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閉幕の儀 閉会式&結果発表


 沈み始める太陽に染められていく、蒼海。
 茜から既に漆黒へと移り変わる、蒼空。

「お疲れさまでした」

 そして紡がれる、房姫の優しい声。

「皆さんの勇姿を見せていただき、とても楽しい1日となりました。
 遠泳では、脱落者もおらず、全員が4キロを泳ぎきる結果に。
 またバレーボールでも、両者譲らず、どちらが勝っても文句なしの試合運びでした。
 ハイナの突然の思い付きにお付き合いいただき、感謝を申し上げますわ」

 ひとつにまとめた黒髪が、礼とともに音を立てて流れる。
 拍手に、笑顔で応えた。

「それでは、結果発表じゃ。
 呼ばれた者は、前へ出てくるでありんす」

 前振りをして、ハイナは封筒から二つ折りの用紙をとり出した。
 すべての競技結果が、あのなかに書かれている。

「まずは遠泳大会。
 優勝は夏侯淵じゃ!」
「おぅよっ!」
「準優勝は、僅差でルカルカ・ルーだったの」
「耀助に勝てて満足だよ!」
「ビーチバレー大会の優勝は……Bチームでありんすっ!
 Aチームもよく食らいついたが、惜しくも準優勝。
 出場者は全員、前へ出てきてくれるかのう」

 すべての表彰者が、列の前方へと横並んだ。
 呼ばれた順に、ハイナからメダルがかけられる。
 裏に、大会名・賞・名前の入った、一点物だ。
 ちなみに表面には、葦原明倫館の校章が彫られている。

「遠泳大会で賞に入らなかった者達には、完走記念のメダルを贈呈でありんす。
 最年少記録保持者として、フランカ・マキャフリーにはお菓子もつけよう」
「ふらんか、よばれた?」

 先程のメダルは、順位に合わせて黄金と白銀。
 たいしてこちらは、夏らしい紺碧だ。

「最後に、運営を手伝ってくれた者達。
 おぬし等がおらねば、大会の成功はありえなんだ。
 ありがとう」

 秘書から審判、屋台の主にいたるまで、大会運営にかかわったすべての生徒達へ。
 ハイナの髪を思わせる、翡翠のメダルをかけた。

「それではこれより、夕べの宴を開催するでありんす!
 匡壱っ!」
「はいはい、準備万端だぜっ!」

 ごろごろと引いてきた荷車には、大量の食材が乗っているではないか。
 野菜に肉に魚に米に、果物や和菓子洋菓子の類まで。
 本部横の屋台を借りて、調理開始だ。

「すごい……エクスさん、リーズさん。
 あの、いつもこうなんですか?」
「そうだよ、ハイナの行動はいつも突発的!」
「じゃが、それ故の面白さもある。
 さて、厨房の女神として、いってくるかのぅ」

 呆気にとられる純に、さも当然と答えるリーズ。
 上着の袖をまくり、エクスはテントの下で包丁を握る。

「こんなに早く、あんたとまたこの場所に立つとはな」
「そうだのう。
 いつでも明倫館の食堂へ来るがよい、歓迎するえ」
「あぁ」
「やったぁ〜朱鷺も運ぶの手伝います!」

