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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

リアクション

 エッシェンバッハ派による首脳会談襲撃より数日が経過した。
 迅竜機甲師団により各校の首脳は無事守られ、各校はもとより迅竜機甲師団の面々にも安堵の色が伺える。
 
 だが、安堵してもいられない。
 新たな脅威である銀色のグリューヴルムヒェン・シリーズが現れたのだから。
 スミスはすぐに次の手を打ってくるだろう。
 それまでに私達は態勢を整え、反撃に備えなければならない。
 
 とはいえ、あれだけの性能に抗しうるものをすぐに用意するのは難しい。
 しかしながら、まったく希望がないわけではない。
 期せずして、私達に回収された漆黒の七機。
 
 およびそのパイロット達によってもたらされた情報。
 それがあれば、あるいは――
 
 そこまで考えて、私――イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)はタイプしていた報告書を保存した。
 見れば朝早い時間だ。
 情報の分析に夢中になるあまり、夜を明かしてしまったらしい。
 
 すぐ近くのベッドでは、娘のジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が寝息を立てている。
 彼女を起こさないように立ち上がると、コーヒーを淹れた。
 
 再びデスクの前に座ると、私は得られたばかりのデータに再び目を通す。
 モニタ上に過去の映像ファイルを再生しながら、私は新たな情報と照らし合わせていく。
 
 第一の機体――シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“ユーバツィア”。
 私達九校連の前に最初に現れたグリューヴルムヒェン・シリーズにして、最初のシュバルツタイプ。
“ユーバツィア”と呼ばれる追加武装を装備することにより、他のグリューヴルムヒェン・シリーズと同様の武装を得ることが可能。
 特筆すべきはその汎用性と拡張性の高さ。
 パイロットの操縦技術の高さもあり、“ユーバツィア”を装備していない本体のみでも高い戦闘能力を持つ。
 蓄積された戦闘データを基に、更に魔術も技術として組み込んで開発された“生きた金属”による新武装――第七のユーバツィアを装備することにってすべてのバリエーションの武装も使用可能。
 なお、“ユーバツィア”とは便宜上の区別であり、本来のコードネームはシュバルツ・グリューヴルムヒェン。
 その為か、スミスも『グリューヴルムヒェンの完成系に最も近い機体』と称していた模様。
 
 第二の機体――シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“フリューゲル”。
 我々九校連側のコードネームでは“フリューゲル”と呼称。
 奇しくも我々とエッシェンバッハ派のコードネームが一致した形になった。
 背部に装備した飛行ユニットよる高機動性と、そこからのエネルギー供給による大出力のエネルギー兵器が特徴。
 
 第三の機体――シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“シュベールト”
 我々九校連側のコードネームでは“ドンナー”と呼称。
 精度の高いマスタースレイブにより、人間同様の動きをすることが可能。
 パイロットが武術の達人である為、その技を使用する。
 
 第四の機体――シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“カノーネ”
 我々九校連側のコードネームでは“ヴルカーン”と呼称。
 全身武器庫のような超火力が特徴。
 またセンサー類も軒並み高性能であり、それらを活かした火線を得意とする。
 
 第五の機体――シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“シルト”
 我々九校連側のコードネームでは“フェルゼン”と呼称。
 圧倒的防御力の重装甲と、それを纏ってもなお動けるだけの馬力が特徴。
 怪力を活かしたパワーファイトはもちろん、装甲をパージしての超高速戦闘にも対応する。
 
 第六の機体――シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“ツァオベラー”
 我々九校連側のコードネームでは“ヴェレ”と呼称。
 魔法や超能力を扱うことに特化した機体であり、それらのエネルギーを増幅する装備を持つ。
 なお、パイロットが超能力者であるゆえか、コクピットには一切の計器類はもちろん、モニターやシートもない。
 ただ白い部屋のようなスペースがあるだけだ。格納庫にあった機体を見た時、私は驚きを禁じ得なかった。
 
 第七の機体――シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“シュピンネ”
 エッシェンバッハ派に与した天貫彩羽の為に新造された、七機目のグリューヴルムヒェン・シリーズ。
 パイロットである彼女の特技に合わせて電子戦に特化した性能。
 私達の前には三度目の襲撃である海京襲撃戦の際に初めて確認される。
 なお、他のグリューヴルムヒェン・シリーズが専用の魔鎧によるサポートシステムで単座となっているのに対し、従来機と同様に複座。
 
