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白い機晶姫との決戦! 機甲虫・イコン型を撃墜せよ!

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白い機晶姫との決戦! 機甲虫・イコン型を撃墜せよ!

リアクション


五章 フォーカード


 ――大廃都、ホワイトクィーンの周辺。
 閃電に乗る岡島 伸宏と山口 順子は、味方のイコンと共にダイヤナイトと激しい戦闘を繰り広げていた。
「閃電へ! そちらにダイヤナイトが向かっていますわ!」
 僚機のウィンドセイバーに乗る梓からメッセージを受信。順子が閃電のレーダー、赤外線探知、更には目視を駆使して敵機の位置を探る。
「伸宏君、1時方向にダイヤナイト本体確認。9時方向と11時方向にビットが居るわ」
 燃え盛る炎と針葉樹の陰に隠れ、ダイヤナイトが迫っていた。
 伸宏は閃電の背中に装着された飛行ユニット【ガルーダ】から推進エネルギーを噴射すると、一気に加速。ダイヤビットから放たれる二条のレーザーから逃れる。
「ったく、厄介だぜ! ウィンドセイバー、あのビットを破壊できるか!?」
「任せろ……!」
 ウィンドセイバーを駆る亮一がウィッチクラフトライフルを撃ち放ち、ダイヤビットを破壊していく。
「そらよっと!」
 ダイヤナイトの注意が逸れた隙を見計らい、伸宏はバスターライフルの引き金を引く。重厚な反動を伴って発射されたライフル弾がダイヤナイトの胴体を貫き、爆散させる。
 ……チチチ……チチチ……
 通常型の機甲虫が瞬時に合体、新たなビットを構築。ダイヤナイト本体の損傷も同様に修復され、ナイトが立ち上がる。
「やっぱ、通常型の機甲虫を叩くしかねーかっ!」
 幾ら攻撃を浴びせても、通常型の機甲虫がナイトを修復する。となれば、まず通常型の方を殲滅しなければ勝ち目は薄い。
 戦闘はもはや完全に消耗戦の域に達していた。周囲を飛び交う通常型の機甲虫にバスターライフルを浴びせていく伸宏に、順子が告げた。
「エネルギー残量、40%よ」
「40%か! ちぃとキツいな! だが、ぎりぎりまでやらせて貰うぜ!」
 伸宏が味方イコンと協力して周囲の機甲虫・通常型を撃墜していく中、順子がちらりとホワイトクィーンの方を見て言った。
「サタディさんはなんかもう、手段と目的が入れ替わっちゃってる感じがするわねぇ……自分は人間サイズなんだから、遺跡で騒ぎを起こしている間にこっそり街に行って相手に接触を図るとか、目立たないやり方は沢山有ったと思うんですけど」
「相手には相手の思惑があるんだろう! 今はまず、ナイトをどうにかしなくちゃな!」
 何とかレーザーを回避し続けているが、そろそろ限界だ。ここ数分に至ってはレーザーと何度も掠っており、閃電の追加装甲【スルガアーマー】の大半が溶け落ちてしまっている。
(ここが正念場ってヤツだな……!)
 機甲虫・通常型の数はかなり減ってきている。殲滅まで、あと少し。あと少しなのだ。
 伸宏は気合を入れ直すと、バスターライフルを発射。着実に機甲虫を撃墜していった。

