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平行世界の人々と過ごす一日

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平行世界の人々と過ごす一日
平行世界の人々と過ごす一日 平行世界の人々と過ごす一日

リアクション

 朝、タシガン空峡。

「平行世界の住人がこちらに来ていて滞在は翌朝までとか」
 ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)は目の前の賑やかさに聞いた情報を思い出していた。
「あの兄弟も偶には粋な事をするわね」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)は見知った双子の事を思い出していた。
「それじゃ、二人が会ったという平行世界のリネンもいるかもって事か?」
 この三人の中で唯一平行世界のリネンに会っていないフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は興味津々。
「そうね。いればだけど」
 リネンは対面したこれまでの事を振り返っていた。
「噂をすれば影とは良く言ったものね。あの姿、見覚えがあるんだけど」
 ふふと笑いを浮かべたヘリワードは前方に見覚えのあるメイド服の女性を示した。
「……間違い無くリネン・ロスヴァイセね。何か捜しているみたいだけど」
 リネンも示された先を見るなり怪訝な顔をした。
「とりあえず、声をかけてみようぜ。でも初対面のオレよりもどっちかが声をかけた方がいいかもしれねぇな」
 対面を望んでいたフェイミィは会う気満々。
 そのため
「リネン・ロスヴァイセ」
 リネンが声をかけた。
「……この声は」
 メイド服のリネン・ロスヴァイセは聞き知った声に勢いよく振り向き、
「こちらの世界のリネン!」
 安堵の声を上げた。
「久しぶり、リネン・ロスヴァイセ。事情の方は大丈夫?」
 リネンは笑顔で挨拶をしつつ今回の事情は了解済みかを訊ねた。
「えぇ、大丈夫よ。ただ……」
 リネン・ロスヴァイセは顔色を曇らせ、言葉を濁した。そこに何かを捜している動作をしていた理由があるようであった。
「もしかして人捜し?」
 ヘイリーが先回りして訊ねた。
「その通りよ。ここの人にお姉ちゃんを見かけたと聞いたんだけど、なかなか見つからなくて」
 リネン・ロスヴァイセは困ったように事情を話した。向こうでは一緒にいたのにこちらに呼び寄せられた途端、なぜだからばらばらになっていたのだ。
「それなら手伝ってあげる。空から捜してみない?」
 リネンは早速手伝いを申し出た。何せ困っているのは自分で捜している者はよく知る者なので見捨てておけない。
「……嬉しいけど、また迷惑を掛けちゃう事に」
 リネン・ロスヴァイセは申し訳なさそうな顔をする。その原因は同化現象での事があった。冒険経験が無いためにリネン達に助けて貰うばかりだったから。
「そんな事を気にするなって」
 フェイミィが会話に入って来た。
「……あの」
 初めて見る顔にリネン・ロスヴァイセは戸惑いの顔を浮かべた。
「あぁ、オレは初対面だよな。まぁ、はじめましてフェイミィ・オルトリンデだ。リネン・ロスヴァイセ」
 フェイミィはニカっと笑みつつ握手のための手を差し出した。
「……よろしく」
 リネン・ロスヴァイセは恐る恐る手を握り握手をした。
「さぁ、空から捜しましょう。前の事は気にしなくていいから。向こうは大変みたいだけど、こちらはだいぶ平和だから……少なくとも一人、義賊が多いから。心配は無いわ」
 リネンさっさと捜索の準備を始めた。
「ありがとう」
 リネン・ロスヴァイセはまたリネン達にお世話になる事にした。
 空と地上に別れて捜索をする事になった。担当は、空は二人のリネンとフェイミィ、地上はヘリワードと『シャーウッドの森』空賊団員達である。

 地上。

「なかなか見つからないわね。人海戦術で捜索しているんだけど」
 『優れた指揮官』で空賊団員を上手く指示しながら捜索を続けるヘリワード。

 空。

「こっちはいねぇな」
 ペガサス“ナハトグランツ”を翔けるフェイミィも収穫無し。
「なかなか見つからないわね」
 リネンは困った様子で溜息を吐いた。
 その時、
「いた、お姉ちゃんが。あそこに」
 ペガサス“ネーベルグランツ”に同乗していたリネン・ロスヴァイセが何かを捜していると思われる平行世界のフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)を発見し指し示した。
「えぇ、間違い無いわね。もしかしたらリネン・ロスヴァイセを捜しているのかも」
 リネンは示された先にフリューネ・ロスヴァイセの姿を確認するなり捜しものまで当ててしまった。
「早く行って安心してあげなきゃね」
「ありがとう」
 リネンはリネン・ロスヴァイセに軽く笑んだ後、目的の場所へと直行した。二人にも向かう場所を伝えた後に。

