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「……未来の自分への手紙かぁ。何を書こうかなぁ」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はレターセットを手に書く場所を探していた。
「美羽、あの二人だよね。美羽がよく相手にしている双子というのは」
 一緒に来ていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)はどこかへ行こうとするお菓子を御馳走され済みの三人組を発見した。その中の二人は同じ顔をしている。
「そうだよ、また何かしようとしているみたい。おーい!」
 美羽は双子のウキウキの様子を見てこれまでの経験から悪さをすると導き出すなり大声で呼びかけながら駆け寄った。
 途端、
「!!」
 知った声に双子の動きは止まってしまった。

 双子に近付くなり
「もしかして手紙書いている人の邪魔をしようとか思ってる?」
 美羽はにこっとしながらも探る目を双子に向ける。
「ちげぇよ。俺達は書き終わったから散歩をしているだけだ」
「そうそう、それより隣にいるのは誰だよ?」
 ヒスミは明らかに弁解と思われる事を口走り、キスミは初対面のコハクが気になる模様。
 ここで美羽が
「彼は私の恋人のコハクだよ」
 コハクの事を紹介した。
 それに続いて
「はじめまして、コハク・ソーロッドです。いつも美羽がお世話になっているみたいで……これからも美羽のことをよろしくね」
 コハクが初対面の双子に穏やかな笑顔で挨拶をした。
「よろしく、ヒスミ・ロズフェルだ」
「オレがキスミ・ロズフェルだ。後ろにいるのがロズだ」
 双子も改めて名乗り挨拶をした。キスミがついでに自分達の後ろにいるロズを紹介した。
「……ロズだ」
 ロズは邪魔にならないように静かにし名乗った。
 こうして挨拶が終わったところで
「しかもね。私たち近々、結婚するんだよ」
 美羽は笑顔で嬉しい近況を双子に伝えた。
「本当か!?」
「びっくりだな」
 まさか美羽から結婚間近報告を受けると思わなかった二人はびっくり。
 しかし
「おめでとう!!」
「幸せになれよ!!」
 すぐに双子は美羽達を温かく拍手をして祝いの言葉を贈った。少し早いが。
「ありがとう」
 美羽は嬉しそうに礼を言った。早かろうが祝福の言葉は嬉しい物だ。
 このままの流れで美羽は双子と一緒に付近のテーブルで手紙を書く事にした。当然、双子は再び椅子に座る事となった。
 そして、
「さぁ、書くよ(10年後の私は、きっと幸せな家庭を築いているんじゃないかな……)」
 美羽は照れつつ幸せな未来を想像し便箋に染み込ませた匂いを嗅いだ。

 美羽が手紙書きをしている間。
「早いけど本当、結婚おめでとう。頑張れよ」
「幸せになれよ……って言わなくてもよさそうだな」
 双子はまた祝いの言葉を贈った。
「二人共、ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」
 コハクは嬉しそうな笑みで双子からの祝いの言葉をまた受け取った。
 その他にも他愛のない会話をして美羽が書き終わるのを待っていた。

■■■

 10年後のイルミンスールの街。

「もうそろそろだね、お母さん」
 背中に天使のような白い翼を生やした女の子はにこにこと隣を歩く母親に言った。
「どんな誕生日会を用意してくれてるのか楽しみねぇ。あの二人、料理も上手だからきっと美味しいケーキと御馳走を作ってくれてるわ」
 女の子の母親、いや美羽が娘と同じように楽しそうな笑顔で返した。すっかり優しいお母さんといった感じである。ちなみに娘は翼を持つヴァルキリーである。つまり種族や翼といいしっかりと父親であるコハクの血を受け継いでいた。
「でも三日前に工房に遊びに行った時、大変な事になったから少し心配」
「そうね。あの双子の悪戯は昔からだから」
 軽く溜息を吐く娘を見て美羽は昔を思い出しながらクスクスと笑っていた。母娘がお呼ばれされた場所は双子が経営する工房だ。

 双子の工房前。
 窓が全壊し、煙が立ち、通りに色んな物が飛び散り通行人に迷惑をばら撒いていた。

「予感的中みたいよ」
「……前よりすごい事になってる」
 美羽と娘は慣れたもので動揺は全く無かった。しかも娘は空を飛び何やら準備を始めた。
「まさかこんな事になるとはな」
「ヒスミが祝い事だからって調子に乗るから」
 ドアが開き、煤だらけの双子が現れた。
 その瞬間
「町の人に迷惑を掛けたら駄目って言ったでしょーーーー」
 空から急降下し、説教付きの強烈な飛び蹴りでお仕置きをかました。性格は美羽にそっくりな元気娘のようだ。
「ぐぅお!!」
 娘の蹴りは完全に不意打ちとなり見事に双子にヒットした。
「みんなに迷惑を掛けた罰として、フルーツパフェをごちそうしてもらうからね!」
 地上に降り立った娘は両手を腰に当て、怖い顔をして馴染みのある要求をした。
「えーーー」
 双子はむっくりと起き上がり、大声を上げた。
「今日は誕生日だからたっぷりと御馳走して貰いなさい」
 美羽は悪戯っ子のようにこの展開に油を注いで炎上させる。
「そこ、余計な事言うなって」
「前来た時も散々奢らされたのに」
 堪らないのは御馳走する双子の方。
 双子の文句など右から左に流して
「はーーーーい」
 娘は勢いよく片手を挙げて元気に返事をした。
 今日は誕生日という事もあって美羽も娘もノリノリである。
「はぁぁ」
 双子は同時に深い溜息を吐いていた。

■■■

 想像から帰還後。
「幸せな未来を想像出来たよ」
 美羽はにこにこと三人に言った。
「どんなの想像したんだよ?」
「教えろよ」
 好奇心旺盛な双子は真っ先に食い付いた。
「それはね……」
 美羽は詳しく想像した未来を語った。

 美羽の話を聞いた後
「僕と美羽の娘かぁ。僕に似た翼と美羽に似た性格なんだね」
 コハクは美羽の話を元に楽しそうに自分の娘を想像していた。
 この中で唯一不満を垂れたのは
「……俺達は全然楽しくないぞ」
「そうそう、今と同じ展開じゃんか」
 双子だった。何せ美羽とその娘と繰り広げる展開が全く同じだから。
「そうだね。その時は娘共々よろしく」
 美羽は冗談めかして言った。
「……はぁ」
 双子は溜息しか出なかった。
「……手紙も書き終わった事だから息抜きしようか」
 優しいコハクが双子を励まそうと用意されていたお菓子を渡した。
「ありがとな」
「優しいなー」
 お菓子を受け取った双子は食べて一息入れてから席を外し赤面しながら手紙を書いている参加者の元に行った。美羽達は静かに双子から一歩下がって控えていたロズに任せ追うような事はしなかった。