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夏のS-1クライマックス

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夏のS-1クライマックス
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リアクション


【八 本戦一回戦、前半】

 S−1クライマックス本戦の出場者はルカルカ、垂、菊、ヴァンダレイ、エレーン、ろざりぃぬ、パンツマシン、涼介の八名で決定した。
 そして一回戦のカードは、ヴァンダレイvsパンツマシン、垂vs涼介、ルカルカvsろざりぃぬ、エレーンvs菊という組み合わせとなった。


     * * *


 本戦第一試合、ヴァンダレイvsパンツマシン。

 観客のみならず、スタッフのほぼ九割方までが、ヴァンダレイの勝利を確信していた。
 だがここで、思わぬ波乱が生じた。


     * * *


「あぁーっとッ! ヴァンダレイ選手、リング中央で呆然としている! ヴァンダレイ選手が、まさかの3カウントだーッ!」
 学人が驚きの念を交えて、実況席で絶叫していた。
 ヴァンダレイは、試合そのものは極めて有利に進めていたものの、ほんの一瞬――そう、本当にただの一瞬を衝かれて、組み付き魔神風車固めによる3カウントを奪われてしまったのだ。
 パンツマシン自身も、まさかヴァンダレイから勝利することが出来るとは思っていなかったのか、勝ち名乗りを受ける際には歓喜の雄叫びを上げていた。
 実際、パンツマシンの反則攻撃も、ラリアットやローキック、或いはバックドロップ等の技も、全くといって良い程に効いていなかった。
 勿論プロレスである以上、ヴァンダレイはパンツマシンの繰り出す技を全て受け切っていたのだが、どれひとつとしてダメージらしいダメージが及んでいなかったのが実情だった。
 逆にパンツマシンは、ヴァンダレイ・キックを何発も浴びてしまっており、相当な打撃が内臓に蓄積されるという有様だった。
 それでも何とか勝利を拾うことが出来たのは、ひとえに、ヴァンダレイの油断以外の何物でもない。
 ヴァンダレイは、勝ち名乗りを受けた直後にリング中央でへたり込んでしまったパンツマシンに歩み寄り、自ら握手を求めた。
「見事な逆転勝利だった。俺はもう、スタッフとしてこの大会運営に戻ることになるが、貴様はまだ、この後も勝負が続く。健闘を期待しているぞ」
「任せときな……っていいたいところだが、あんたのヴァンダレイ・キックは強烈だった。どこまで持つか分からねぇが、まぁ、やるだけやってみるさ」
 ヴァンダレイの手を借りてようやく立ち上がったパンツマシンは、ヴァンダレイからも再び勝ち名乗りを受けて観客席にアピールを続ける。
 本来ならばヒールとして参戦している筈のパンツマシンだが、この時ばかりは全ての観客から大歓声を浴びていた。
 パンツマシンの強さを世に知らしめる――ヴァンダレイを破ったことで、その目的は一応、達成出来たかも知れない。
 後はもう、この勢いに乗って優勝を目指すばかりであろう。


     * * *


 ―― S−1クライマックス一回戦、第一試合 ――

 ○パンツマシン (10分24秒、魔神風車固め) ヴァンダレイ・シルバ●


     * * *


 一回戦の第二試合では、垂と涼介が激突することになった。
 先に、垂が入場してきたが、その際彼女の傍らにはライゼが随伴している。
 不本意な形で選手として参戦したものの、予選で敗退した以上、最早ライゼは自由だ。本来のセコンドとしての役割を果たす為、ライゼは垂と共に一回戦に臨むことになった。
「予選ではメイド服を基調にした衣装だったけど、本戦では教導団カラーのコスチュームに変えたんだね」
「まぁな……第四師団代表として、恥ずかしい戦いは出来ねぇっていう、ある種の決意表明さ」
 ライゼに不敵な笑みを返しながら、垂は颯爽とリングに上った。
 次いで、涼介が入場してくる番である。
 この時も軍用バイクに跨っての入場となった涼介だが、驚いたことに、シャナとサフィが涼介の左右に立って共に花道を進んできた。
 カーニバル・オブ・チャンピオン――涼介とシャナが揃って行進することで、その威風堂々たる雰囲気は冒しがたい尊厳に包まれている。
 熱闘を繰り広げたシャナが共に歩を進めることで、涼介のモチベーションはこれまでには無い程に、沸き立っていた。
 リングサイドでシャナとサフィが退き、涼介ひとりがリング内に躍り上がる。
 対する垂も、ライゼをエプロンサイドから場外へと退かせて、試合開始を待つ態勢を取った。

 レフェリー正子の要請で、試合開始のゴングが鳴った。
 試合序盤は、垂が攻めて涼介が受けるという展開。
 タランチュラやトラブル・イン・パラダイス、或いはフランケンシュタイナーなどで涼介を攻め込む垂だが、矢張り涼介は熟練である。
 凌ぎ方が、どれをとっても上手かった。
 勿論、技そのものはしっかり真正面から受けている。だがダメージを最小限に抑え、且つ仕掛ける側の垂に体力を消耗させる受け身の取り方というものは、矢張り一級品である。
 尤も、涼介が受けに徹しているのには、理由があった。
 直前にシャナと戦った試合で、両脚へのダメージが少なからず、残っていた為だ。
 ここで無理をして怪我をしてしまっては、元も子もない。
 相手を信頼し、怪我をさせないことも重要だが、自分自身が怪我をしないことも、プロとしては必ず求められる要件なのだ。
 だが流石にF5までまともに受けてしまうのは、拙いと判断した。
 垂が涼介の体躯を担ぎ上げようとしたタイミングを狙って、逆に垂を引きずり倒し、トワイライトベルトで締め上げにかかった。
 ここまでひたすら、技を仕掛ける側だった垂は、体力の消耗が激しい。
 このトワイライトベルトでスタミナを削られるのは、実は意外と、垂には厳しい攻めだった。
 ロープブレイクで辛うじて逃れた垂だが、その後に続くフライング・クローズラインはかわし切れず、ダウンした直後に豪快に持ち上げられ、ラストライドでマットに叩きつけられた時には、カウントを弾き返すだけの体力が残されていなかった。
 涼介にしては珍しく、垂との試合は短期決戦だったが、両膝に蓄積されているダメージを考えると、これも止む無しであろう。


     * * *


 ―― S−1クライマックス一回戦、第二試合 ――

 ○涼介・フォレスト (4分11秒、エビ固め) 朝霧 垂●