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夏祭りの魔法

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夏祭りの魔法
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「みーな! みーな! おいしそうなのいっぱいだよ、はやくいこ!」
 フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)に引っ張られる様にして屋台へと向かうのは、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)だ。今日は夏祭りと聞いて、パートナー達を連れて遊びにやってきた。
 周囲は恋人達だらけだけれど、お祭りに目が眩んでいる幼女連れでは、そんなことを気にする余裕などない。
「フランカちゃん、まって! ひとりで行ったら迷子になっちゃうよー!」
 保護者は大変だ。いやもう、本当に本当に幼児連れの人混みって大変なんだから。
 だが、そうやって振り回されるのがまた、醍醐味でもある。
 ミーナは人混みをちょこまかと走り抜けていくフランカの手をなんとか捕まえながら、その後を追っていく。
 ちなみに、そんなミーナの頭の上には、ジーク・シーカー(じーく・しーかー)がちょこんと乗っている。大人しく静かにしては居るが、おまつり、という慣れないイベントに興味津々の様子で、忙しなく視線を動かしている。
「ふらんか、いっぱいおてつだいしたから、おこづかい、いっぱいなの! おこのみやき、おおもりください!」
「……大盛り、って言うメニューは無い、けど頼まれれば作る事はできる、わけだけど、でもノーマルでも割と多いよ……大丈夫?」
 屋台を切り盛りしているののの友人が、フランカの小さな体を見て、心配そうな声を掛ける。
「うん、大丈夫だから、大盛りお願いします」
 しかし、保護者らしきミーナが太鼓判を押すものだから、店主は心配そうにしながらも、ノーマルサイズより二回りほど大きめにお好み焼きを焼いてくれた。
 生地の中にキャベツを混ぜて作る大阪風。ハイお待ち、と紙皿に載せられたお好み焼きを受け取ったフランカは、その香りを思いっきり胸に吸い込んで、幸せそうに笑う。
「こうばしいそーすのかおり。うえでおどるかつおぶし。おいしそうなの。いっただっきまーす!」
 グルメ番組のレポーターばりのコメントと共に、大きな口がお好み焼きを飲み込む。もぐもぐごっくん、と実に健康的な食べ方で一欠片飲み下すと、おいしいー、と力の限り訴える。
 ――その声を聞いた周囲の人々が、こぞってお好み焼きの屋台に並びだした。
「さて、次はジーク君、どこ行く?」
 ひとまずフランカはお好み焼きに満足しているらしいので、ミーナはもう一人のパートナーのご機嫌を伺う。
 するとジークは、みゃーみゃーと鳴きながらある屋台に向けて嘴をせっせと動かし始めた。
 その指す先は――
「型抜き?」
 そう、小さな長方形の砂糖菓子に掘られた線に沿って針で突いて形を掘り出すとお菓子や金券やらが貰えるという、夜店定番の遊戯だ。
 ジークを頭に載せたままミーナがそちらに近づいて行くと、ジークはじっと、挑戦している人々の手元を見守っている。興味津々という様子だ。
「あれは型抜きだよ。掘ってある溝どおりにくりぬくんだよ」
 教えてやると、みゃー、と返事が返ってくる。どうやら、やりたい、と訴えているらしい。
 できるのかなぁ、とも思いながら、出来なくても菓子がバラバラになるだけのこと、と、ミーナは店主に代金を渡して、引き替えに小さな砂糖菓子を受け取った。
 開いてみるまで、どんな柄かは解らない。包みをあけてみると、出てきたのは、おそらく最高難易度なのであろう、ドラゴンのシルエットが彫られて居る菓子だった。
 あちゃー、とミーナが思って居ると、ジークは器用に嘴でその菓子を摘まみ、机の上に置く。そして、針――は、嘴で持つことが出来なかったので、自らの嘴でこつこつこんこん、形を抜き始めた。
 太い嘴は意外と器用で、ピンク色の小さな菓子は見る間に複雑な形にくりぬかれていく。そして、数分後にはそこに、見事なドラゴンが出現していた!
「規定以外の道具の使用は、本来ならあまり推奨されないんだけど……ま、いいか」
 店員の女性はちょっと首を傾げてはいたものの、景品の金券を渡してくれた。
 それを受け取ったミーナは、次は何処へ行こうかと振り返る。と。
「あ、れ、フランカちゃん、それどうしたの?」
 いつの間にか、後ろで大人しく待っていたはずのフランカの両手には、どん、どどん、とやきそば、およびたこ焼きが載っていた。
「やたいのおねーちゃんにもらった。やきそばもたこやきも、おいしいの」
 こーばしいあおのり、ぷるんぷるんのたこさん、とろっとろふわふわのきじ、うーんおいしい。とフランカが無邪気に言い出せば、どうしても食べたくなってしまう。おそらく屋台の店主達、フランカを広告塔に使おうという魂胆だろう。
「うーん、なんか、良いように使われてる気がするけど……」
 そう言いながら、ミーナはフランカの持ってきた焼きそばを一緒になってつつき始めるのだった。
 ――やっぱり、その周囲にいた数人が一斉に、焼きそばとたこやきの屋台に並び出したのは、また別のお話。



