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リアクション
■地下1階層
「見つけた、全員無事だ」
地下遺跡の入り口付近崩落によって岩で埋まった現場。
岩の隙間から拡散した状態で抜け出し、形となったソイル・アクラマティック(そいる・あくらまてぃっく)が発した言葉を聞いて、救助にやってきたメンバーが一斉に歓声が上げた。
「やるなぁ、ソイル。 でもまぁ、体を霧状に出来るポータラカ人だからこそ今回呼んだんだけどね」
そう言いながらも、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は嬉しそうにしている。
「確かに、俺が出来るのは霧状になって隙間の先が当たりかハズレか危険か安全か判断するだけだ」
体の一部は霧状になり、瓦礫の隙間を縫って探索チームの元へ向かっている。
「だが、今回は人助けに役立ちそうだな」
そう言ったソイルも自分の力が役に立って嬉しそうだ。
「なぁ、このでっかい瓦礫を粉微塵にしたら崩落する危険ってあるかな?」
入り口の穴に詰まった瓦礫を突くハイコド。
「なぁソイル、お前機晶石の採掘所でツルハシとかトンカチ振り回してるんだからこういう崩落ってどうすればいいか分かるんじゃないか?」
ハイコドの横に備えていた藍華 信(あいか・しん)もソイルに問いかける。
しかし、ソイルは瓦礫の先に居る探索チームと話しに向かってしまったのか、姿がない。
「まぁ、これだけ岩が落ちてきても崩れてないんだ、大丈夫じゃないか?」
辺りと岩を見てそう言った。
「んじゃ早速……」
「ちょっと待ったー!」
大きく腕を振り上げたハイコドだったが、入り口よりも先行していたメンバーから静止の声が響き動きを止めた。
急いで戻ってきたのは先行して罠の解除を務めていたカル・カルカー(かる・かるかー)とドリル・ホール(どりる・ほーる)だ。
「急ぐ時こそ、慎重に行った方が、却って時間は節約でいるんだぜ?」
自信満々といった感じでドリルは岩を撫でる。
「うまい具合に岩盤が重なって崩落してないみたいだな。 でも、砕いたら下に居る連中もろとも崩れちまうぜ」
ドリルの言葉を聞いて、ハイコドはなるほどなぁと納得してくれたようだ。
「ちょっと進んだところで侵入者対策の罠が結構あったよ」
カルの報告に救助チームは騒めく。
「あ、安心してよ。 もう解除してるよ」
慌てた彼らの様子を見て、直ぐに言い加えたカルのおかげで救助チームは直ぐに落ち着いたようだ。
「……しっかし地味だねぇ、こういうのってさ」
遺跡の探索、調査、罠の解除。
自分の力を振るう場所の無い為か、ハイコドは少し力が余っているようだ。
「教導団は人を救うための組織なんだ、暴れるのは目的じゃないしね」
そう、『教導団』は人殺しの組織でも、破壊を行う組織でもないと自分にも言い聞かせるようにカルは続ける。
「それに、地味な人間が世界には必要なんだよ」
だからこそ、自分は地味であることを選ぶのだ。
「まぁ、仕事分の俸給はきちんといただきたいけどねー。 育ててくれた教会に、きちんと返していかないといけない」
突然お金の話になってハイコドは目を丸くしたが、すぐに「そうだな」と笑い返す。
「僕がいるのは、見返りとかそんなものなしで育ててくださった神父様のお陰だから。 僕も誰かにとって、そんなで存在でありたいじゃん?」
「……見返りを求めない存在か」
カルの話を聞いて、思うところがあったのか信は1人呟いた。
それに気づいた面々が話しかけようとした瞬間、あたりにアラート音が鳴り響く。
「何だ!?」
「ナノマシンが地下施設のセンサーに感知されたみたいだ!」
戻ってきたソイルは既に拡散状態を解除しているが、戻ってくるまでの間、地下の侵入者を感知するセンサーに引っ掛かってしまったのだろうか。
『侵入者感知、直ちに入り口を緊急閉鎖します』