 これらの機体はスミスによってそれぞれの分野のエキスパートたる博士やそれに準ずる有識者が拉致され、『SSS』化されたことによって開発に成功した。
 
 ――『カウンシル・システム』
 スミスが『SSS』に次いで開発したシステム。
 その正体は様々な分野の権威を殺害して『SSS』化したものを並列に繋いだ超高速かつ超膨大な思考・処理を行うスーパーコンピューターである。
 元が魂であることによる、ある程度の自立思考やそれに伴う自由な発想と、複数の『魂』が並び立つことによる『合議』を行うことが根幹にあり、エネルギーを供給し続ける限り、ノンストップで新技術の研究・開発が可能で、一流の技術者たちが知恵を出し合っての共同開発を昼夜問わず続行している状態ようなとなるが、生身の人間とは違って疲労による生産性の低下がない分、効率は遥かに上。
 更に、スミスによって現代地球のPCから着想を得た『クロックアップ』機能が搭載されており、これを行うことで通常とは比較にならないほどの速度で『合議』を行うことができる。
 この機能を使用したことで、たった数日の間に時間にして数十年に相当する研究が行われることになり、結果として現行よりも世代を先んじたイコン技術がエッシェンバッハ派にもたらされることになった。
 
 それも当然だ。
 各々その道に名だたる優秀な頭脳が知恵を出し合い、不眠不休で数百年間研究を続けたようなものなのだから。
 
 というのがシュバルツタイプのパイロットよりもたらされた情報だ。
 もっとも、彼等に対しては一度目のクロックアップ。
 即ち、シュバルツ・フリーゲを基にグリューヴルムヒェン・シリーズを開発した際のクロックアップにより、システムが焼き切れてしまった為、これ以上のクロックアップは行えないと伝えられていたようだが。
 実際は再度のクロックアップが可能な状態にあり、先日の銀色の機体を生み出すことも可能だったようだ。

 量産機には『SSS』がパイロットとして搭載されていた。
 優秀なパイロットを『SSS』化したおかげで、機体性能の高さを余すことなく活かすのはもちろん、人間では耐えきれない機動も可能。
 それに加え、『SSS』はコピーによる量産が可能だ。
 これにより、強力な量産機体の量産が可能となった。
 
 もっとも、当初の『SSS』には学習機能が搭載されていなかった為。
 九校連側のパイロットが幾度が戦闘を繰り返す中でパターンや癖を覚え、敵の動きに順応することにより、機体性能を覆して勝利することも可能になっていった。
 
 やはりこれもシュバルツタイプのパイロットには、『魂を『SSS』化したものは、いわば完成された隙のない精妙なソースコード。学習機能の搭載や得られたデータを後からフィードバックすることは、そのソースコードに異物を混入させ、バグを引き起こしてしまうようなもの』と説明されていたらしい。
 
 だが実際は二度目のクロックアップにより、学習機能を備えた『SSS』である“ステューデント”が開発されている。
 実際、それを今までの戦闘データを用いて教育したものが、あの銀色の機体に搭載されているようだ。
 これもスミスの語る『造られた弱肉強食』計画を体現するものの一つと言えるだろう。
 意図的に敵を鍛えることによって、間接的に自らを鍛える計画。
 強力な敵と戦えば戦うほど強さを増すこの機構の為にあるような計画だ。
 
 もっとも、“ステューデント”の存在を含めて、シュバルツタイプのパイロット達には知らされていなかった事実である以上。
 この情報をもたらしてくれた『傍観者』の存在には助けられた。
 
 なお、『SSS』の応用により、シュバルツタイプのパイロット達はイコンの操縦技術はもとより、それぞれの愛機にまつわる生身の戦闘技能を『魂に直接書き込まれている』との事実も判明している。
 これも『SSS』の範疇である以上、先日の首脳会談防衛戦の際に失効しているはずだが、既にそれを用いて幾度となく戦闘を行った結果、彼等の身体が技術を覚えている状態となった。
 魂に書き込まれた技能はいわば自転車の補助輪のようなものであるらしく、既にそれらを体得した彼等にはなくても大丈夫なものなのかもしれない。
 
 鹵獲したシュバルツタイプを使用するに当たり判明した事実がある。
『SSS』が失効した以上、その情報が書きこまれたパーツ――魔術的触媒としての力の強い金属にプリント基板状の文様を刻んだもの。
 それがただの鉄の塊と化してしまった以上、コクピットを九校連の規格品に換装する必要がでてきた。
 
 事実、換装自体は上手くいった。
 だが、未だブラックボックスの多いシュバルツタイプ。
 何らかの要因により、パイロットを識別する機能が残っているようだ。
 
 ゆえに、正規のパイロットが専用の魔鎧を纏った状態で乗り込み、起動キーの役割を果たさなければ動かない。
 幸いにも規格品は複座だ。
 今後は誰かが、正規パイロットの彼等とコンビを組んで乗り込む形で機体を動かすことになるだろう。
 
 ――『不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる』。
 かつてエッシェンバッハ派との戦いが始まったばかりの頃、仲間に言った言葉だ。
 それを他ならぬ自分自身が実感するのを、私は痛感する。
 
 そこまでを新たに報告書に書き加えると、私は一眠りした。