「……相手の手の内は暴いた。一気に仕掛ける」
 プラズマライフルを撃ち放った柊 真司はゴスホークを最大加速させ、ダイヤナイトへの接近を試みた。
 これまでの戦闘で、真司はダイヤナイトの戦闘方法を理解していた。普段はダイヤビットで遠隔攻撃を仕掛け、攻撃を受けたら機甲虫・通常型で修復、戦闘を続行する。厄介な敵だが、結局のところは数に有無を言わせているだけに過ぎない。修理用パーツである機甲虫・通常型の数が尽きたら、ダイヤナイトは単なるビット搭載機なのだ。
 ダイヤナイトの完全破壊を狙うとしたら、今がまさにその時だ。契約者たちによる破壊により、機甲虫・通常型の数は激減している。ダイヤビットの構成部品となる機甲虫も底を尽き、最早ビットの新規製造は不可能となっていた。
 ――それはつまり、ナイト本体の修復も不可能という事だ。
「気を付けて、真司! 相手が妙な動きをしているわ!」
 リーラの警告が発したのと時を同じくして、ダイヤナイトが奇妙な動作を始めた。周囲に浮遊するダイヤビットを掴むと、それらをこちらに投げてきたのだ。
 ダイヤビットは円形だ。これまでは円の中心部からのみレーザーを照射していたが、今この瞬間に至って更なる機能を発揮していた。なんと外縁部からレーザーが発振され、円を描くようにして光の刃が発生したのだ。
「切り札を隠し持っていたか……!」
 鋭い回転を見せながら襲いかかる光円の刃を前にして、真司は決断を迫られた。
 避けるべきか。それとも、突っ込むべきか。
 瞬時に決断を下した真司は、ゴスホークを更に加速させた。プラズマライフル内蔵型ブレードにパイロキネシスの炎を纏わせ、ヴェルリアに指示を出す。
「ヴェルリア、レーザービットを頼む!」
「了解。レーザービット展開。目標、敵遠隔操作兵器」
 急速に視界が後方に流れていく中、ゴスホークからレーザービットが射出される。ただし、周囲に射出したのではない――前方へ射出したのだ。
 迫り来るダイヤビットがレーザービットと激突し、爆発を引き起こす。レーザービットを盾代わりにする事で、直撃を防いだのだ。
「真司、来るわ!」
「分かっている!」
 爆炎の中からダイヤビットが回転鋸のように迫り来る。真司の【ディメンションサイト】が彼に閃きを与え、ゴスホークに華麗な舞いを踊らせた。
 【銃舞】――舞い踊るかのような動きによってビットを紙一重で避けていく。直撃軌道のビットに対しては炎を纏わせたブレードで振るい、溶断する。
「僚機へ、援護を頼む!」
 味方イコンに手早くメッセージを送ると、真司はゴスホークのリミッターを解除した。凄まじい過負荷に機体が悲鳴を上げ、真司の身体に極度のGが降り注いだ。
「ぐ……うっ……!」
 躊躇なく、真司はバリアを展開。ゴスホークにエネルギーの障壁を発生させると、ブレードを振りかぶった。
 ゴスホークの俊敏なる動きに応じ、ダイヤナイトがビットを前面に展開する。ビット全体に光が瞬き、バリアと化してナイトを包み込んだ。
 どうやら、あのビットには防御能力もあるようだ。だが、最早関係ない――。
「――切り札を切らせて貰う!」
 ファイナルイコンソード。目にも留まらぬ斬撃が繰り出され、バリアごと敵機を一刀の下に両断する。
 真っ二つに断たれたダイヤナイトの各部に紫電が走り、小規模な爆発を幾度も引き起こしていく。かろうじてゴスホークの一撃から逃れた箇所が自ずから解体を決断、部品一つ一つが無数の機甲虫・通常型に変形していく。
「逃さないわよ!」
 逃走を図る機甲虫・通常型に対し、クェイルが新式コーティングブレイドを抜き放つ。同様に閃電がバスターライフルを、ウィンドセイバーがウィッチクラフトライフルを撃ち放った。
 ブレイドが機甲虫の群れを断ち、重厚な質量を持つライフル弾と魔力の弾が機甲虫を次々に爆散させていく。最後に残った1匹の機甲虫も弾丸の雨に穿たれ、爆炎と共に散った。
 4機のイコンが織り成す連携により、ダイヤナイトは完全に消滅したのだった。