女性の音声による案内が鳴り響いた次の瞬間、入り口付近の天井がゆっくりと降りてきている。
「まずいっ!」
咄嗟に反応した信が機関銃である【蒼の十字架】を地面に突き立て、天井を支える棒がわりにする。
めきめきと、圧力がかかり、信やほかのメンバーも天井を支えているが、このままでは時間の問題だろう。
このままでは入り口は閉鎖され、脱出は出来ても探索チームを助けること等できない。
「俺がぶっ壊す! カル、ドリル! 壊しても問題ないな!」
ハイコドの両手には目に見える様にエネルギーが集中している。
「少し調べさせて!」
「1分でやってくれ!」
カルとドリルは急いで落ちてくる天井を通り抜け、入り口を挟んだ反対側まで回り込む。
「ドリル、構造を調べて! こっちは罠がないか調べてみる!」
「了解!」
2人は即座に周囲を調べ始めるが、それを邪魔するように暗がりからモンスター、ゴブリンが数匹飛び出してきた。
完全に不意を打たれた、このままではやられる。
そう思った瞬間、ゴブリンは次々と弾丸に撃ち抜かれた。
「援護は任せろ!」
辺りに荒々しく声が響く。
後方ではパワードスーツに身を包み、片腕で天井を支えている大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が片手に構えた小銃でモンスターを打ち抜いていた。
「2人は調査を、お願いします!」
コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)も体勢を低くした状態で矢を放ち、次々と現れるゴブリンを撃ち抜いていく。
続けるように遠距離攻撃を行えるメンバーが次々と射撃を行い、それに応える様にカルとドリルは調査の手を進める。
「カル、こっちは問題ないぞ!」
「おっけー。 ハイコドさん、やっちゃって!」
「よっしゃぁ!」
カルが叫ぶと、ハイコドは嬉々として吠える。
「瓦礫に巻き込まれる可能性がある、皆は一度引いてくれ!」
「気を付けろよ、2人とも」
信が叫ぶと、ソイルがほかのメンバーを誘導して入り口まで戻っていく。
その場に残されたのは、ハイコドと信に既に入り込んでいるカルとドリル。
そして剛太郎とコーディリアだ。
「おいおい、巻き込まれるぜ?」
「心配には及ばん、モンスターが救助チームに向かうのを防ぐのも必要だ」
剛太郎はガンと自分のスーツを叩いた。
直ぐ横に居るコーディリアもその身で守るつもりなのだろう。
それを見て、ハイコドは薄く笑う。
「じゃあ遠慮なくいくぜ。 この手に宿れ、光闇の滅球!滅破牙狼拳!」
両拳が天井に突き当てられると、一瞬動きが止まったかのように静止する。
そして、少しの時間の後に天井が破裂するように砕け散った。
それぞれに砕けた岩から身を守り、しばらくするとぽっかりと穴が開いたように天井は空洞になり、空が見えていた。
「流石だ。 後は任せて頂く!」
ここからは自分の仕事だといわんばかりに銃を構え、光に当てられたゴブリン達を打ち抜き、コーディリアも同様に近寄られる前に的確にゴブリンを射抜く。
突撃して抜け出そうとする者もあらわれたが、剛太郎が銃剣にで即座に薙ぎ、残った相手はコーディリアのエペに貫かれた。
「……目標の処理を完了。 ん?」
辺りに動いているゴブリンは居ないが、剛太郎は足もとに落ちているブローチを発見した。
ゴブリンが持っていたのだろうか、見たことの内容な装飾がされている。
「……」
ちらり、とコーディリアを見る剛太郎。
彼女に渡せば喜んでくれるだろうか。
そう考えたがこれは任務であり、手に入れた財宝は提出する必要があることを思い出し首を振る。
これはあとで指揮官に渡しておこう、と思いながらコーディリアには見られないようにブローチを拾い上げた。
「コーディリア、帰ったらその、アクセサリーでも見に行こう」
そう言う剛太郎が照れているのかはパワードスーツで分からないが、その動作はぎこちない。
「はい、わかりました」
コーディリアは微笑み返した。