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第2章 ペーパ・ドクの企み

「恐怖心ゲージの回復を確認、現在45%」
「ほうほう、どうやら恐怖心ゲージがたまらないように諸君は頑張っているようだな」
 建物の影から、逃げ惑う住民達をのぞき込みながらペーパは感心する。

「――同士、何を企んでいるのだ?」
「来ると思っていたぞ、ハデス」
 突然の声に、ペーパはにやりと笑みを浮かべた。
 背後に現れたのは、ドクター・ハデス(どくたー・はです)だった。
「ふっ、悪いがそれは教えることはできない。だが、恐怖心ゲージを高めればきっと面白いものが見れるぞ」
「ククク、良いだろう。世界征服計画に協力する友として、お前に協力しようではないか!」
「させるとでも?」
 そんなドクターの首筋へ向けて、カチャリと銃の構える音が聞こえた。
 ドクターはその音に、背後を振り返るとそこには無表情で”ヘビーマシンピストル”を構える
マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が立って居た。

「やっぱり、ドクター・ハデスを追いかけてみて正解でしたね」
 暗闇からゆっくりと姿を現したのは水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)だった。
 ゆかりはドクターなら、ペーパと接触するだろうと踏んで後を追いかけていたのだった。
「追いかけてきたと言うことは、このペーパ様に要があるのだろう?」
「爆弾の解除の仕方を教えて」
「ふんっ、教えるとでも思ったか」
「こいつの脳天がどうなっても良いの?」
 マリエッタはヘビーマシンピストルをドクターの頭に突きつける。
 おもわずゆかりは「こっちが悪役みたいになってるわよ」と小さい声で突っ込みを入れる。
「こっちは前回のパフェだけならず、今日のバイキングまで邪魔されたのよ!? 死刑じゃすまされない地獄行き決定!!」
「……また、始まったわ」
 マリエッタの力説にゆかりは小さくため息をつく。

 だが、ドクターは恐怖に駆られるどころか、笑って見せた。
「ククク、クッハハハ!」
 ドクターは”魔力解放”させる。途端、掛けていためがねがサングラスへと変化する。
 マリエッタの手をかいくぐり、ドクターは”地獄の天使”で一気に空へ舞い上がる。
「愚民どもよ、我が真の姿を見て、恐怖するがいい!!」
 ドクターは”アボミネーション”で地上を逃げ回る住民達に更なる恐怖を与えていく。
「あーもうっ!! ただでさえイライラするって言うのに!」
 マリエッタは苛立ちながらもそれを追いかける。

「ククク、悪の天才科学者からは逃げられんぞ?」
 ドクターは住民達を”魔王の目”で捕らえる。
 住民たちは恐怖から逃げられず、恐怖に怯える。

   §

「70……80……さすがですね。どこかのヘボ博士よりは完璧なやり方です」
 恐怖心ゲージの上昇を感じ取った助手は数値を読み上げる。
「上がりすぎだ!? 時に助手よ。お前は誰の助手なのだ」
「ペーパ博士の助手です」
「なら、もっと私の事を持ち上げてくれても良いだろう!」
「コントはそこまでよ、恐怖心ゲージとかいうのがあがったとしても、爆弾さえ解除してしまえば問題ないはず」
 ゆかりは睨み付けるようにして、”【シュヴァルツ】【ヴァイス】”をペーパに向けて構える。
「1人で爆弾を解除するつもりか」
「いいえ、ペーパにも手伝って貰うわ。もちろん拒否権はないわよ」
 ペーパは「ふんっ」と鼻で笑った。
「おい、助手。爆弾の設置箇所を教えてやれ」
「……サーチ完了。全部で113件。1件目――」
「まった、113個爆弾があるって言うの!?」
 助手の言葉にゆかりは、口を大きく開けて驚く。
 ゆかりは信じられないとばかりにペーパを見て、答えを待つ。
「くっくっ、夕の奴、やってくれる。我がプランにもなかった方法だ。恐怖心ゲージという時間制限に、と言っても制限内では解除できない数の爆弾」
「――っ」
 つまりこのゲームは、爆弾解除へ全員が動けばそれだけでゲームオーバーになる。
 だが、どこかに穴があるのではないかと、ゆかりは”機晶技術”を頭の中で張り巡らせる。
「まって、それだけの爆弾を一気に爆発できる電波塔のようなものがいるはずよね」
「ふむ、良いところに気がついたな。だったら、あそこへ行ってみるが良いだろう。おそらく最上階にばかでかい装置がある」
 ペーパはまっすぐとテレビの電波塔を指さす。
 そして、ペーパは無言でゆかりの前から立ち去ろうとし始める。
「逃げるつもり?」
 ゆかりは【シュヴァルツ】【ヴァイス】を構える。
 だが、ペーパは見向きもしなかった。
「恐怖心ゲージとお前の爆弾阻止、どっちが早いかな。これは夕に言わせればゲームらしい。まあ、せいぜい楽しむがよいさ」
 ペーパが高笑いを始めた途端、ペーパと助手の姿は暗闇へと溶け込んだ。

「……ゲーム、ふざけないで欲しいわね」
 ゆかりはため息をついて、空を見上げた。
 そこにはテレビの電波塔が、不気味に鎮座していた。

   §

「居た!」
 マリエッタは”グラビティコントロール”を発動させると、高層建築物の壁を伝い屋上へと上り詰める。 
 その高さはドクターが今飛んでいる高さと同じ高さだ。そこでようやくドクターの姿を捕らえた。
 ドクターはそんなマリエッタに向けて、”武器凶化”させた”魔剣ゴッドスレイヴ”を切り裂く。
「きゃっ!?」
 マリエッタの足下は、魔剣ゴッドスレイヴにより崩れ落ちる。
「クックック、第二形態になった俺を、お前ごときが倒せるわけがない!」

「……もうあったま来た!!」 
「ククク、何をやってもかわら――ぐああっ!?」
 ドクターが余裕の笑みを浮かべたときだった、一筋の稲妻がドクターの目の前を走った。
 それはマリエッタの”サンダークラップ”だった。
 皮肉にも住民達を恐怖に落とすためにも纏った冥府の瘴気、これが光輝に弱いという弱点を作り出してしまったのだった。
 さらに雷を受けた、ドクターは思わず動けなくなってしまう。
「食べ物の恨み、貴方にはないけどペーパの代わりに受けて貰う!!」
「ま、待て、それは筋違――」
 マリエッタは”パイロキネシス”をドクターに放った。
 食べ物の恨みが込められた炎が燃やし尽くし、ドクターは地面へと落ちていった。