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リアクション
■地下2階層
地下2階層へと足を踏み入れた契約者達と救助チーム。
先ほどの罠とモンスターからの襲撃から、常に戦力を温存する必要があると指揮官が判断。
そして現在はジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)が部隊の先へ進み、斥候役として罠や襲撃に備えている。
「罠だな。 フィル、頼む」
薄暗い地下のT字路の中央に仕掛けられていたのは縄に引っ掛かると周囲から矢が放たれる罠だ。
「お任せください」
罠の発動させないように縄を外すフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)。
ジェイコブはそれを横目に左右の通路を偵察用の暗視スコープ使って覗き込む。
「しかし、急に罠が古臭くなりましたわね。 どう思います?」
「それはそこに居るやつに聞いたほうがいいだろうさ」
ジェイコブがそう言うと、あたりから殺気が伝わってくる。
正確な数はわからないが、T字路の先から感じるのは間違いない。
「フィル、俺は右に、お前はここで奇襲だ」
そう言ってスコープをしまい、戦闘を行う構えをとる。
「わかりましたわ、気を付けて」
フィルに「任せろ」とだけ言うと、目にも止まらぬ速度でT字路を右に駆け抜ける。
目標は通路の先でこちらが罠にかかるのを待っていた盗賊の1人。
既に気づかれているにもかかわらず動く気配のない奴らではこの速度に対応できず、慌てるだけだ。
「先を読むまでもないな」
軽身功を駆使した上での神速による急接近に対応すらできず、野盗の1人は腹部に打撃を受けてその場に崩れ落ちる。
貴重な情報源を気絶させるわけにはいかない為、このような手段をとったのだ。
少し遅れて後方からフィルの掛け声と男の悲鳴が響き、どさりと崩れ落ちる音が響く。
「それでこそ」
ヒュウと口笛を吹いたジェイコブは正面の野盗に向き直る。
「さて、お前らの目的は何だ?」
「知らねぇなぁ」
「ほう、では少しばかり可愛がってやるとするか」
バキバキと指を鳴らしながらジェイコブは野盗の前に仁王立ちしており、対峙する野盗の表情は引きつっていた。
先遣隊に待機を命じられた救助チームとその護衛は暗がりの通路で立ち止まっていた。
常に戦力を確保する為と、遺跡の通路自体が広くはない為に最低限のメンバーが護衛と探索を行っており、他のメンバーは周囲で警戒を行っている。
「少し騒がしいな」
救助チームの近くで周囲の警戒に全神経を集中させている酒杜 陽一(さかもり・よういち)は前方で騒ぎが起きている事に気が付いた。
戦闘が発生したのだろうか、救助隊を囲むように配置させているヘルハウンドや、シャンバラ軍用犬達も低いうなり声を上げている。
「何、的?」
救助チームの面々かの間からひょっこりと顔を出したのは緊急時の戦闘要員として待機していたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
すぐ傍にはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)もいた。
「野盗だろうか、モンスターとは違うみたいだ」
「人間の欲って本当に底がないわねえ」
陽一がそういうとセレンはやれやれと肩をすくめる。
「そう笑っても居られないみたいよ」
先ほどまで黙っていたセレアナが銃型HC弐式に表示される熱源反応を見せながらそう言った。
そこには自分達を中心に、後方から多数の熱源が迫っていることを示していた。
「数は6ってとこかしら、前方の罠に意識が向いたところを奇襲するつもりだったんじゃないかしら?」
「間違いないだろうな、こいつらも殺気を感じ取ってる」
周囲を囲う犬達も後方からの敵意を感じ取っているようだ。
「それは怖いネ。 出来れば戦いたくはないんだけどネー」
ひょうひょうとしてはいるが、ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)はしっかりと戦闘の準備をしている。
