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白い機晶姫との決戦! 機甲虫・イコン型を撃墜せよ!

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白い機晶姫との決戦! 機甲虫・イコン型を撃墜せよ!

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三章 白の女王


 イコン部隊が護衛のナイトと戦闘を繰り広げる間、4機のイコンが【ホワイトクィーン】と対峙していた。
 唯斗とエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が駆る魂剛、富永 佐那(とみなが・さな)エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が搭乗するザーヴィスチ、風森 巽(かぜもり・たつみ)ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が乗るサイクロン遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)が操るアンシャール。計4機のイコンを前にして、【ホワイトクィーン】が拳を構える。
「人間……我々の邪魔をする気か?」
 純白のイコン型機甲虫【ホワイトクィーン】の形状は、アンシャールに酷似していた。色合いや武装の差はあるが、アンシャールを模倣しているのは間違いないだろう。
 ホワイトクィーンに搭乗する白い機晶姫――サタディ・サタディ(さたでぃ・さたでぃ)が、厳かに告げた。
「私たちには、驕り昂ぶった人間に警告する義務がある。己自身の権威と戦闘能力を強化するために他者の墓を荒らす者に、未来など無い。
 お前たちが我々の邪魔をすると言うのなら……容赦はせん!」
 言い終えると同時、ホワイトクィーンの機体からエネルギーの奔流が吹き荒れた。青く輝くエネルギーの渦がホワイトクィーンの全身を球状に覆い尽くし、バリアと化す。
 ホワイトクィーンは背面に装備した翼を広げると、エネルギーを噴射。こちらに突っ込んできた。
「己の行動を省みよ、人間!」
 ホワイトクィーンに武器は無い。右の拳を振り上げ、4機のイコンに殴りかかる。
 唯斗は咄嗟に前に出ようとした。が、その瞬間、ホワイトクィーンは各部スラスターをフル稼働させた。拳が魂剛の腹部装甲に突き刺さると同時、超高速状態に突入したホワイトクィーンが強引に制動をかけ、直角移動を連続強行。1秒足らずの瞬間に、4機全てに拳を叩き込んだ。
 ――無茶にも程がある軌道だった。あのような軌道をしては、ホワイトクィーン本体にかかる負荷は恐らく30G以上……下手をすれば40Gはかかるだろう。人間が真似をすれば、良くて半身不随。最悪の場合、死ぬ。
 機晶姫だから出来る芸当か? いや、覚悟が無くては出来ない芸当だろう。
 相手の背負う覚悟を心の底から理解した歌菜が、サタディに呼びかけた。
「聞いて、サタディ……! 貴女たちの眠りを妨げてしまった事、略奪をしてしまった事……謝って、それで済む話ではないです。けれど、復讐は何も生みません。
 サタディが復讐して、それで……何が残るの……!?」
 歌菜の声には真摯な響きが籠もっていた。歌菜の魂が込められた言葉を聞きながら、唯斗は思う。
 サタディは、大廃都から機晶姫が奪われたことに怒っている。それに関しては疑いの余地は無いだろう。
 だから、唯斗はこう考える。サタディと正面からぶつかって、謝って――その上で外の世界に連れ出してやるしかないのだと。
「サタディ、遺跡に引き篭もってる時間は終わりだ! その白いのをぶった斬って、外に連れ出してやる!」
 魂剛は【神武刀・布都御霊】を超大型剣へと変形させると、スラスターを噴射。天に駆ける。
 勢いそのまま、魂剛は布都御霊を振り下ろす――。

