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学生たちの休日13+

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空京のチョコレートボンボン



「お疲れ様。これで、今日はもうお仕事は終わりだね」
 シャンバラ宮殿内にあるレストランで高根沢 理子(たかねざわ・りこ)と同じテーブルに着くと、酒杜 陽一(さかもり・よういち)が言いました。今日も元気に、自主警備です。
 まあ、仕事中の高根沢理子をちゃんと守り、仕事を逃げだした高根沢理子をちゃんと守り、仕事をさぼる高根沢理子をちゃんと守り、何もしない高根沢理子を守り……。
 ええと、なんだか、これじゃいけないように思えます。
「そろそろ、もう脱走はやめないか?」
 酒杜陽一が、切り出しました。
「えーっ。だって、宮殿の中で事務仕事ばっかりしていたら、世直しできないじゃない」
 そんなの嫌だと顔一杯で表現しながら、高根沢理子が言いました。
「それって、大事な仕事をほっぽり出さないと、できないことなのかなあ」
「あったり前じゃない。それとも何? もう、私の相手は飽きたってこと?」
 ちょっと身を乗り出して、高根沢理子が言いました。
「もちろん、そんなことないよ。でもね、まあ、少し考えたんだ」
 珍しく現実的に、酒杜陽一が言いました。
 自分もいずれは高根沢理子と結婚して、高根沢家の一員になると思ったら、急に現実的になったのでした。それに、子供ができたときに、ふらりとどっか行っちゃう親じゃ問題です。
「ふーん、一応は、ちゃんと考えてるのね。えらいえらい」
 酒杜陽一の話を聞いて、一応、高根沢理子もうなずきました。けれども、はたして納得しているのかどうか……。
「だってさあ、宮殿を抜け出せば、こうやってお互いの姿を目で見える距離まで近づけるじゃない」
 まるで、それが真の目的のように高根沢理子が言いました。
「まっ、少しは自重する……かも」
 そう言って、高根沢理子がちょっとごまかすかのように軽くそっぽをむきました。
「そうそう、今日はバレンタインデーだから、これ」
 そう言うと、酒杜陽一がハートのチョコレートを贈りました。
「えっ、普通逆じゃない♪」
 またもや、照れ隠しに、高根沢理子が酒杜陽一をバンバンと叩きました。
「やれやれ、さすがに今日はどこにも抜け出さないようね」
 少し離れたテーブルで二人の様子を見守っていたセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が、少しあてられたようにつぶやきました。が、そう思ったのも束の間。二人が揃って宮殿を抜け出そうとします。
「言ってるそばから。連れ戻すわよ!」
 そう言って、セレスティアーナ・アジュアが、連れてきた二人を振り返りました。
「あのね……、これ」
「えっ!?」
 テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)からチョコレートを受け取って、皇 彼方(はなぶさ・かなた)が照れています。
「あなたたちまで……。行くわよ!!」
 なんだかむきになって叫ぶセレスティアーナ・アジュアでした。

    ★    ★    ★

「ふう、やっぱり子育てって大変だなあ」
 生まれたばかりの娘の陽菜(ひな)の入浴をすませた御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が、ちょっと疲れたように言いました。さすがに育児は大変ですが、どこか心地よい大変さでもあります。
 育児用に借りたツァンダの家のソファに身を沈めると、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)がお茶とケーキを運んできました。周囲には、育児のマニュアル本が散らばっています。
「お疲れ様。手作りでなくて、申し訳ないけれど」
「そんなことはないさ。さあ、一緒に食べよう」
 御神楽環菜が通販で買ったチョコレートケーキを一緒に食べながら、御神楽陽太が言いました。
 陽菜はもう寝ていますから、これからは夫婦の時間です。ゆったりと、陽菜の話題で、二人は今という時間をケーキと一緒に食べていきました。

    ★    ★    ★

「さあ、義理チョコの大盤振る舞いだよー」
 空京商店街のど真ん中で、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が叫んでいました。
 有り金はたいて買い込んだ大量のチョコレートを、お供の特戦隊やパラミタペンギンたちと共に、道行くシングルの男たちに配っていきます。
 パーソナルカラーの派手なひらひらドレスを着た特戦隊の女の子たちや酒杜美由子にチョコレートをもらった男の子たちは、まあまんざらでもない表情をしています。
「ふっ、チョコレートをもらうという特権を、リア充たちだけの物としてたまるものですか。さあ、もっとどんどん配るわよ」
 そう叫ぶと、酒杜美由子はありったけのチョコレートを配っていきました。
 まあ、世間にチョコレートを満たしても、リア充が滅ぶわけでもありませんし、シングルの心が満たされるわけでもないのですが。そんな矛盾を力業で無視しながら、酒杜美由子はチョコレートを配り続けていきました。