 数時間ぶりの名コンビ復活に、生徒達は沸き立った。
 昼食の美味しさをまた堪能できると思うと、涎が止まらない。

「あ、またチョコばかり……鼻血が出るぞっ!」
「大丈夫だよ〜カルキノス〜♪
 ってそんなことより、優勝おめでとう、淵!」

 板チョコレートを丸かじりしているパートナーに、カルキノスは注意を促す。
 しかしルカルカが聞き入れるハズもなく、見付けた戦友のもとへと行ってしまった。

「ルカ、ありがとう」
「次は絶対に勝ってみせるよ〜」
「あら、耀助。
 それにはまず、ルカに勝たなきゃ!」
「確かに。
 だがラストスパートの競り合いは、なかなかであった。
 正直、最後まで勝負の行方は分からなんだ」
「改めて、次はルカルカと淵の両方に勝ってみせるよ〜」
「うん、ルカも負けない!
 耀助みたいな、本気でぶつかれる友人がいて、ホントによかった。
 これからもよろしくね!」
「なに改まっちゃって〜勿論だよ〜♪
 そういえば、結婚したんだってね〜おめでとう!」
「嬉しい、ありがとう!
 お返しにって訳じゃないけどお土産だよ」
「じゃあオレからもお菓子をあげるよ〜」

 遠泳大会トップ3が勢揃い、早くも次回の対戦を申し込む。
 今年の夏も終わるため、再戦は来年となるだろう。
 所属を越え、よきライバルに出会えたことが、素直に嬉しかった。
 日本の携帯ゲーム機と最新ゲームソフトのセットと葦原名産の菓子を交換して、盛り上がる。

「ところで仁科殿、将来はなにになりたいのだ?
 なにか成したいことはあるのか?」
「唐突だね〜ん〜」

 肉野菜炒めを中心に、同じテーブルを囲む3人。
 淵は、ずっと温めていた疑問を、思いきってぶつけてみることにした。

「ひとまずは、葦原島のすべてのお姉さんと知り合いになりたいかな。
 それでなにか、お姉さん達の役に立てる仕事をしたいね〜」
「そうか、俺も友として応援しよう!
 1人でも多くの女性が、幸せになれるとよいな」
「ありがとう〜んで、そういう淵の目標はなんなの〜?」
「俺か?
 パートナーであるルカを大物にすることだ。
 ま、ほっといても勝手になりそうだけどな」
「そっか〜お互いがんばろうね!」
「だな」

 拳を軽く打ち付け合い、耀助と淵は、夢の成就を互いに誓う。

「熱いのぅ……」
「ん、そうか?
 ではスイッチを入れよう」

 呟きひとつ聞き逃さず、持参した『巨大扇風機』をまわすダリル。
 その前に氷柱を置けば、ひんやりとした風が送られるという算段だ。
 冷やした『緑茶』と『エリュシオンの茶菓子』も出せば、完璧な秘書っぷりを発揮する。

「涼しいでありんす〜。
 ただ、いまの『熱い』は、あやつらを見てそう思っただけだったのじゃがの。
 まぁ暑いのは確かにそうじゃし、風はこのままで〜」
「そうだったか。
 俺も修行が足りないな……」
「何故そのように暗くなるのじゃ。
 妾を想ってのことであろう、堂々とすればよいのでありんす。
 ダリルの能力は、これでも買っておるのじゃよ?
 正式に妾の秘書として、葦原へ来てもらいたいくらいにのぅ」

 いまも2台の『シャンバラ電機のノートパソコン』には、参加者達の姿が映し出されている。
 これは、ダリルが設置した『デジタルビデオカメラ』の捉えた映像だ。
 本部席にいながら、ハイナがイベント全体を観戦できるように、という配慮。
 まさに、機械や電子に特化したダリルだからこそ、考えついたことと言えよう。

「なんと……勿体ない言葉だ。
 しかし国を守る使命があるから……嬉しいが、遠慮させてもらうよ」
「分かっておるよ」
「ハイナの秘書は、やりがいがあって好きなんですけどね」
「ならばまた明倫館へ来たときには、こき使うてやろう」
「なんなりと」

