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夏のS-1クライマックス

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【九 本戦一回戦、後半】

 一回戦の第三試合。
 ルカルカvsろざりぃぬという好カードに、場内は試合開始前からヒートアップしている。
「この第三試合、皆さん、しっかりと細かいところまで見てて頂戴ね〜ッ!」
 理沙とセレスティアが改めて両者のプロフィールを読み上げている間、美緒とフィリシアがボードを掲げてリング内をゆっくりと歩いて廻っていた。

 この直前、ダリルと淵がルカルカの控室を訪れて、ルカルカとろざりぃぬの選抜予選での試合内容をまとめたビデオ動画を交えての対策を練ろうとしていた。
「手強い……どころでは済まんぞ。相手は百戦錬磨だ。絶対に、ペースを掴ませるな」
「分かってる、っていいたいところだけど、こればっかりは始まってみないと、何ともいえないわね」
 ダリルから忠告を受けたからといって、有効な対抗策がすぐに練れる程、ろざりぃぬは甘い相手ではない。
 もうこうなったら、開き直るしかない――ルカルカは下手な先入観を捨て、頭の中を真っ白にした上で、ろざりぃぬとの対戦に臨む腹を決めた。

 ルカルカとろざりぃぬがリングインすると、早くも場内からはルカルカコールと、ろざりぃぬコールが会場の四方から押し寄せてきている。
 ゴングが鳴った直後、静かな立ち上がりからお互いを探り合うという展開でさえ、会場からはどよめきや歓声が鳴りやまなかった。
 ペースを握ったのは、ルカルカであった。
 至近距離からのローリング・ソバットや、テイクダウンしてからの膝十字固めなどで着実にろざりぃぬを攻めたててゆく。
 だが、技の組み合わせに幾分、問題があった。
 相手はあの、ろざりぃぬである。
 一点を徹底的に攻め立てて動きを止めなければ、どうにもならない怪物であることを、ルカルカはこの試合で改めて思い知る破目となった。
 逆にろざりぃぬは、ルカルカにペースを握らせつつも、スリーアミーゴス(3連続高速ブレーンバスター)、ケブラドーラ・コン・ヒーロ、バックドロップなど、徹底して受け身の取り辛い背面への直接攻撃で、ルカルカの脊椎へのダメージを蓄積させていった。
 ルカルカの動きが急変したのは、中盤に差し掛かった頃合いである。
 それまでペースを握っていた筈の彼女は、急激に技の出足が悪くなり、次第に防戦を強いられるようになってきたのだ。
 人間、脊椎にダメージが蓄積すると、体が思うように動かなくなるものである。幾多の戦場を潜り抜けてきたルカルカであっても、その例外ではなかった。
「あ〜、やっぱり、駄目かのう」
 観客席で淵が、諦めたような表情で大きく溜息を漏らした。
 その淵の目の前で、ろざりぃぬがマントを観客席に放り捨て、ブラックタイガーボムの態勢に入った。
 ルカルカは踏ん張りが利かず、軽々と持ち上げられた挙句にマットへと叩きつけられた。
 更にそのままエビ固めに封じられ、これもカウントを跳ね返すだけの力が全身に伝わらず、そのまま、三つ目のタップを聞くことになってしまった。
 勝ち名乗りを受けるろざりぃぬの隣で、ルカルカは背中をさすりながらゆっくりと起き上がった。
「一回戦突破、おめでとう。でも、次は負けないよ」
「……あ、御免。次はもう、無いかも知れない」
 ろざりぃぬが放ったこのひと言の意味を、ルカルカはこの時点ではまだ、理解出来なかった。