 地上。

「……事情も分かったし、リネンがこっちに来ている事も分かったけど。どこにいるのかしら」
 フリューネ・ロスヴァイセは困ったように義妹であるリネン・ロスヴァイセを捜し歩いていた。リネン・ロスヴァイセが戦闘が出来ないためにますます心配は深くなる。

 その時、
「お姉ちゃん!!」
 頭上から自分を呼ぶ声が降って来た。
 求めていた声にフリューネ・ロスヴァイセはすぐさま空を仰ぎ、
「リネン!?」
 驚いたような声を上げた。
 リネン達とヘリワードは地上に降り、フェイミィも駆けつけた。
「良かった。無事だったのね」
 フリューネ・ロスヴァイセは駆け寄るリネン・ロスヴァイセを頭から足の爪先まで見て無事だと知るや安堵の声を上げた。
「この世界の私に助けて貰ったから大丈夫よ」
 リネン・ロスヴァイセは後ろにいるリネンに振り返った。
「……この世界のリネン……あぁ、リネンを助けてくれてありがとう」
 フリューネ・ロスヴァイセはようやくリネン達の存在に気付き、改めて礼を言った。
「どういたしまして。私はリネン・エルフト。というか初めましてになるのかしら。妙な感じだけど」
 リネンは恋人の平行世界の姿に不思議を感じていた。ただし、平行世界のフリューネに対してはただ顔が同じ程度のもので恋人認識は無い模様。
「ヘリワードよ」
 ヘリワードも名乗った。
「……二人共、やっぱり雰囲気が違うわね。リネンから前の事件で会った事は聞いていたけど」
 フリューネ・ロスヴァイセはまじまじとこちらのリネン達を見るなり率直な感想を口にした。
「オレはフェイミィ・オルトリンデだ。そっちにはやっぱりオレはいないよな?」
 フェイミィが最後に名乗りを上げた。
「……そうね。聞いた事はないわね。それが存在してなくてかしていて会っていないだけなのか分からないけど。とにかく、よろしく」
 フリューネ・ロスヴァイセは少々申し訳なさそうにフェイミィの質問に答えた。
 フェイミィが口走ったように平行世界のフェイミィの存在は不明なのだ。なぜならリネンが冒険していない時点で出会いの機会は無いからだ。
「あぁ、よろしく」
 すでに覚悟をしていたフェイミィはフリューネ・ロスヴァイセの返答に気を悪くする事無く、差し出された手を握って握手を交わした。
 これにて最初の挨拶は終わった。
「さてと挨拶も終わった事だし、どこかで時間を潰すのはどう?」
「ヘイリー、名案ね。そちらはどう?」
 ヘイリーの名案にリネンが乗り、リネン・ロスヴァイセ達の都合を訊ねた。
「お姉ちゃん、折角だから一緒に過ごそう」
「そうね。リネンがいいなら」
 リネン・ロスヴァイセとフリューネ・ロスヴァイセは誘いに受けた。
 早速、付近の飲食店に入店した。

