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クレイジーな新薬実験

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クレイジーな新薬実験

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第一章
進歩の犠牲者

 その三体の魔物は、顔つきこそオークだが、肉体はオークからかけ離れたものになっていた。
 その異常さの通り、でたらめな力を発揮して、近づく契約者たちと激しく戦っている。
「ふはははは! その程度の実力ではコイツらは倒せないぞ!」
 その様子を、研究室でモニタリングしている研究者たちは高らかに笑い声を上げた。
「一点集中のステータス強化。弱点はそれぞれで補いあい、隙はほぼなし! 科学の前ではいかなる力も無力であることを証明してやるぞ!」
 リーダー格の男が叫んだ。
「もしも暴走しそうな兆候が出れば、この中和剤でドーピングを解除し、改良した薬を投与してやる! 科学の進歩のために死ぬなら実験動物たちも本望だろう! わーっはっはっは!」
 研究室からは、黒い欲望に満ちた笑い声がひたすらこだましていた。

「くっそー! 腹立つなアイツら!」
 戦闘中の剣士の少年が、響いてくる研究者の笑い声にイライラしていた。こちらの攻撃が弾かれるたびに、攻撃を受け止めるたびに、嬉しそうな声が響いてきて非常に気が散る。

 攻撃力特化タイプと、防御力特化タイプと、軟体変化タイプに作り替えられたオークたちは、自分に向けられた敵意と剣の切っ先にしっかり戦意を呼び覚まされ、しかし自分に起きてる異常が理解できずにパニックを起こし、もう何が何だか分からない状態だ。とにかく立ち向かってくる連中を片っ端から攻撃している次第である。
「ほう……これが騒ぎの中心、改造オークとやらか。ふむ……なかなかのもののようだ」
 と、突然脇から現れた白衣の男。
「聞け! この魔法薬を作った科学者たちよ! 我が名は天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! 世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部だ!」
 ざわ、と周囲の戦士たちが彼に注目する。
 一方、研究者たちもハデスに呼ばれ、モニターに注目した。
「この俺もお前たちに協力しよう! ともに科学の進歩を目指し、邪悪な研究を完成させようではないか! ふはははー!」
「な」
 てっきり心に響く、シビレるような啖呵を切るのかと思いきや、まさかの結託宣言。
「「「なにぃぃぃーーー!?」」」
 その場にいた全員が思わず叫んだ。
「手始めに我らオリュンポスの科学力を惜しみなく提供し、このマッチョなオークを強化してやろう! オリュンポスの科学力は……」
 ハデスのスキル・機晶技術、先端テクノロジー、イノベーション、R&B他知識増幅系スキルが発動。自前の薬や材料を駆使してさらなるドーピング剤を調合、攻撃特化型のオークに投与した。
 すると、途端に攻撃型オークが雄叫びを上げて身体が変化。異様なまでに筋肉が発達し、身体も二回りほど大きくなったようだ。
「フハハハ! ゆけえ! 我が特戦隊、そしてオリュンポスの強化怪人オークたちよ!」
 さらにハデスは特戦隊の五人のナゾの男たちを召喚。校舎内がますますカオス化していく。
「オイ! 誰かアイツを止めろ!」
「うわあ! 敵を増やすんじゃねえ!」
「だー! より強くなってやがる! もう少しで倒せそうだったのに!」
 わあわあと賑やかになった中、二人の少女が乱入してきた。
「ちょ、ちょっと兄さん!何やってるんですか、もう!」
 ハデスのパートナー、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)だ。
「まったく。人の迷惑も考えないで、研究研究って…。少しは反省してくーだーさーいー!」
 咲耶はスキル・天のいかずちを詠唱開始。狙いは特戦隊の五人と、指揮をしているハデス。お仕置きの雷撃を力いっぱいぶっこんでやろうとしたその時、特戦隊の後ろに攻撃特化型オークが立ちふさがった。
 ぞく、と咲耶に背筋に悪寒。その嫌な予感に素直に従い、詠唱中断。直後、オークの剛腕が一閃。五人の特戦隊がすぽーんとまとめて吹っ飛んだ。咲耶は飛んできた特戦隊たちを華麗に回避。特戦隊たちははるか向こうの廊下に落下、三メートルほど滑り、気絶した。
「う……強い。これが改造オークの力ですか」」
 つう、と冷や汗を流す咲耶。
「ペルセポネちゃんっ! あの攻撃力の高そうなオークから倒しましょう! サポートをお願いしますねっ!」
「了解しました、咲耶お姉ちゃん! 機晶、変身!」
 ペルセポネのブレスレットが一瞬輝き、身体が強化装甲に覆われた。

■■■

 一方、防御特化型オークの前には、また別の少女が一人。
 御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は状況を冷静に分析。そして呟く。
「これまでの皆様の攻防、そして研究員たちの言葉から察するに、物理攻撃をほぼ完全にブロックできるほど硬質化していることは間違いなさそうですね。反面、体組織の硬質化のせいで筋肉の柔軟性が低下。素早さが極端に低下しているようです。動き方から分析するに、硬質化していない部分はほぼないと見ていいでしょう」
 その証拠に、防御特化オークとの戦闘では互いにノーダメージ。物理攻撃を受け付けないオークと、のろい敵の攻撃を回避する契約者たち。
 舞花は、ある事情でパートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に代わり、イルミンスール魔法学校周辺にやってきていた彼女が遭遇したトラブルは、放っておけば大事件に発展することになるだろうと察し、駆け付けた次第だ。さて、どうしたものか。
「他校の身で、別の学校の問題に深入りしたくはなかったのですが……そうも、言っていられないかもしれませんね」
 呟くと、舞花はスキルの詠唱に入る。
「皆さん、攻撃の手を控え、回避、防御に専念してください。私が動きを封じてみます」
 スキル・大天使の翼。自身とその周囲にいる契約者たちの重力負荷が軽減、敏捷性が上昇した。
 できれば穏便に、双方被害のない方法で。その考えのもと、舞花がオークに立ち向かっていった。

■■■

「なかなか強そうな奴らが集まって来たな。モルモットたちは勝てるのか?」
「さあ。それをこれから試すのではないか」
「ハデスとやらが攻撃型をさらにドーピング強化したおかげで面白いことになったな。天才というだけのことはある」
「しかしこのままでは、より強い契約者が集まって来るのではないか?」
「なに、心配することはない。万が一の備えは打ってある」
 にやり。リーダー格の男は、研究室にいる者すべてを見回し、勝利を確信する笑みを漏らした。

■■■

 同じ頃、イルミンスール魔法学校から数キロメートル離れた地点に、オークの大群が確認された。この移動速度ならば、一時間程度で魔法学校に到達する。
 それまでに解決ないし撤退するよう、偵察していた生徒達から忠告があった。
 このオークたちは、仲間のオークをさらわれたことに憤怒し、奪還するために動いている。人間たちが仲間をさらったことは全員知っているようで、人間を見つけては襲い掛かっている模様。今のところ、被害者はいない。このままでは魔法学校で大乱闘が起こるのは目に見えている。
 魔法学校に集まった契約者たちは、仲間と連携を取り、事態解決に向けて大きく動き始めた。