「夏祭り、と、言う割にはなんだかジューンブライドの真似事のようなこともしているし……」
「ミリアちゃん、それ突っ込んじゃだめですよぉ」
 ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)のふたりは、夏祭りと聞いてデートにやってきた。
 ……若干、「夏祭り」というお題目に違和感がないではないが、あまりそこのところは深く追求せず、雰囲気だけでも楽しむことにする。
 二人は、ダイニングホールで配っているドリンクをひとつ貰って、二人で半分こにして飲みながら、庭の屋台を見て回る。焼きそばにフランクフルト、綿菓子にりんご飴、とお決まりの食べ物をいくつか選んで、それぞれ一つずつ購入した。
 一通り満足いくまで買い物したところで、落ち着いて食べられる場所を探し屋台の並びから離れる。ダイニングホールも悪くないが、やはりお祭り気分を楽しむなら外で食べたい。
 というわけで二人は屋台のあるエリアからは少し離れて、屋外に置いてあるベンチに腰を下ろした。周囲には何組かが同じように腰掛けて、祭りのひと時を楽しんでいるようだ。
「いただきまぁす」
 スノゥは早速、焼きそばのパックを開けて、割り箸を割る。隣ではミリアがフランクフルトを包みから取り出していた。
 どちらもひとつずつしか買っていないので、お互い、相手の食べているものも気になるところだ。
「はい、ミリアちゃん」
 どうぞ、とスノゥは一口ぶんの焼きそばを箸で取り分け、ミリアの目の前へと持っていく。ミリアはごく自然にそれを受け入れると、自分が食べかけていたフランクフルトをスノゥへ差し出す。
 間接キス、いう単語は、二人にとってあまり意味をなさないらしい。
 主食を平らげると、今度はわたあめを袋から取り出す。
 一口サイズに千切った砂糖菓子を、ミリアの指先がスノゥの口元へ押し付ける。するとスノゥは押し付けられるままにその指先まで受け入れる。ちゅ、と指先に甘いキスをして、今度はスノゥがミリアへと千切ったわたあめを差し出した。
 ふふ、とどちらからともなく笑い声が漏れる。
 そんな風にしてふたりで啄みあっていると、次第にわたあめは水分を吸って、少しずつカラメル状になっていく。指先が、手のひらが、口元が、カラメルに侵食されてべたべたになってしまう。それが気になって舌先で舐め取ろうとすると、それより早く相手の唇がそこに触れる。
「甘いわね」
 スノゥの唇についたカラメルを綺麗に舐って、ミリアが笑う。
「食べちゃいたいくらい」
 そう言って、今度は唇に吸い付く。甘く染まった舌が絡む。
 スノゥの腕が伸びて、ミリアの首筋をやんわりと抱き寄せた。

「……ごちそうさまです」
 その様子を、偶々通りがかったパトリックが、物陰からじーっと見つめていたことは――たぶん、誰も知らない。