    ★    ★    ★

「ほら、また変な方に行こうとする。しっかりとわたくしの腕につかまっていてくださいな」
 そう言って、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)を自分の方に引き戻しました。そのまま、しっかりと自分の腕を掴ませます。
 放っておいたら、この人混みの中、方向音痴の綾原さゆみはどこかに迷子になってしまいそうです。
 それにしても、こうして一般人の姿をしていれば、アイドルの二人もりっぱなモブになれます。派手に目立つこともなければ、ユリユリカップルでも悪目立ちすることもありません。
 ごくごく自然なカップル。それはそれで、とても自然で、素敵なことです。
 ただ、今のこの時間が普通であり自然であるということは、綾原さゆみにとっては逆にちょっと不安でした。普段アイドルとして非日常を暮らしている自分たちにとって、この一瞬はどれだけ特別なことなのでしょうか。同時に、吸血鬼として永遠に近い時を生きるアデリーヌ・シャントルイユにとって、一瞬に近い時しか共有できない自分という存在は、どのような物なのでしょうか。はたして、輝いていると言えるものなのでしょうか。
 ちょっと考え込んでしまってから、そんなことで思い悩んで大切な時間を消費することはないと、綾原さゆみはすぐに元の明るい表情に戻りました。
 それを見逃さなかったアデリーヌ・シャントルイユでしたが、それを気にすれば綾原さゆみの悩みを現実化させるだけです。
 今この一瞬、それが真実なのだと、二人は心の中で確かめあうのでした。

    ★    ★    ★

「ごめんなさーい」
「どこ行ってたんだ。もうはぐれちゃだめだよ」
 そう言うと、神崎 輝(かんざき・ひかる)が、戻ってきたシエル・セアーズ(しえる・せあーず)の手をしっかりと握りました。
「あっちでチョコ配ってたから、お姉さんからもらってきちゃった」
 そう言って、シエル・セアーズが神崎輝に酒杜美由子からもらったチョコを見せました。
「今日はバレンタインだからね」
 ちょっとそわそわした感じを隠しながら、神崎輝が答えました。これはちょっと期待しています。
「ごめんね、輝と久しぶりに二人だけでデートできると思ったら、そっちの方にばっかり気がいっちゃって……、だから、手作りのチョコの時間がなくなっちゃったんだ」
 ちょっぴり残念そうに、シエル・セアーズが言います。
「だから、その代わりに、二人で美味しいチョコレート買いに行こっ♪」
「ああ、そうだね。留守番のみんなの分も含めて、たくさん買おうか」
 そう言ってうなずくと、神崎輝はシエル・セアーズと共に、女の子でごった返しているデパートのチョコレート売り場へとむかいました。家には、一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)らを残してきているので、ちょっと心配でもあります。できれば早く帰った方がいいでしょう。
 とはいえ、やっぱり、二人のデートはなるべく長く楽しみたいものでもあります。
「どのチョコがいい?」
「うーん、あれかなあ」
 シエル・セアーズに問われて、神崎輝がショーケースの中のつやつやのチョコレートを指さしました。
「よおーっし、任せといて!」
 人波をかき分けて、シエル・セアーズが売り子のお姉さんに突進します。
「ちょ、ちょっと、シエル……」
 女の子たちの迫力にちょっと気圧され気味になって、神崎輝が空を掴みました。
 ややあって、ちょっと髪の毛を振り乱しながら、シエル・セアーズが戻ってきました。手には、しっかりと戦利品をかかえています。
「かった」
「凄いなあ。ちょっと、どこかで休もう」
 なんだか、自分も疲れてしまって、神崎輝がデパートの屋上のガーデンに行きました。
「はい、これ、バレンタインのプレゼントだよ」
 さっそく、シエル・セアーズが、買ったばかりのチョコを神崎輝にプレゼントしました。
「ありがとう」
 神崎輝が、そのチョコレートを味見します。
「うん、美味しいよ」
「本当?」
 そう言うと、シエル・セアーズは、神崎輝にだきついてキスしました。
「本当だ」