天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

学生たちの休日13+

リアクション公開中!

学生たちの休日13+

リアクション

    ★    ★    ★

「この間は、メンテナンスしてくれて、ありがとうございました。こ、これ、ほんの、気持ちです……」
 そう言って、一瀬瑞樹が、家に来てくれた本名 渉(ほんな・わたる)に、綺麗に包装された箱を手渡しました。
 中には、お手製のチョコレート……のような物が入っています。
 幸いなことに、他のみんなはデートに出かけてしまっていたので、人目を気にしないで自由にキッチンを使うことができたのですが……。キッチンの修理については、また後で考えることにしましょう。
 それでも、奇跡的に、チョコレートを材料にした物体は、ハートの型の中で固まってくれたのです。
「これは……」
 バレンタインデーですから、密かに期待していた本名渉は、心の中でガッツポーズをとりました。
「ええっと、チョコよ、チョコ。決して、チョコ以外の何かじゃないんだから……」
 本名渉の独白を勘違いした一瀬瑞樹が、必死に主張しました。
「うん、そうですよね。ありがとう。いただきます!」
 なんかちょっと変になった空気を読んで、本名渉が喜んでつつみを開けました。中から出て来たのは、ハートの形をした……竹炭チョコでしょうか。なんだか真っ黒です。もしかして、カカオ100%とか……。
「大丈夫、これは美味しい、これは美味しい……」
 多少の身の危険を感じつつも、本名渉がセルフモニタリングで自分を暗示にかけます。
 ぱくん。
 墨でした。
 チョコだと思えば悶絶ものですが、漢方薬だと思えば耐えられないこともありません。
「と、どう?」
「ええ、とっても美味しいですよ」
 超人的な精神力を持って、本名渉が答えました。
「ほんと!?」
 とりあえずは、一瀬瑞樹の嬉しそうな顔で、なんとか耐え抜けられそうです。
 それもまた愛なのでした。

    ★    ★    ★

「お足元にお気をつけてお帰りください。次回上映は……」
 大谷文美がバイトで館内アナウンス補している映画館から、山葉 加夜(やまは・かや)山葉 涼司(やまは・りょうじ)と仲良く手を繋ぎながら出て来ました。
「なんだか、手に汗かいてないか?」
「だって、手に汗握る展開でドキドキでしたから。主役の俳優さんもかっこよかったですよね」
 そう答えながら、山葉加夜が山葉涼司の顔をチラリと見ました。実は、この映画を選んだのは、主役の俳優が山葉涼司に似ていると評判だったからです。実際、よく似ていると山葉加夜は思いました。だから、主役の俳優は格好いいと思えたわけです。
 もっとも、そんなことに興味のない山葉涼司の方は、主にあのアクションがよかったとか、ここの戦い方が格好よかったとか話しています。
「ほんと、アクションはよかったですよね。大切な者を守り抜くために戦うのも、王道で素敵でしたし。続篇もあるそうですから、また見に来ましょうね」
「それは楽しみだ」
 まだ公開日も決まっていないパート2に期待する二人でした。
「ところで、そんなに大きな、何を買ってきたんだ? 重いだろう、俺が持って……」
「だめです。これは、私が家まで持って帰ります」
 そう言うと、山葉加夜が、山葉涼司が差し出した手をさっと避けて荷物をだきかかえました。
「まあ、いいけど……」
 持ちたいのなら仕方ないと、山葉涼司が引き下がります。
 実は、中には、デパートで山葉加夜が買ってきたチョコレートが入っているのです。買うときに山葉涼司にはちょっと待っていてもらって、一人で買ってきましたので、中に何が入っているのかは分からない……はずです。バレンタインのことは知らぬふりをしていますので、ちょっとやきもきさせてから渡す作戦なのでした。ちょっとしたサプライズです。はたして、うまくいくのでしょうか。
「さあ、早く帰りましょ」
 山葉加夜が、そう、山葉涼司を急かしました。

    ★    ★    ★

「面白かったねー」
「まあ、たまにはな。こら、そんなにひっつくな」
「えー、いいじゃないー」
 ツァンダの遊園地にある大観覧車から下りてきたデクステラ・サリクスが、べったりとシニストラ・ラウルスにくっつきました。
「はい、お疲れ様でした。次の方どうぞ」
 もぎりのバイトをしている衣草玲央那が、そんな二人を見送ります。
 このリア充め。
 顔で笑って、心で怒って。思わず、横をむいて、「ふっ」と笑ってみたりもしたくなります。
「はい、チケットをこちらに。よい空の旅を」
 そう言うと、衣草玲央那は杜守 柚(ともり・ゆず)の差し出したチケットをもぎりました。
「風船、引っ掛けるなよ」
「うん、大丈夫」
 高円寺 海(こうえんじ・かい)に言われて、杜守柚が持っていた風船をちょっと低くしてゴンドラに乗り込みました。
 バレンタインデーということで、遊園地全体もチョコレート仕様にデコレートされています。ゴンドラも、ちょっと見た目はチョコレートケーキのようです。
「さっきのお化け屋敷は、ちょっと怖かったよね」
「いやあ、チョコのスライムとかは、やり過ぎだろう。怖いと言うよりは、甘い香りにむせて大変だったよ」
 どこもかしこもチョコレートの香りでは、さすがに男の子の方は食傷気味になるのかもしれません。
「えー、もう、チョコは嫌?」
「もちろん、別腹は用意してあるさ!」
 きっぱりと、高円寺海が答えました。心なしか、期待で目をキラキラとさせています。
 おかけで、ちょっとドキドキしていた杜守柚も、安心してチョコを手渡すことができました。
「待ってました。中身は何かなあ」
 受け取る高円寺海も嬉しそうです。
「トリュフチョコです。美味しいと思うのだけれど」
「どれどれ……」
 さっそくつつみを開けて、高円寺海が一つ味見をします。
「うん、美味しい!」
「よかった」
 期待していた言葉を言ってもらって、杜守柚がホッと胸をなで下ろしました。