 心は通じていると、ダリルもハイナも感じていた。
 きっと次も、立派にこの役割を担おうと、強く想う。

「ハイナに房姫、ダリルもどうぞ」
「おぉ、待っておったわ」
「いただきます」
「美味しそうだな!」

 屋台からもらってきた料理を、差し出した唯斗。
 【縮界】の効力で、誰にも知覚されることなく本部席まで走ってきた。

「そろそろ夏も終わると思うと感慨深いものが……あ。
 なんかずっと働いてた記憶しかない……」

 仕事も一段落して、ふと夕陽を眺めてみる。
 あれ。
 この夏の想い出なんて、仕事しか浮かばないではないか。

「唯斗も、当初と比べて相当にスキルアップしたのぅ」
「えぇ、明倫館でもトップクラスのスペックになってきたんじゃないでしょうか?」
「いつもありがとうの、唯斗」
「なんですか、いきなり……」
「言葉のとおりじゃよ」
「それは、どういたしまして」

 どの行事ごとでも、いつも運営側として身体を張ってきた。
 ただ受け身に参加するよりも、様々な能力が身に付くに決まっている。
 そしてそんな唯斗がいたからこそ、諸々が上手くいったのだ。
 心からの感謝を、ハイナは口にした。

「もしもし、陽太?」
「はい、エリシアですか?」

 さてこちらは、本部席から離れたところで電話をかけるエリシア。
 お相手は、パートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)だ。
 相変わらず子育てに忙しく、今日も家族で留守番をしている。

「ビーチバレー、負けてしまいましたがとても楽しかったです!
 わたくし、ひたすらボールの軌道を読んで、拾いまくりましたのよ。
 アタッカーとセッターの息がぴったりで、すべて返してくださいましたわ」
「へぇ、それはすごいですね」
「それで第3セットまでもつれて、結局3点差で負けてしまいました。
 次があれば、必ず優勝してみせますわっ!」

 上機嫌で話すエリシアの胸は、充実感に満ちていた。
 結果は残念だったが、自身が全力で挑んだ過程は、決して無駄ではなかったから。

「そうですか。
 エリシアが海で充実した1日を過ごせたようで、なによりです。
 機会があれば、家族みんなでも海に行ってみたいですね」
「えぇ是非、参りましょう!
 それではもう少し、夕食会を楽しんでから帰りますわね」
「はい、お気を付けて。
 ありがとうございました」

 一方の陽太は、にこにこ笑いながらエリシアからの報告を聴いていた。
 娘がもう少し大きくなったら、嫁も、勿論エリシアも一緒に、海にも山にも出かけたいと思う。

「さて……わたくしもご飯をいただきましょう」

 持参した紅茶で一息。
 水分と糖分を補給して、エリシアは皆の輪へと戻っていった。

「今日もセレアナは素敵だったわ」
「セレンこそ、アタックかっこよかったわよ」

 そんなエリシアと同じチームだった、セレンフィリティとセレアナのコンビ。
 浅瀬に寝転んで、火照った身体を冷やしている。

「第1セットは、セレンの作戦が上手くはまったわね。
 まさかあたし達がだらだらと単調な攻撃をしていたなんて、思いもよらなかったでしょうね」
「ふふふ。
 単調ながらちゃ〜んと点はとって、終盤たたみかける!
 チームでの連携もとれて、いい試合だったわ」
「続く第2セットは、相手の気迫に押されましたね」
「えぇ、なかなか手ごわかった。
 別の大会で準優勝しているだけのことはあったわね」
「最終セットも、あと少しだったなぁ」
「けど追いつけない差ではないわ」
「またみんなと、戦えるといいね」

 セレンフィリティもセレアナも、アビリティで反応速度を上げ、試合に臨んでいた。
 使ったのは【ゴッドスピード】や【パスファインダー】に【兵は神速を尊ぶ】などなど。
 それでも追い付けなかったのだが、僅差故に諦めがつかない。
 リベンジも含めて、もっともっと2人での想い出をつくろうと言葉を交わした。
 そこへ。

