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クレイジーな新薬実験

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クレイジーな新薬実験

リアクション

第二章
目的は中和剤

 この騒ぎを収める方法はいくつかある。シンプルなのが改造オーク含め、すべてのオークたちを倒してしまう事。
 しかし相手は、邪悪な科学者たちによって連れ去られ、モルモットにされたオーク。確かに亜人であり、時には被害を出す魔物ではあるが、だからといって問答無用で殺す道理はない。
 ――何より、相手にはそれほど戦意がないように見えます。
 御神楽 舞花は思う。であれば、さきほど科学者たちが高らかな笑い声とともに言っていた『中和剤』を投与して森に帰すのが、双方の被害が最も抑えられる方法だろう。
 目の前の相手は防御力特化オーク。
 まずは相手めがけて自前の銃を構え、引き金を引いた。
 すると弾丸の代わりに液体を射出。オイルヴォミッターと呼ばれるその銃から発せられるオイルは、絡み付いた相手の動きを封じる。
 防御型の動きが輪をかけて鈍くなったのを見て、舞花は攻撃を回避しながら次のスキル、ヒプノシスを使う。魔法の効果範囲から逃げることなどもはやできず、物理耐性しか強化されていないオークはたちまち術に堕ちていく。
「お眠りください。悪いようにはしません。すぐに仲間たちが、あなたを迎えに来ますから」
 その言葉を理解したのか、タイミングが良かったのか、防御特化タイプのオークが眠りに落ちた。

■■■

「な、なんだと!?」
 研究室内で、思わず叫ぶ声。
「チッ。所詮はケモノか。まあいい。まだあと二体いる」
 落胆の気持ちが消えないまま、研究者たちはモニターを見ながら、ノートに事の顛末を記録していった。
「あと二体? 呑気なものね」
 と、凛とした女性の声。
 研究者たちは声のした方、ドアの方を一斉に見た。
 ずどん、と豪快な破砕音とともにドアが大破。薄い煙の向こうから、数人の契約者たちが入り込んできた。
「な、なんだお前たちは?」
「なんだとはなによ。あんたらが騒ぎを起こすんだから、こうして捕まえに来るのは当然のことじゃない」
 がちり、となぜかビキニ姿の女性、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が銃を構えた。
「ツレがドア壊しちゃって悪いわね。これ以上壊されたくなければおとなしく言う事聞いたほうがいいわよ」
 と、悪びれた様子もなくダガーを構えるパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。こちらはレオタード姿。
「君たち自慢の怪物が一体、眠りに落ちたからな、遠慮なく突破させてもらった。私も薬学を嗜む身ではあるが……」
 と、強烈な威圧感を放ちながら涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が詰め寄る。親指でドアの向こう、オークたちを指しながら、言葉を重ねる。
「人体実験及びそれに準ずる行為には一切認めることはできない。たとえ相手がオークであろうとな」
 涼介の使うカーニバル・オブ・チャンピオンズのスキルは、堂々と闊歩することに強烈な威圧感を上乗せして、相手に畏怖を植え付けるもの。戦闘経験の少ない科学者ならば、これだけでほぼ圧倒できる。涼介は研究者たちの三歩手前まで近づいた。
「ところでさ、あたし心理学に興味があるのよね」
 と前置きをして、セレンフィリティもセレアナと一緒に並ぶ。
 幻惑系スキル・その身を蝕む妄執。掛けられた研究者一同は揃って、手術台の上に拘束されて得体の知れない液体を身体中に大量に注射される光景を五秒ほど見た。
「せっかくだから、ここで心理学の実験をしようか? 人間がどこまで恐怖と絶望に耐えられるかの、ね」
 たかが五秒でもおぞましい幻を見させられた研究者たちは身体中から冷や汗を流し始めた。その様子に、にやりとサディスティックな笑みを見せるセレンフィリティ。
 
 と、その時、三人と研究者の周りに煙幕が立ち込めた。

「「!?」」
 瞬間、セレンフィリティが咄嗟に隣のセレアナを突き飛ばす。すると、先ほどまでセレアナが立っていた位置を小さな影が横切った。
 同時、涼介が咄嗟に後ろへジャンプ。一瞬遅れて、足元がばちんと弾けた。
「チッ、避けられてしもうたか。勘の良いことよ。ともあれ、そこまでにしてもらおうかの」
 すとん、と三人の後ろに、着物姿のまだ幼い少女、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が現れた。
「次弾、装填。エイミング開始。次ハ、身体ヲ狙イマス」
 煙幕の向こう側で、刹那のパートナー、イブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)の声が聞こえてくる。
「やれやれ。貴重な実験の邪魔をしないでもらいたいですね」
 と、煙幕から現れる別のパートナー、ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)も眼鏡の位置を直しながら、契約者たちを睨む。
「護衛、てことね。用意いいじゃない」
 セレンフィリティが毒づくと、突入してきた一同が一斉に武器を構えた。
 刹那とファンドラはともかく、狙撃手の姿が見えない。カモフラージュか何かを使用しているのだろう。
「悪く思うな。こちらも仕事なのでの」
 じゃらり、と袖から暗器を取り出し、構える刹那。
「こっちの台詞だ。手加減しないからな!」
 涼介が叫ぶと同時、両者がぶつかった。

■■■

 一方その頃、表では攻撃特化型オークがハデスの改造を受けて大暴れしていた。
 オークは剛腕を振りかざし、ペルセポネに向かって攻撃。ペルセポネはその攻撃を受け止めようと試みた。
「うっ! ま、まだまだです! この装甲は、どんな攻撃でも破れません!」
 その言葉に反し、機晶装甲からいやな音が鳴った。見れば、攻撃を受けた胸部装甲にヒビが見える。オークの攻撃は装甲の衝撃吸収の許容量を上回っていた。
「そ、そんな! 私の装甲が!?」
 ついにペルセポネの装甲が破られ、破片が飛び散った。
「き、きゃあああ!」
 さらには攻撃を避けきれなかった高天原 咲耶も装備や服を破壊され、ぼろぼろになっていく。
「ふははは! 諦めろ妹たちよ! 科学の粋を集めたオークの前に敵などいなぶへ!」
 と、砕けた鎧の欠片がハデスの顔面に直撃。
 そしてオークはとどめと言わんばかりにラリアットを繰り出し、ペルセポネ、咲耶をまとめて弾き飛ばした。吹っ飛んだ二人は延長上にいたハデスも巻き込んで吹っ飛び、そのまた向こうにいる軟体変異型のオークに向かって飛んでいく。
「ぶひゃっ!?」
 突然、身体に衝撃を受けてびっくりしたオークは、柔らかくなった自分の身体にめり込んだ三人を見ると、見事にぐるぐるに目を回していた。
「…………?」
 攻撃、されたのだろうか。とりあえずオークはその三人をつついたり触ったりと、しばらくちょっかいを出していた。
 咲耶とペルセポネは半裸に剥かれこそしたものの身体的にはほぼ無傷。ハデスはなぜかほとんど攻撃されなかったおかげでダメージはほぼなし。しかしうら若い少女二人は目が覚めたら自身の状態に、甲高い悲鳴を上げたことは言うまでもない。

 その後、意識が戻ったハデスに激しい追及が待っていたことも言うまでもない。