「セレアナ、距離は?」
「少しある程度ね」
熱源反応のある場所と現在地はある程度離れている。
「こっちから打って出ましょう、前方はきっと大丈夫よ」
「教導団の人達なら安心ネー!」
特徴的な喋り方が気にはなるが、ロレンツォの意見には大いに賛成だ。
「護衛はロレンツォさん、頼めるか?」
「お任せネー!」
二つ返事で答えてくれた彼に感謝しながら、陽一は視線を犬達へと巡らせる。
「この子達も残す、頼む」
陽一はヘルハウンドとシャンバラ軍用犬の頭を撫で、半数を護衛に残すことにした。
救助チームも納得してくれたようで、安心した顔をしている。
「じゃあよく聞いて。 相手はこっちが気づいてるとは思っていない、よって奇襲は有効だけど問題があるわ」
セレアナは言葉を続け、他のメンバーは黙って聞く。
「この通路は狭い、1人が暴れまわるのにも苦労するぐらいだわ」
「それは相手も同じじゃないのか?」
陽一の意見を聞き、待ってましたという顔をするセレアナ。
「いいえ、相手だけよ」
そういうと、他の2人にのみ聞こえる様に小さく耳打ちをする。
「よし、じゃあ行くわよセレアナ」
「初動は私達、重要なのは貴方よ陽一」
そう言って2人は勢いよく後方へと走り出し、残された陽一はにやりと笑う。
「目標は補足したわ」
「了解!」
セレアナの指示した箇所、野盗達の足もとへ2人が放った弾丸が直撃する。
突然の襲撃に野盗達はどよめく。
「な、変態だぁ!?」
「何をぉ!」
野盗の目の前に現れたセレンが彼らの言葉に反応し、正面の1人を殴り飛ばす。
あまりにもこの場所に似合わない2人の衣装が彼らに大きな動揺を与えているのだろうか、反撃はない。
そこを襲うように2人の背後から赤い布が伸び、正面の2人を捕縛する。
「なんだこりゃぁ!」
「あまり動かないほうがいいぞ?」
伸びてきたのは真紅のマフラー。 操り手は陽一だ。
「くっ、引くぞ!」
狭い通路で半分がやられている。 残った野盗は撤退しようとするが時すでに遅し。
「うぎゃあ!」
一番後方に居た野盗の尻に軍犬が噛みついていた。
「いつの間に!」
「さっきの威嚇射撃の時、降伏したほうが身の為じゃないかしら?」
銃を突きつけるセレアナにセレン。 そして後方の軍犬達。
この状況では抵抗する事もできないようだ。
「流石ですネー!」
戦闘が終わったことを察したのか、ロレンツォがすたすたと歩いてきた。
「さて、アナタ達? どうして野盗なんてやってるんデスカ?」
「決まってんだろ、生きる為だよ」
ロレンツォの突然の質問に少し戸惑ったものの、彼らはそう切り返した。
「オー! だったら教導団で働けばいいじゃないデスカ! この人達はいい人達デスヨー?」
そう言ってセレンやセレアナの肩をぺしぺし叩く。
「教導団なんてやってらんねぇよ」
「だったらこれを見てクダサイ!」
ロレンツォは一束の書類を突き出した。
それは各地の職業安定所で配られている求人票だ。
「あんた、どうあっても働かせる気か? 俺らみたいなのが今さ……ぐふっ!」
野盗の腹部にはロレンツォの拳がめり込んでいた。
「ソーリー、手が滑りましタ。 暴力は、ワタシも本意ではないの事ヨ」
彼の表情は先程からずっと笑顔のままだ。
それを見ていたセレンや陽一は逆に恐怖を感じるほどに思える。
「まるで怪しい宗教団体だな」
「ジェイコブさんか、そっちは無事だったか?」
気が付くとジェイコブが彼らの元へとやってきていた。
陽一の質問に大したことないといった感じで彼は笑う。
「それに、こいつ等の仲間が情報を吐いた。 どうにも最深部にもっと仲間がいるようだぞ?」
最深部に他の仲間がいる。 それは重要な情報だった。
「流石ね、どうやって聞き出したの?」
「何、ちょっと『可愛がって』やったのさ。 最後に泡吹いてたけどな」
『可愛がられた』野盗が何をされたか想像はたやすいが、考えるのは可哀そうだろう。
「ちょっと、聞いてますカー!?」
野盗の彼が否定的な言葉を発するたびに聞こえる苦痛の声とロレンツォの説得と思わしき物はしばらく続くことになったのは後に付近の街で働く事になった彼の談である。