「食べるか?」

 差し出されたのは、こんがり焼けたとうもろこし。
 まさにいま話していた、菊達ご一行がやってきたのだ。

「あ、ありがとう」
「いかもあるぞ?」
「こちらはデザートの果物盛り合わせである。
 如何か?」
「嬉しい、いただきます」

 ガガと卑弥呼も食べ物を持ってきてくれて、2人は砂浜へと移動する。
 波打ち際へ横一列に並んで、もぐもぐ。
 同じように、競技を振り返っての話題で盛り上がり、別れた。

「ガガも卑弥呼も、大活躍だったね」
「いやいや、菊の【ドラゴンアーツ】に比べたらガガなんて……」
「あたい、少しは役に立てたかねぇ?」

 新たなる食べ物を得ようと、屋台へ足を向ける3人。
 アビリティの活性化もコンビネーションも、ビーチバレーに懸けてきていた。
 今日の優勝は、まさにとるべくしてとったと言っても過言ではないだろう。

「あたい、次は焼きそばをいただこうかな!」
「じゃああたしは箸休めにケーキでも……」
「ガガは腹ごなしにボールを打とうかと思うんだけど、みんなもどう?」
「ほぅ、それは楽しそうだね!」
「やっちゃう?
 手加減しないよ?」
「よ〜し、じゃあ砂浜へ行こ〜うっ!」

 おかわりを持つはずだった手に、紅白柄のバレーボールを持って。
 ガガを先頭に、先程の試合会場へと走っていった。

「次はなにを食べようかなぁ〜」
「さゆみ、あまり食べると仕事に差し支えますわよ?」

 すれ違い屋台の前へ、さゆみとアデリーヌがやってくる。
 アイドルとして活動しているため、あまり食べすぎてはいけないと心配をするのだが。

「大丈夫でしょう!
 だってたくさん動いたし。
 今年の夏は余りに暑すぎるもの、汗で痩せたわっ!」
「はぁ、まったく……でもいいわ。
 あなたがそれでよろしいのなら」
「さっすがアデリーヌ、話が分かるわ!」
「体重計に乗っても、泣かないでくださいませね」

 アデリーヌにとって、最早さゆみの幸せは自分の幸せと同義だった。
 故にさゆみがイヤなことを無理強いするなんて、土台無理な話。
 食べたいモノを食べたいだけ食べて、さゆみが幸せなら。
 後悔も、一緒に背負っていけばいいのだから。

「ぷぅ〜」
「機嫌直してよ、フランカってばぁ〜」
「やですぅ〜だってみーな、きょうはさほおねーちゃんばっかりだったんだもん。
 ふらんかもみーなとあそびたかったのにぃ〜」

 今日はめいっぱい、婚約者といちゃらぶしたミーナ。
 おかげで素敵な1日は過ごせたものの、パートナーのご機嫌を損ねてしまった。

「ほら、美味しいケーキでも食べてさ。
 明日はまたいっぱい遊んであげるから、ね?」
「けーき……くれるの?」
「これもこれも、ミーナの分も食べていいよ!」
「わぁいじゃあゆるす〜♪」

 子どもって、可愛い。
 ケーキを頬張るフランカを眺めつつ、ミーナは胸を撫で下ろした。

「うむ、今日も楽しい1日であった。
 またいつか、皆で来られるとよいのぅ」
「そうですわね。
 わたくしも、今日のことは忘れませんわ」

 溢れる笑顔を受けて、ハイナも房姫も嬉しさを口にする。
 またひとつ。
 2人の、そして皆との、想い出が増えたことに、感謝。

担当マスターより

▼担当マスター

浅倉紀音

▼マスターコメント

お待たせいたしました、リアクションを公開させていただきます。
遠泳&ビーチバレーの結果は、アクションの内容を検討して決定いたしました。
どなたもアビリティの効力や使いどころなど、よく考えられていたと思います。
また、運営側でもさまざまなお仕事をこなしていただきました。
企画が大成功しましたのは、ご参加いただいたすべての皆様のおかげです。
楽しんでいただけていれば幸いです、本当にありがとうございました。

▼マスター個別コメント