 ハートナイトに組み付いたマルコキアスは、帝国製魔導フィールドを発生させた。
 魔導フィールドがマルコキアスの機体を包み込み、ハートナイトとの衝突による衝撃を和らげる。
 続けてインファント・ユニットを射出。真紅のインファント(ひな鳥)が宙を駆け、ハートナイトにレーザーキャノンを放った。
 高熱を伴う光の束がハートナイトの左腕を貫き、爆発を起こす。ハートナイトが右の手でサーベルを手に取るが、マルコキアスは左腕の肘に装着されたスタングレネードを発射。スタングレネードの直撃を受けたハートナイトが左手からサーベルを取りこぼした。
「なんだか、可哀想ですわ」
 ハートナイトとマルコキアスの戦闘を見て、イコナは呟いた。
 いざとなれば蒼き涙の秘石やルシュドの薬箱を使って各イコンを回復する事も考えていたが、どうもその必要は無いようだった。相手は極めてタフで、なおかつ厄介な機能を幾つも有してはいるが、それだけだ。
 強さの質が違う。これまで幾度となくイコン戦闘を経験してきた契約者にとって、機甲虫の戦い方は未熟で『弱い』のだ。
 それに加えて、おかしな様子が多々ある。本来、機甲虫が持っていたはずのレーザーやステルス機能を使う気配がまるで無いのだ。
「このナイトさん……人に近付こうとしているように見えますわ」
 マルコキアスとハートナイトの戦闘は、既に決しているも同然だった。豊富な武装を持つマルコキアスに対してハートナイトにもはや武装は無い。
 マルコキアスはブースターを噴射してその場から離脱すると、超電磁ネットを発射した。各部を破損したハートナイトに回避する余裕はない。ネットがハートナイトの胸部に触れた瞬間、高圧電流が機体の回路をずたずたに破壊した。
 ……ギ……ギギギ……
 ハートナイトは遂に片膝を突いた。全身から紫電を迸らせながら、沈黙する。
 ダイヤナイト付近で機甲虫・通常型を殲滅したため、機甲虫による合体再生は起こらない。ハートナイトはただ黙したまま、俯いていた。
 こちらの油断を誘っているのだろうか? それにしては妙だ。戦う意志が感じられない。
 イコナと視線を交わしたティーはハートナイトの頭部付近にまで近付くと、優しく語りかけた。
「機甲虫さん、私たちの話を聞いて下さい……!」
 【インファントプレイヤー】による祈りが、ティーの言葉に力を与えた。ティーの言葉に応えるかのように、ハートナイトのカメラアイがこちらに向けられる。
 破損著しいカメラアイが視線を返す中、ティーは改めて自分の言葉を伝えた。
「もう、止めにしませんか? 戦いは……お互いに悲しみを与え合うだけです」
 ティーの言葉に応えてか、それとも他の思惑があるのか――
 ギ、ギ……と軋みを上げながら、ハートナイトは右手を差し出した。戦闘により表面の装甲は剥げ落ち、内部の構造が露わになり、更には破損による紫電が発しているにも関わらず、ナイトは手を差し出してきたのだ。
 ……ギ……ギ、ギ……
 ハートナイトの手がゆっくりと開かれた。破損により装甲が剥離していくにも関わらず、ナイトは手の平を露わにした。
 ティーはレガートと共に、恐る恐る手の平に降り立った。イコン型特有の巨大な手の平。その上に、ティーが着地する。
 しばしティーとハートナイトのカメラアイが見つめ合った。未だ他のナイトがイコンと戦闘を繰り広げているにも関わらず、安堵さえ感じさせる不思議な静寂がこの一瞬を包み込む。
「この子……私たちを信用してくれたみたいです」
 ハートナイトの意志を汲み取ったティーが振り向き、鉄心に告げる。
 マルコキアスに乗る鉄心は、スピーカー越しにこう答えた。
『俺にはキミたちの真意を理解できない。だが、もしも強くなりたいと願うのなら……先ずは生き残ることが肝要だ。これ以上人々を襲わないと誓うのなら、そのまま行かせてやっても構わない』
 鉄心なりに、思うところがあったようだ。
 鉄心の言葉を聞いたハートナイトはゆっくりと首肯すると、自己の解体を選んだ。ハートナイトを構成する装甲や部品の一つ一つが機甲虫・通常型に変形し、ティーの周囲を飛び交う。
 ……チチチ……チチチ……
 ハートナイトを構成していた機甲虫たちはレガートに騎乗するティーの周囲を回ると、一箇所に集合した。機甲虫にしか分からない言語で言葉を交わし合い、ティーと視線を合わせる。
 しばしティーとマルコキアスを見つめた後、機甲虫たちは不意に変形を開始した。装甲と内部組織の構造を組み替え、新たな姿に変化する。
 機甲虫が新たな姿として選んだのは、樹林だった。燃え失われゆく針葉樹の内側に機甲虫が潜り込み、樹林の内部組織と同化、再生させていく。
 戦火で燃え盛る木々は機甲虫の生命を得て、強靱なる生命力を発揮した。ほとんど炭化していたはずの樹が見る見る内に瑞々しい姿を取り戻し、苔が茂った。機甲虫が体組織に蓄えていた水分を元に苔が急速に繁茂していき、炎を鎮火させていく。
 少しずつ、ほんの少しずつだが、森は復活していった。戦いを放棄した機甲虫は、森の一部となる事を選んだのだ。
「もしかして、大廃都を覆う森って……全て機甲虫が……?」
 眼前で起きた現象を目の当たりにして、ティーの脳裏に一つの考えが浮かんだ。

