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王子様と海と私

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王子様と海と私

リアクション

【犬とタコ】

「くそっ、ヴァレリアはどこだ?」
 パラミタ内海に辿り着いたキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は、周囲を見回した。
 道中、複数人の男に絡まれたり乱闘になったりすったもんだの末にようやく辿り着いたのだが、それらしい姿はない。
「リヴァイアサンの姿も……ん?」
 キロスは、海岸を歩いてくる武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)に気付いた。
 幸祐は蘇 妲己(そ・だっき)の提案でパラミタ内海に遊びにきていた。
 漆黒のビキニに黒のパーカーという姿の幸祐の両脇には、妲己とヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)がいる。
 二人は両側から幸祐の腕をがっしりと掴んだまま、互いに幸祐を誘惑しようとしていた。
「ねえ、今日の水着はどう?」
 大胆な白虎柄ビキニにシルバーのアンダーショーツというセクシーな水着を積極的にアピールする妲己。
 アクティブなアーマー付きの純白ビキニ姿であるヒルデガルドも負けじと、幸祐の腕に抱きついている。
 両手に花状態の幸祐に、海を楽しむ他の人々は好奇や憎悪の視線を向けている。
(まあ、いつものことだが……こういう時しか構ってやれないからな)
 慣れたように歩く幸祐たちの後ろから、クールな純白のビキニとゴーグルに軍用ベスト姿のルーデル・グリュンヴァルト(るーでる・ぐりゅんう゛ぁると)が着いていく。
 ヒルデガルドと妲己に翻弄される幸祐を面白そうに見つつ、ルーデルはアイスキャンディーを嘗めながら歩いていく。
 と、突如海岸を何かが走ってきた。
 犬だ。否、犬ではない。双頭の犬……オルトロスだ。
「くそっ、こいつら何でこんなところに出てくるんだ!?」
 キロスが剣を抜き、背後を見た。キロスの後ろでは、緋色のビキニを着たリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)がバーベキューをしている。
 リブロをナンパしてきた男たちを付き合わせながら、楽しんでいた。
「付き合う代わりに私の腹を満たして貰おうか。貴様のチョイスでもしも私が満足したら、後でそれなりのサービスしてやるぞ」
 不敵に笑い、肉汁したたる串から肉を堪能するリブロの元に、一頭のオルトロスが掛けていく。
 串焼きの匂いに反応したのか、リブロに飛びかかっていく。
 ……刹那、リブロの隣にいた男が、地に転がった。リブロに蹴り倒されたのだ。
 リブロは男を対物ライフルの銃座にすると、串焼きをくわえたままオルトロスの眉間と胸部を打ち抜く。
 オルトロスがリブロたちの数メートル手前で絶命したのを確認すると、リブロはくわえていた串を引き抜いた。
 何事もなかったかのように肉を咀嚼するリブロを、銃座にさせられた男は口もきけずにポカンと口を開いて見つめていた。
「意外と役に立ったな、礼を言うぞ」
 リブロは肩で対物ライフルを担ぎ、男を引き起こした。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「それと、串焼きもっと貰えるか」
 何事もなかったかのようにバーベキューを再開するリブロ。
「何だったんだ今のは……」
 キロスはリブロから目を逸らし、まだ数頭現れているオルトロスを見た。
「あ!」
 教導団指定水着姿で、犬掻きをしながら海を泳いでいたエーリカ・ブラウンシュヴァイク(えーりか・ぶらうんしゅう゛ぁいく)が、キロスの視線の先のオルトロスを見付けた。
 エーリカは素早くオルトロスの背後から近付くと、オルトロスの背に飛び乗った。
 驚いたオルトロスは暴れ出すが、エーリカはオルトロスをロデオのように乗りこなしている。
