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真冬の空と落ちたドラゴン

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真冬の空と落ちたドラゴン

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第二章
料理は火力!

 急ごしらえの砦の中。外から喧騒が響いてくる。
「何だろう。あっちは賑やかだな」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は料理の手を止めてそちらを向いた。
 騒ぎ具合から察するに、敵に襲われているわけじゃないようだ。おとなしくしろ、とか、そっちしっかり持ってろ、とか聞こえてくる。
「親はともかく、ドラゴンの子は随分元気な様子。結構なことですな。ところでトマス殿」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)は大剣を担ぎ、トマスの隣で話しかけた。
「今更ですが、『魔物を料理する』とはそのままの意味だったのですな」
「そう言ったろ?」
「私はてっきり、魔物を駆逐するほうの意味かと思っておりました」
 その通り、彼らは今、鋭意料理中である。
 倒された獣型モンスターを運び込み、魯粛の指示のもと、ドラゴンのための料理を作っているところだ。トマスは湯気を立ててぐつぐつ煮込んでいる中華鍋の前に立ち、鍋の中をぐるぐる掻き混ぜている。
 魯粛は愛用の剣を包丁に見立て、大きな獣たちを職人さながらにさばいている。
「魯粛! こんなもんでいいか? いい感じの大きさに仕上がったと思うんだけど」
 一方、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は魯粛がブロック分けした肉を細かく切り分けて、踏んだり揉んだりして圧着させていた。ドッグフードならぬドラゴンフードを作ろうとしているとのこと。
「ふむ、いい具合ですな。では先ほどお教えした通り、火を通しましょう」
「了解だ。強めの火にかければいいんだな!」
「その通りです。料理は火力、ですぞ!」
 テノーリオが爆炎波のスキルを発動。料理場が一気に暖かくなる炎が生み出され、こねられた肉が一瞬でいい感じに焼きあがった。
「いい具合です! その調子でばんばん焼きましょう! 中途半端な火力は料理の質を落としますぞ!」
「おっしゃあ! もういっちょ焼くぜ!」
 ぼん、と香ばしい香りの肉料理がどんどん完成していった。

 しばらくして、ドラゴン親子が無事運び込まれた。
 今までサイコキネシスみたいなものを掛けられたことがないのだろう、身体が勝手に浮かぶ感覚にパニックを起こした子供ドラゴンはやや機嫌が悪い様子。トマスたちが料理した肉とスープが置かれているが、手は付けられていない。
 そして今も、親ドラゴンの治療に当たっている契約者たちを「少しでも変なコトしたらぶっ飛ばすからな」みたいな目つきで睨んでいる。
「心配いりませんの!」
 と、子供ドラゴンの後ろから少女の声が掛かった。
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、隣に契約したドラゴンを連れてやって来た。そのドラゴンを見て、子ドラゴンの表情が少し和らいだように見えた。
「そんなに睨まなくても、わたくしたちはあなたを襲ったりしませんの! ほら、サラダも友達、ですわ!」
「い、イコナ、気を付けるでござるよ。かぷっとやられたら終わりでござるよ」
 サラダ、と呼ばれたドラゴンの影からスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)がそっと囁いた。
「平気ですわ、スープ。この子ともきっと仲良くなれますわ」
「そうさ。俺たちが敵じゃないってことを知ってもらえればきっと、心を開いてくれる」
 セルマ・アリス(せるま・ありす)が言う。彼はドラゴンの目の前で武器を全て置いた。敵対心がないことを示すつもりだ。
 そしてイコナの隣のサラダと一緒に、そっと歩み寄る。
『落ち着いて。俺たちは君と、君のお母さんを助けに来たんだ。絶対助ける。約束する』
 セルマが龍の咆哮を使っての意思疎通。上手く伝わったようで、先ほどよりも表情が柔らかくなったように見える。
 一方、サラダは子ドラゴンの前に置かれた肉料理を一切れくわえ、もぐもぐと食べ始めた。毒ではないことを示しているようだ。
 子ドラゴンはまだ困惑しているようだが、サラダに導かれるように、そっと料理を食べ始めた。
「ここは俺たちに任せろ。うまくなだめてみせるさ」
「親さんの方は任せましたわ。大丈夫、食べられてしまっても骨は拾ってあげますわ!」
 と、やや離れた位置で待機しているティー・ティー(てぃー・てぃー)に向かって言葉と一緒にガッツポーズを見せた。
「え! 縁起でもないこと言わないでくださいよ〜!」
 警戒心もけっこう解けたようだ。この隙にティーとパートナーの源 鉄心(みなもと・てっしん)が親ドラゴンに近づいた。

 鉄心はじめ、駆け付けた契約者たちが疑問に思う事。それは、なぜパラミタでも最上位の実力者たるドラゴンがこんな目にあったのか、ということ。
 彼のパートナーのティーが持つインファントプレイヤーのスキルならば、言葉を介さずに意思疎通ができる。条件として、術者に対して敵意を持っておらず、且つ意識がある状態で目を合わせること。
「容体は、どうですか?」
 ティーは、親ドラゴンに食べ物を食べさせているミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)に話しかけた。
「意識はある。武装をすべて解除して、いろいろな人たちの歌スキルも使ってもらってやっと敵意がないことを分かってくれたみたい。こうして食べ物を受け取る気になってくれたよ」
 見れば親ドラゴンは、力の入っていない目をしているが、もぐもぐと料理を食べている。どうやらここに辿り着くまでの苦労は相当な物のようだ。
「源さんに、ティーさんね? これから、意思疎通をするのね?」
 二人は頷いた。
「大丈夫だと思うけど、いざとなったら逃げるのよ」
 また、二人は頷いた。
 そしてティーはドラゴンの目を覗きこみ、スキルを発動させた。
 言葉を介さない分、意思疎通の速さは高速。数秒して、ティーが一度戻ってきた。
「どうだった?」
「えっと……住んでいた地域で食べ物が獲れにくくなって、違う地方まで食べ物を探しに来たそうです。寒くなるとたまにあることらしいんですけど……」
「へえ、そうなのか」
「で、ドラゴン社会にもマフィアというか、荒くれ者みたいなのがあるみたいで……」
「マフィア!?」
「はい。その縄張りに入っちゃうと、問答無用で攻撃してくるそうです。どうも三体くらいのドラゴンと戦って、遠いところからずっと逃げてきたみたいで……」
「満足に食料が獲れていない状態で、マフィアドラゴン三体と空中戦、か。それで逃走中に力尽きて墜落、今に至る、という感じかな」
「ん……その認識で間違いないようです」
「よし、大体分かった。ティー、ドラゴンに住処に帰れるように協力したい、と伝えてくれ」
 ティーは頷くと、再びドラゴンと目を合わせた。するとすぐに、ドラゴンが目を閉じた。
「感謝する、だそうです」
 鉄心たちは安心したように微笑んだ。
「子ドラがおかわり希望だ! 済まないがもう一食作ってくれ!」
 よしきた。セルマの言葉に、調理場の方から男らしい返答が返ってきた。