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【逢魔ヶ丘】結界地脈と機晶呪樹

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【逢魔ヶ丘】結界地脈と機晶呪樹

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第2章 向かう道


 『封じられた旧集落跡』に向かう一団も、準備を始めていた。
 長老代理で、今回の道案内役を務めるマティオン・ルマ以外に、彼に従う住民の守護天使は4人程であった。その中には、自警団の班長の一人であるガーテアもいた。マティオンの話ではいずれも腕の立つ「精鋭」だという。
「竜尾蔦を侮ることはできません。滅多な者を近付けて怪我人を増やすわけにもいかないし」
 マティオンは淡々と言った。
「また、『丘』の前面戦線の兵を減らすわけにもいかない……数で協力が不足しているとは認識しているし、申し訳ないが、何卒了承していただきたい。
 もしも首尾よく集落に入ることができて、万が一捜索や発見物の運び出しに人手が要りそうなら、第2陣を呼ぶ準備は整えています」
「人手だけなら警察からも出せます。どうぞ心配なさらず」
 空京警察から派遣されてこの本部の長を任されたという捜査官が、気遣うようにそう言っていた。

「僕たちも、気を付けて行かないと」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は『宮殿用飛行翼』を装備しながら呟く。
「現地に行くまでにあまり消耗せずに行きたいところだけどね」
 だから歩いていくのではなく、飛行翼を使うことを選んだのだが、重力結界の影響はもうすでに感じている。
「そうですね……慎重に行きましょう」
 パートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)は守護天使なので、ほとんど不自由は感じない。今回はいつもと違い、彼が北都より先に立つ。機動性を考えるとそういうことになる。北都に【禁猟区】を施したハンカチを渡すと、先に翼を広げて空へと舞いあがった。

「我々は上から参ります。地上の道はところどころ分岐がありますが、基本的に上方へと向かう道を行けば迷いません。
 下から我々の位置も確認してください」
 そう言うと、マティオンは飛び立った。彼も、彼に続くガーテアら若い天使たちも、それぞれに剣や槍といった得物を携えている。竜尾蔦との避けられぬ戦いをそれぞれに想定しているのだ。
 クナイは彼らのあとをついて飛びながらも、重力結界の影響でどうしても遅れていく北都の方を、時々振り返って確認していた。

 やがて、守護天使たちの眼下に、目的地らしい、塔のように細く高い山の頂上部が見えてきた。
 草木の緑、茶色の岩肌が混在する仲、その上にこんもりと、明らかに他とは違う色彩の「緑」の一群がある。
 くすんで暗い、そして深い緑色。あたかも岩窟に潜む、眠る竜の鱗を思わせる色。
 それは、初めて見るクナイにも分かるほど、他から浮いた異質な色合いだった。

 その葎が、ぐにゃりと動いた。



「あれが『封じられた旧集落跡』……?」
 『水雷龍ハイドロルクスブレードドラゴン』を駆るクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は、守護天使たちと同様に空中から近付いていった。結界の影響はやはり、竜の能力にも及んでいる。速度も動きの切れも、いつもより鈍い。
 クリストファーの目に映ったのは、何とも形容しがたい、ぐにゃぐにゃもじゃもじゃと生え繁る緑色の、木とも草ともつかない植物の一叢。
 その一部がぐにゃりと動いた。
「!!」
 動物のように、何か軟体動物の腕か何かのように、一本のそれが動く。太い蔓だった。その先端は、空中にいる守護天使たちの一人を狙ったようだった。標的とされたその天使は、素早く身を翻して躱す。だがその一撃を皮切りに、まるで眠っていた者が目覚めたかのように、もじゃもじゃに集まっていた蔓たちがほぐれ、ざわざわと蠢きだす。
「相当な数だな……」
 『小型飛空艇オイレ』からそれを見たクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)も、厳しそうな表情で呟く。
 クリストファーとクリスティーが空中から旧集落跡に近付いたのは、内部に入るためというより、内部に入る仲間たちの援護のためだった。空中で蔦の気を引けば、地上から旧集落内を目指す者たちへの蔦の注意が削がれ、それだけ突入しやすくなる。
(ギリギリの高度を見極めないと……)
 クリストファーはドラゴンを駆り、囮となりながらギリギリで攻撃を躱せるだけの位置を見つけようとする。ドラゴンも普段通りの俊敏さは出せない以上、慎重に慎重を重ねなくてはならない。ドラゴンはクリストファーの捌きに従い、高度を下げて蔦に近付く。すかさず飛んできた蔦の先を、ドラゴンは間一髪で頭を上げて避けた。即座にクリストファーは立て直して高度を上げ、蔦の追撃を逃れる。
 蔦の長さも考慮に入れなくてはならないし、1本の蔦にだけ気を取られていては他の蔦にやられる。かなり神経を研ぎ澄ませなくてはならないと、改めて意識して、クリストファーはドラゴンの背で姿勢をただした。



 竜尾蔦の攻撃を認めると、クナイは身を翻し、遅れてやってくる北都の方へと馳せ飛んだ。北都は高度を大分下げ、山頂部の地面の上すれすれのところを飛んでいた。
「降りた方がよさそうですね」
「そうだね。上で戦っている人もいるみたいだけど……」
 言いながら、クナイと並んで地面に降り立ちながら、北都は上空を見上げた。クリストファーの駆るドラゴンや、マティオン達守護天使の戦士らが、空中から蔦を相手に戦っている。
「攻撃を分散させた方が得策だよね」
 蔦は次から次へと、うねり、波打ち、攻撃を繰り出している。それを一ケ所に集中させては被害が大きくなりそうだ。
「分かりました。攻撃をお願いします、北都」
 そう言うと、クナイは【龍鱗化】で防御力を上げ、北都の前に立つ。防御を担当するクナイに背で守られながら、北都は【ホワイトアウト】を放った。