「意外と速いねこれ、乗り心地も良いし」
 オルトロスの両の頭を掴むと、さながら水上バイクのようにそこら中を走り回った。
 そんな様子を波打ち際で水遊びをしながら見ていたルーデルは、襲ってきたオルトロスの群れの中の一頭の背に飛び乗った。
 エーリカと同じようにオルトロスを乗りこなしたルーデルは、オルトロスの群れの間を駆け回ってかき乱した。
「これは面白い」
 ルーデルとエーリカの視線が、自然とかち合う。どちらともなく競争が始まった。
 水しぶきをあげて、駆け回るルーデルとエーリカ。
「戦場の黒い悪魔は伊達じゃないよ!」
「まだ勝負はついていない!」
 台風の如く駆け回る二人。キロスは波打ち際に残ったオルトロスたちを斬りながら追い払う。
「大体片付いたか……?」
 キロスの傍では、幸祐と妲己、ヒルデガルドもオルトロスを倒していた。
「駆逐完了しました」
 機晶キャノンを下ろしたヒルデガルド。
 ハルバードで戦っていた妲己は、戦っている間にいつの間にか胸のビキニが海に流されて行ってしまったらしい。
 九尾の四歩で胸を隠していた妲己に、幸祐が自分の着ていたパーカーを着せた。
「汚れてしまったな」
 幸祐はシャワーを浴びるべく、両腕に着いてくるヒルデガルドと妲己を連れて歩き始めた。
「それから、冷たいものでも食べに行きましょ?」
 幸祐の黒のパーカーを胸元結びしてビキニ代わりにした妲己は、幸祐を引っ張っていこうとした。
 ふっと幸祐がよろけた瞬間、たまたま向かいからクールな漆黒のビキニと剣帯に胸元結びの白のパーカーを着たレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)が歩いて来ていた。
 よろめいた幸祐は、レノアの両胸を掴んでしまった。
「すまない」
 謝る幸祐をレノアは冷たく睨みつけ、抜刀した。が、すかさず妲己が扇でレノアの剣を受け止める。
 するりとレノアの懐に入り込み身体を密着させた妲己は、不適な笑みを浮かべてレノアの身体に触れた。
「ほら、謝ってるじゃない。」
 戦意を喪失したレノアは、その場にへたり込んだ。
「……大丈夫か」
 幸祐に介抱されていたレノアは、屈辱感を感じてもいたが、同時に馬鹿らしくもなってきた。
「詫びに、冷たい物を奢ろう」
 レノアは幸祐の腕を掴むと、妲己に嫌みな見せ付けをしながら去っていった。
 その後ろを、妲己とヒルデガルドが追っていく。
「こっちもこっちで一波乱か……ん?」
 キロスが空を見上げると、ペガサスが飛んで来る。
 エネフに乗ったフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が上空から舞い降りて来ていたのだ。
「遅くなったわね! すぐに手伝うわ!」
「あんたも物好きだなフリューネ、一銭にもならない事を進んでやるなんてご苦労な事だな」
 赤の紐ビキニに黒のホットパンツと白革のベルト、胸元結びの白のパーカーという格好のアルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)は、内海に辿り着いたフリューネのところへやってきた。
 フリューネは到着早々に絡んで来たアルビダを見据える。
「……何をしにきたのよ」
「あたしは主君の露払いさ、鉄血の軍神として恐れられて気が抜けないお人だからな、たまには羽目を外してやるのも家臣の努めだからな」
 アルビダは仕留めたオルトロスの生首をフリューネの前に投げ捨てた。挑発的に酒を呷りながら、アルビダはフリューネにニヤリと笑いかけた。
「そう」
「あんたも飲むか? エリュシオンのビンテージ物だぞ」
 アルビダは、水着の上に付けていたベルトに装備していたワインボトルの一本をフリューネに投げ渡した。
「くっ……」
 フリューネがキャッチしたワインボトルを手にアルビダを見た瞬間、叫び声が上がった。
「出たな……!」
 海中から姿を現したのは、天をも貫くほど堂々とした体格の巨大リヴァイアサンだ。その周囲の海中で、触手らしきものが蠢いている。
 双頭のオルトロスを駆逐したキロスたちの眼前に現れたのは、タコの方のオルトロスだったのだ。