 飲食店、店内。

「そう言えば、リネン・ロスヴァイセから聞いたけど、そっちのあたしはあんたとライバルみたいな感じだとか」
 ヘリワードは同化現象事件で聞いた平行世界の自分の事について訊ねた。
「えぇ、こちらでは空賊団を率いているのよね。リネンから聞いて驚いたわ。あのヘリワードが誰かと組んでるなんて、それに会ってみると性格も丸い感じで」
 フリューネ・ロスヴァイセは素直に驚いた事を話した。
「え、丸い感じ!? そう? まぁ、あたしも昔は徒党を組む事なんて二度と考えてなかったけど……そう思うと変わったのかしらね」
 相手の言葉に逆にヘリワードが驚いたりこれまで経験した事が自分を丸くさせたのだろうかと変化を感じてしみじみとしたり。
「一人で空賊をしているのよね。大変じゃない?(何かこういう感じ懐かしいというか久しぶりね)」
 リネンはフリューネ・ロスヴァイセに話しかけながら内心恋人になる前の時の様で懐かしく思っていた。
「……そうね」
 フリューネ・ロスヴァイセはただ事実にうなずくだけだった。
「……私がお姉ちゃんを助ける事が出来ればいいけど私は……」
 リネン・ロスヴァイセは顔をうつむかせた。
「リネン、そんな顔しないで。リネンがいると思うと何としてでも帰らないといけないってどんな時でも力が出るんだから。とても助けになっているわ。それに料理も美味しいし」
 フリューネ・ロスヴァイセは笑みを浮かべた。リネン・ロスヴァイセの存在は彼女にとって大事な家族で最高の心の支えなのだ。
「……ありがとう、お姉ちゃん」
 リネン・ロスヴァイセは顔を上げてほのかに笑った。
「でも実際、一人で活動は大変でしょ」
「大丈夫よ」
 ヘリワードの唐突な言葉にフリューネ・ロスヴァイセは一匹狼的な鋭さでばっさり切って捨てる。
「……さっきあんたはあたしの性格が丸いって言ったけど、逆にあんたはこちらのフリューネと違って幾分か鋭く感じるわね」
 次はヘリワードが性格云々を語り始めた。
 フリューネ・ロスヴァイセが口を挟む間もなく
「向こうにもあたし以外の仲間、いるんでしょ? いるならもうちょっと頼ってやりなさい」
 言葉を続け、フリューネ・ロスヴァイセを諭す。
「……まさかヘリワードにそんな事を言われるとは思わなかったわ」
 話を聞き終わったフリューネ・ロスヴァイセは苦笑いを浮かべた。まさかの出来事に。
「あら、そう。こっちではこういう役回りだけど」
 ヘリワードは肩をすくめ軽くおどけた。今では本人の言葉通りフリューネやリネン達の成長を見守る役目もしているのだ。
「……本当に違うわね」
 フリューネ・ロスヴァイセは吹き出した。
「そうね。ついでに帰ってそちらのあたしに会ったらいつまでも意地張ってんなって引っぱたいていいわよ? やればできるのに、意地っ張りだから」
 ヘリワードは少し口元をゆるめながら助言を付け足した。
「えぇ、考えておくわ」
 フリューネ・ロスヴァイセはまだ笑いながらうなずいた。
 それから二人は他愛のない話をした。

「……そういや、フリューネとは義姉妹なんだよな? 毎日幸せか?」
 フェイミィはいいお姉さんという感じでリネン・ロスヴァイセの状況を気に掛けた。
「えぇ、お姉ちゃんが助けてくれた上に身寄りのない私を引き取ってくれてそれから毎日幸せよ。ただ、お姉ちゃんがいない時は無事に戻って来るか心配だけど。私の事を心配させないように仕事の事は話さないから」
 リネン・ロスヴァイセはヘリワードと雑談に興じる義姉の方を感謝の目で一瞥した。
「そうか……ん、ちょっと待てよ。義姉妹……ということは」
 フェイミィがある事実に気付いた。
「フェイミィ?」
 様子のおかしいフェイミィに声をかけるリネン。
「よし、明日帰還する時オレ、助っ人として行くわ」
 フェイミィはくるりとリネンの方に向くなりとんでもない事を言い始めた。
「フェイミィ、何言ってるの?」
 リネンは呆れるばかり。
「もうここは可能性は無いが向こうなら……という事で次会う時はフェイミィ・ロスヴァイセってことで……よろしく」
 暴走フェイミィはどこまで本気か分からない事を口走り続ける。実はリネンに片思いしていたがフリューネとの関係を見て踏み出せぬうちに壮絶に玉砕してしまったのだ。しかし平行世界ならば恋愛成就しその先の可能性もあるかもと。
「……あの」
 困ったのはリネン・ロスヴァイセばかり。
 それを見たリネンは
「ダメよ。ほら、リネン・ロスヴァイセが困ってるでしょ」
 厳しく言って暴走を止める。
「やっぱりダメかぁ〜」
 フェイミィは大仰に残念そうにするのだった。その様子をリネン・ロスヴァイセはどうしたものかと困惑。
「フェイミィの事は気にしなくていいから」
 リネンは笑顔でリネン・ロスヴァイセの困惑を解いた。
 すると
「……賑やかで楽しいわね。出会った平行世界の自分達があなた達で良かった」
 リネン・ロスヴァイセは明るい笑顔でこの不思議な時間に感謝した。
「私もそう思うわ」
 リネンも平行世界の二人の顔を見て笑顔でうなずいた。
 両世界のリネン達は、この後も不思議で楽しい時間を過ごした。