     * * *


 ―― S−1クライマックス一回戦、第三試合 ――

 ○魔女っ子ヒート・ろざりぃぬ (18分38秒、エビ固め) ルカルカ・ルー●


     * * *


 ルーシェリアと悠里の際どいレオタードが、本戦になって更に、その過激さを増したような気がしないでもない。
 レフェリー正子は、観客の反応が悪くないことを理由に敢えてルーシェリアと悠里の好きなようにさせていたが、これが蒼空学園内でのイベントであれば、校長権限を行使してでも、ふたりの衣装をもう少し大人しめなものに変えさせていたかも知れない。
 尤も、次のカードは菊vsエレーン――いずれも女性である。
 ルーシェリアと悠里の過激なレオタード姿に惑わされるという心配は無かった。
 その菊とエレーンの試合だが、序盤から荒れに荒れた。
 エレーンが狂乱ファイトをゴングが鳴る前から仕掛けていけば、菊もゴング前なら問題無いとばかりに木刀で応戦し、慌ててエレーンの助太刀に入ろうとした典韋の額を叩き割って、流血沙汰に発展したのだ。
 しかしながら、プロレスに於いては流血はひとつのエッセンスである。
 リングサイドに陣取るローザマリアは、典韋が流血しながら場外に逃れるシーンを逆に利用して、エレーンに更なる凶暴化ギミックを発揮するよう、目線で指示を送っていた。
 エレーンはわざと呼吸を荒げて、菊に挑みかかる。
 菊は菊で張り手が逆襲し、両者お互い譲らず、一歩も引かない狂乱ファイトが展開された。
 比較的、正統派と呼んで良い試合展開が多かった為か、菊とエレーンが見せるラフファイトが却って新鮮に映り、観客の反応はすこぶる良かった。
「ソノ張リ手、何カ怪シイデースッ! キット、凶器ヲ仕込ンデイルニ違イアリマセーンッ!」
 ローザマリアがエプロンサイドに駆け登り、悪徳マネージャー特有の、レフェリーの気を引くパフォーマンスで正子の注意を引きつけ始めた。
 その間、額から血を流しつつも典韋がリング内に飛び込み、エレーンとふたりで二対一の状況を作り出し、菊を前後からめったやたらに打ちのめしていった。
「どわぁッ、糞ッ、この野郎ッ!」
 菊が典韋に追いすがろうとするも、エレーンの狂乱ファイトに阻まれて、止む無くリング内での戦いに専念せざるを得ない。
 やっとのことで正子がローザマリアをリング下に退かせてレフェリングに戻ってきたが、典韋は尚も、次のチャンスを窺う姿勢を見せていた。
 エレーンは、菊から繰り出す技はひと通り、受け続けていた。
 ボディスラムはともかく、みちのくドライバーは少々ダメージが大きいものの、それでもエレーンは敢えてかわさない。
 そこは矢張り、ローザマリアからの指示を忠実に守っており、プロレスはお互いに技を仕掛け合ってなんぼという暗黙の了解を、しっかり理解している証拠でもあった。
 一方の菊は、二対一どころか、下手をすれば三対一の状況にもなりかねないことに焦りを感じ、短期決戦に出る腹を固めた。
「これで、どうだいッ!?」
 フィニッシュホールドたる機矢滅留・苦落血を完成させ、エレーンを全力で攻め立てる。
 だが、ここで再びローザマリアがエプロンサイドに躍り上がって正子の注意を引いた。
 その間に典韋がリング内に跳び込み、ラリアットを一発、お見舞いする。菊はそのまま、マットの中央に大の字となってしまった。
 エレーンは意識が朦朧としている菊を引きずり起こすと、そのまま強引にアサイDDTに葬った。
 頃合い良しと見たローザマリアは、リング下に退く。
 レフェリー正子がリング中央に振り向くと、丁度エレーンが菊を片エビ固めに封じようとしていた。
 場内からは、盛大なブーイングが鳴りやまない。
 尤も、この反応こそローザマリアの企図したものであり、ヒールとしての醍醐味でもあった。
 菊はエレーンの片エビ固めを跳ね返すことが出来ず、敢え無く3カウントを聞く破目となった。


     * * *


 ―― S−1クライマックス一回戦、第四試合 ――

 ○エレーン・ルナ・マッキングリス (12分50秒、片エビ固め) 弁天屋 菊●