 タコ出現と同時に、海辺の一角から叫び声が上がった。
「なんか出たの〜っ!?」
 海に遊びに来ていた及川 翠(おいかわ・みどり)は、リヴァイアサンと巨大タコのぷかぷか浮かぶ海を見て、目を丸くした。
「すごく……おっきいの……」
「えぇと、とりあえず何とかしないと遊べないよね? 多分……」
 見上げる翠の隣で、サリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)は困ったようにリヴァイアサンとタコを見比べる。
「あれは……あのタコは何よ?」
 ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は、うにょうにょと蠢くタコを指差した。
「ふぇっ? あのタコさんはオルトロスさんらしいですよぉ〜?」
 スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)の言葉を聞いた途端、ミリアは固まった。
「えっ、オルトロス? オルトロスって……えっ、わんこでしょ!?」
「さっきまでわんこもいたみたいなの、でも今いるのはタコさんなの?」
 翠の言葉を聞いたミリアが、プルプルと震え出した。
「わんこじゃないオルトロスなんて……」
「ふぇっ!? ミリアちゃん、どうしたんですかぁ〜!?」
 突如ブルブルと震え始めたミリアの気迫に当てられて、スノゥが一歩引き下がる。
「わんこじゃないオルトロスなんて……! そんなの認めないわ!!」
 ミリア、怒りのサンダーブラスト。翠とスノゥは突如怒り狂い始めたミリアに、狼狽えるばかりだ。
「お、お姉ちゃん……どうしたの?」
「オルトロスを騙る不届き者は、成敗〜っ!!!」
 叫び声を上げながら、ミリアはタコ目掛けて突っ込んでいく。タコを消し炭にせんばかりの降り注ぐ雷を、海岸中に落としながら。
「……はっ、伝承通りのもふもふさんじゃない贋物が現れたのが原因ですねぇ〜!?」
 ミリアが怒った理由に気付いたスノゥは、慌ててミリアの手助けに入った。
 一方、翠とサリアは状況が良く分からず、ポカンとミリアをとスノゥを見つめている。
「頭が二つないとダメなのよおおおおおお!!!!」
 雷でオルトロスたちを蹴散らしながら、ミリアはバハムートを召喚した。
 暴走気味なミリアの補助をするように、スノゥは剛魔剣ヘルサンダーを海中に突き立て、雷を流してオルトロスたちを感電させようとする。
 と、二人の雷から逃れるようにオルトロスたちが海岸に上陸し始めた。
(よくわからないけど……)
 我に返った翠は、手にしたデビルハンマーに聖なる力を集めていく。
「倒してみるの?っ!」
 翠がフルスイングでオルトロス目掛けて突っ込んでいく。
「お、お姉ちゃんを守らなきゃ!」
 サリアは左腕を銃に、波打ち際にやってきたオルトロス目掛けて炎と雷の融合した塊を放った。
(とりあえず、タコはこいつらに任せておけば大丈夫か?)
 キロスが遠巻きにタコの群れを眺めて、リヴァイアサンを探そうとしたとき。
「裏切り者ーっ」
「キロス爆発しろーっ」
 誰かの声が、遠くから聞こえた。キロスを追ってきた、野次馬だ。
「え〜と、キロスさん爆破すればいいの?」
 背後から聞こえてきた野次を聞いたサリアは、機晶爆弾を取り出した。
「それじゃぁ……え〜いっ!」
「うおっ!?」
 突如振って湧いた災難に、キロスは海岸沿いを走って逃げた。
 そんなキロス目掛けて、サリアは次々と爆弾を投げつけていく。
「待って、爆発してもらわないと困るの」
「ふざけんなっ!!」
 遠くから見れば、サリアとキロスが浜辺で追いかけっこをしているように見える。
「女の子に追いかけられてんじゃねーよ!」
「ふざけんなもげろ! 爆発しろ!!」
 キロスは男たちの野次とサリアの爆弾から逃げるため、海岸を爆走する羽目になったのだった。