 魂剛の攻撃に合わせ、佐那はザーヴィスチを加速させた。
 背面スラスターからエネルギーを噴射し、ホワイトクィーンとの距離を一気に詰める。
「効かぬッ!」
 ザーヴィスチが振るう大型超高周波ブレードが、ホワイトクィーンのバリアに接触。稲妻と振動が迸り、ブレードが弾かれる。
 だが、それで十分だ。今の一撃でホワイトクィーンを覆うバリアの性質は知れた。
「バリアの防御力はなかなかの物ですが――攻撃能力は無いようですね!」
 ホワイトクィーンのバリアは、機体全面を覆うようにして球状に展開されている。防御能力はそれなりのようだが、触れた物を蒸発させるような攻撃能力は備えていない。
 弾かれた勢いを利用してザーヴィスチがその場を離脱、直後に魂剛が布都御霊を振り下ろした。
「一刀両断!」
 重力落下を活かした重い一撃がホワイトクィーンのバリアに激突する。
 防御能力に優れたホワイトクィーンでも超大型剣による攻撃は防ぎ切れない。超重の一撃によって、バリアごとホワイトクィーンが地面に穿たれた。
「ぬぅっ……!」
 衝撃で地面が陥没し、ホワイトクィーンが膝を突く。バリア自体は健在だが――相殺し切れなかったダメージが機体内部に浸透しているようだった。
「負けぬ……! 私は、負けられぬのだ……!」
 悲鳴を上げるかのようにホワイトクィーンの機体各所から紫電が迸る。外部スピーカー越しに伝わったサタディの声は微かに震えていて、しかし、それでも彼女は屈しない。
 サタディの意志に応え、ホワイトクィーンが立ち上がった。過負荷で機体が軋んでいるにも関わらず、ホワイトクィーンは拳を構える。
 恐るべき執念だった。相手の執念を汲み取った佐那は目を伏せると、静かに語りかけた。
「……サタディさん。一つ、どうしても解せない事があります」
 以前から抱いていた疑問――。
 佐那は、それを口にした。
「なぜ、最初に機甲虫の修理を依頼したのですか? それも、貴方が憎悪するアルト・ロニアのヨルクさんに。
 修理する手法を伝えたのであれば、自らでも修理は可能だったはずです――」

 ザーヴィスチのサブパイロットを務めるエレナも、佐那と同じような疑問を抱いていた。
 なぜ、修理技師も多く居る筈のアルト・ロニアの中で、サタディはヨルクを選んだのだろうか。
 ヨルクの様子がおかしい事も薄々勘付いている。そう……何かが、論理的に破綻しているのだ。
(おかしいですわ。何かが……そう、何かが!)
 エレナは、サタディの説得を考えてはいない。あの意志の強さは、同じ意志の強さによってのみ受け止める事が出来る。
 知らぬは罪。そうかも知れない。知らずの内にサタディのテリトリーを侵したというのも事実だろう。
 しかし、アルト・ロニアの人々に殺されなければならなかったという理由があったとは思えない。何も知らぬ人々に牙を剥けると言うのであれば、刃を交える事にエレナは躊躇しない。
 そう思っていた。思っていたのに――
 ――なのに何なのだろうか、この感覚は。何かが、何かがおかしい。微妙に歯車が噛み合っていない感覚を前にして、エレナはとある可能性に思い付いた。
 洗脳。何者かにサタディが操られているのではないか。
(違う……違いますわ。洗脳とは違う、何かが……!)
 サタディが精神を操られている訳ではない。洗脳されているのだとしたら、【ディテクトエビル】が反応したはずだ。
 だとすると――
 エレナは気付いた。これは洗脳ではない。サタディが持つ本来の感情が、異常なまでに増幅されているのだと。
 1の憎しみを10の憎しみに増やすように。10の憎しみを100の憎しみに増やすように。
 精神操作とは違う。悪意によって成されるものではなく、対象が持つ本来の感情を増幅するだけの――特殊な精神干渉だ。
 それは、通常であれば【ディテクトエビル】でも分からない類の精神干渉だ。だが、戦闘によってサタディと『その背後にいる何者か』の感情が極限まで増幅された事により、遂に【ディテクトエビル】に看破されたのだった。
 真実に到達したエレナは、イコン各機にメッセージを送信した。
「各機に伝達! 何者かによって、サタディさんの感情が増幅されている可能性がありますわ!」