に籠を背負った座敷童の少女が困った顔で事情を説明した。
「雪女ですわね。体が溶けていますわ」
 リーブラは幹にもたれている雪女に顔を向けた。体中から湯気を発散しつつ徐々に溶けていっている。放置すればいずれは溶け消えてしまうだろう。
「痛い……熱い……」
 雪女はか細い声で苦しみの言葉を繰り返していた。
「間違い無いあいつの仕業だな。気休め程度にしかならねぇが少しは楽になるはずだ」
 シリウスは痛みが少しでも和らげばと『ナーシング』を使った。
「……あぁ、痛みが…………熱い」
 効果はあったのか雪女は少し和らいだ表情になるもすぐに熱に浮かされるのだった。
「ありがとうございます。でも……」
 座敷童は礼を言うもまだ安心出来ない。
「分かっている。その前にお前の両手も治療させてくれ」
 シリウスは雪女を少しだけ後回しにして座敷童の両手を指さした。
「あ、はい、お願いします」
 雪女を支え運んだせいで雪女から発散される熱で火傷していた事に今更に気付き、急いで両手を出した。シリウスの『ナーシング』での治療を受けて事なきを得た。
「ありがとうございました」
 座敷童が礼を言った時、
「どうしたの?」
 同じく黒亜捜索をしていた美羽が現れた。
 そして、
「あ」
 美羽と座敷童は顔を合わせるなり思わずハモった。
「山にいたんだね。今、ここは危ないけど怪我とかしていない?」
 美羽は親しげに話しかけた。なぜなら仲良くなった仲居の座敷童、睡蓮だったから。
「今、治療して貰ったところです。心配してくれてありがとうごうざいます」
 睡蓮は治療を終えたばかりの両手を見せながら答えた。
「……一体、何があったの?」
 美羽は雪女に気付き、顔色を変えた。
「実は……」
 睡蓮はシリウス達に聞かせた話をした。
「許せないよ。絶対にやめさせなきゃ。でもその前に溶けるのを何とかしないと。この様子だと宿に着く前に……」
 話を聞き終えた美羽は憤りを感じつつ雪女を見るなり辿り着くまでに溶け消えると可能性が高いと読んだ。
「その通りだ。確か解除薬を散布している奴がいたはずだ。知らせてこっちに来て貰った方がいいな」
 シリウスは他の捜索者の事を思い出した。
「そうですわね。すぐに知らせますわ」
 シリウスの言葉を受けてリーブラがすぐさま知らせを入れた。
 その間、
「来るとしてもそれまで二人だけにしておくわけにはいかねぇから誰か残った方がいいな」
「それなら私が残るから二人は捜索に戻って」
 シリウスと美羽はこれからの事を相談していた。妖怪の事は心配だが黒亜捜索という仕事も放置出来ないという事で睡蓮と知り合いである美羽が残る事に。
 話がすぐにまとまった時、
「すぐに駆けつけるそうですわ」
 知らせ終えたリーブラが会話に割って入った。
「皆さんありがとうございます」
 睡蓮は丁寧に四人に頭を下げ感謝を示した。
「リーブラ、オレ達は捜索に戻るぞ」
「はい。後の事はお願いします」
 シリウスとリーブラは黒亜捜索に戻った。リーブラはちらりと雪女に視線を注いだ後美羽に言葉をかけた。
「うん。任せて!」
 後の事をしっかり引き受けた美羽は去るシリウス達を見送った。
 この後、美羽は助けが来るまで睡蓮達を守った。来た後はローズに任せて黒亜捜索に戻った。雪女は救われ安全のためにと睡蓮共々ローズ達に付き添われながら宿に避難したという。