 雨が降り始めた。
 大廃都の上空を覆っていた暗い雲からぽつりぽつりと雨粒が落ち始め、クラブナイトとノイエ13の装甲を流れ落ちていく。
 コクピットのモニターがピコンと電子音を立て、味方イコンからのメッセージを受信。ノイエ13に搭乗するシリウスは、それを読み上げた。
「ダイヤナイトとハートナイト、消滅! 機甲虫・通常型ももういないようだな!」
「こっちもそろそろケリをつけよう。行くよ、クラブナイト……!」
 言うと同時、サビクはノイエ13の性能を限界まで引き出した。背面のスラスターを展開し、機晶石の光を翼として噴き出す。唸りを上げる機晶エネルギーの渦が衝撃波を呼び、装甲を叩く雨粒を吹き飛ばした。
 クラブナイトと長時間に渡る格闘戦を繰り返した結果、ノイエ13の内部フレームには軋みと歪みが生じている。 新式コーティングブレイドは折れ、バルカンとバスターライフル、シールド一体型ライフルは弾切れという状況だ。
 だが、それは相手も同じだ。機体を修復する機甲虫は尽き、メイスも破壊された。破損した装甲の内側から紫電を発しながら、クラブナイトは拳を振り上げ、ノイエ13に踏み込む。
 これ以上の格闘戦は機体が持ち堪えられない。一撃で決める必要がある。サビクは、ノイエ13を前方に踏み込ませた。
「――こいつが13(ドライツェン)のフルパワーだッ!」
 シリウスの絶叫に同調し、サビクはノイエ13の背面スラスターに全推力を集中させた。機晶エネルギーが吹き荒れ、機体に凄まじい加速を与える。
 稲光が上空より轟き、刹那、ノイエ13とクラブナイトが交差した。降り注ぐ雨を弾き、拳と拳がすれ違う。
 クラブナイトの拳が迫る寸前、ノイエ13は僅かに頭部を左に傾けた。クラブナイトの拳はノイエ13の頭部を掠め、宙を穿った。
 一方、ノイエ13の拳はクラブナイトの頭部を捉えていた。スラスターによる加速が拳に更なる威力を与え、敵機の頭部を貫く。
 クラブナイトの頭部装甲がひしゃげた。紫電迸る内部チューブと金属片を撒き散らし、頭部が粉砕される。
 ノイエ13の拳も無事では済まなかった。ノイエ13の拳は粉々に砕け、クラブナイトの破片と混じって雨風の中に散っていった。
 サビクは目を閉じると、呟くようにして言った。
「いい戦いだったよ」
 一瞬の後――
 クラブナイトが盛大な爆発を起こし、この世から完全消滅した。

 イコン各機の活躍により、機甲虫の数は激減した。
 機甲虫と合体する事で損傷箇所を修復し続けていたスペードナイトも遂には修復を断念し、純粋な剣技による近接戦闘を仕掛けてきた。
 前方のスペードナイトが全身のスラスターを全開し、エネルギーの奔流を噴き出す。両刃の剣【スペードソード】を腰に当て、一気に突貫する。
「敵機、急速接近。距離を保てません」
 鋼鉄 二十二号の警告を受けた吹雪は、ストーク強行偵察型の雷皇剣を引き抜いた。
「受けて立つであります!!」
 後方のらいでんに敵機の接近を許せば、そこを起点として陣形が瓦解――下手をすれば敗北する怖れがある。
 ストーク強行偵察型の背面スラスターが火を噴き、降りしきる雨を後方に流し去った。急激な加速が機体を前面に押し出し、敵機との距離を瞬時にしてゼロに変化させる。
 スペードナイトが剣を振り抜いた。ストーク強行偵察型も稲妻迸る雷皇剣を縦に振るい、横の斬撃に対抗する。
「警告、警告。敵機は接近戦用に特化されています。接近戦は不利です」
 ストーク強行偵察型とスペードナイトは、真っ正面から激突した。雷皇剣とスペードソードが唸りを上げて衝突し、甲高い金属音を立てて弾き合う。
 弾かれた勢いを利用して、スペードナイトは自身を回転。至近距離から回し蹴りを見舞った。
 ストーク強行偵察型は、避けた。【ブレス・ノウ】による敵の攻撃予測を見て取った吹雪が反射的に制動をかけ、ストーク強行偵察型を後方に下がらせたのだ。
 だが、それこそが敵の狙いだった。スペードナイトは回し蹴りの勢いを更に利用し回転。左から剣を繰り出した。
 切っ先がストーク強行偵察型のコクピットに触れるその寸前――横から放たれた機晶エネルギー弾がスペードナイトの剣を砕いた。
「俺を忘れて貰っちゃ困るぜ!」
 らいでんによる援護射撃だ。吹雪は忍に感謝の意を告げると、雷皇剣を敵機に振るった。
「これで最後であります!!」
 雷撃を帯びた斬撃がスペードナイトの首を刎ね、続けて、らいでんの放った機晶エネルギー弾がその胴体を粉砕する。
 スペードナイトの上半身が紫電を発しながら地上に落下し、爆発。周囲に熱量と衝撃波をばら撒き、己の課せられた役目を終えた。
「ナイト殲滅、ナイト殲滅。ホワイトクィーンと戦闘しているイコン部隊の援護に移ります」
 やや調子の悪そうな――耐用年数的にそろそろ限界なのだろうか――二十二号に、吹雪は突っ込みを入れた。
「それは自分の台詞なのであります!!」