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第二章
続・屋台行列

「こほんこほん。えー、私たちは今、葦原明倫館の花火大会に来ております。すごい数の人です」
 屋台の緩やかな人の流れにから外れて、チョコバナナの屋台。、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)はビデオ撮影をしながら実況していた。
 知っている顔もちらほらいるようで、時々手を振ったりしながら屋台を、花火を、そして一緒に来たノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)を録画している。
「今、ノーン様と一緒にチョコバナナを待っています。見てください、この幸せそうなお顔」
「わ、ちょっと舞花ちゃん、近い近い! カメラ近いってば!」
「だめですよ、きちっとお顔を見せないと。これは今日来られない御神楽 陽太(みかぐら・ようた)様やご家族のために撮っているんですから」
「こんなに至近距離だと『写真映え』してても逆に見えないと思うんだけど……」
「細かいことは言いっこなしです」
 そしてカメラは屋台の主、酒杜 陽一(さかもり・よういち)を映した。
「そして今、私たちはこの方にチョコバナナを作ってもらっています。よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
 店主、陽一は丁寧にカメラに向かってあいさつした。
「すぐにできますので、少々お待ちくださいね!」
 と、にっこり笑い掛けると作業に戻った。
 割り箸に刺した無数のバナナを、得意の氷術で冷やしたチョコスライムたちでまんべんなく塗り付け、バナナをチョココーティングする。スライムといっても実際に食べることができ、しかもいろいろな味がある。ちなみにこのスライムは身体の大半を失っても死んだりせず、時間を掛ければ完全に再生するスグレモノ。もちろん、こういうモノを使うことは事前に客に説明済み。舞花、ノーン両名も了承済み。
「さて、トッピングはどうされます? スプリンクルに、ココアパウダーにナッツ、ラムネもありますよ?」
「ノーン様、どうされます? 私はスプリンクルにします」
「じゃあワタシはラムネで!」
「はい、かしこまりました!」
 やがて、それぞれの好みに合わせてコーティングされたバナナが手渡された。
「お待たせしました!」
「わーい! チョコバナナ!」
「お世話様です。……あ、美味しい!」
「でしょう? 自慢の一品ですよ!」
「ふふ、美味しく頂きます! 後でまた買いに来ようかしら」
「材料はいっぱいありますので、また来てください!」
 舞花たちは、陽一に笑顔であいさつすると、その場を後にした。

「ノーン様、今度は何処に行きましょうか。何か食べたいものありますか?」
「えっと、じゃあ、今度はたこ焼き! あそこにあるよ!」
「分かりました。それではこれからたこ焼きを買いに……あっと、すみません」
 舞花とノーンが、たこ焼きの屋台のほうからやって来た女性とぶつかりそうになった。
 女性、陰陽の書 刹那はにこりと笑って一礼。そのままたこ焼きの入った箱を大事そうに抱えて去っていった。
「ぶ、ぶつかりそうになってしまいました。気を付けないといけませんね。あれ? ノーン様?」
「たこ焼き二人分ください!」
「ってもうお店の前にいますよ!」
「もらったよー!」
「早っ!?」
 舞花はビデオカメラを回しながら慌てて屋台に駆けていった。

■■■

「ノーン様。あちらで盆踊りをやっているようですよ。見に行きますか?」
「行く行くー! あ、舞花ちゃん! このたこ焼きすごく美味しいよ!」
 たこ焼きの屋台の下、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は二人組の少女がたこ焼きを美味しそうに頬張りながら去っていく姿を見送った。
「毎度ありがとうございましたー」
 たこ焼きの屋台を設置して開店した直後は大した客引きもせずに大量の客が来たので、そこそこ儲けは出た。今は峠を越えてやや客足が遠のいている。
 ふと店内を見れば、パートナーのイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が自慢の多数の触手を駆使して生地を混ぜる、焼く、味付けをする、盛り付けるといった複数の工程を同時に行う離れ業を披露していた。当初、それだけで客は大量に引けていた。
 イングラハム一人で四、五人分の働きをするので非常に効率がいい。
「あの子たち、喜んでましたでありますよ? すごく美味しいって」
「当然だ。厳選したなか……いや、たこを使っている自慢の一品だ」
 どこか誇らしげにイングラハムは言った。
「うむ! 頼りにしているのであります! さて、まだ材料も余裕がありそうでありますし、ちょっと客引きに行ってくるであります!」
「分かった。いつでも渡せるように仕上げておく」
 そう言ってイングラハムが次のたこをクーラーボックスから出してきた。
「最高に美味く仕上げてやる」
 そして流れるような調理作業が始まった。

 数分後、吹雪とイングラハムの屋台には、再び行列ができていた。
「ささ、そこのお姉さん方。たこ焼きはいかがでありますか? ウチの屋台は料理人が一味違うでありますよ?」
「料理人? あら、見てあの人、すごいよ!」
「あ、ほんとだ! せっかくだから買おうか!」
 こうしてさらに二人の客をゲット。
 イングラハムも行列を前に臆することなく、正確な手さばき、もとい触手さばきでたこ焼きを仕上げ、手渡していく。
「とっておきのたこ焼きだ。残したり落としたりするなよ」
「わーい! ありがとう!」
「毎度ありがとうございましたー。しかしこうなると自分の出番がないでありますね。イングラハム一人で機能しているであります。よし、こうなったら自分もたこ焼きを食べるであります! イングラハム、自分にもひとつ!」
「了解した。金は払うように」
「なぬ!? 自分たちの店なのに金を取るでありますか!?」
「当然だ。この至高の材料で仕上げたたこ焼きを無料で食べるなど、食材に対して失礼だ。ビタ一文負けるつもりはない」
「最終的に金は自分たちのもとに戻って来るのだからいいのではと思うであります!」
「問答無用だ。ほら、並ぶがよい」
「そんなこと言ってるとイングラハムをたこ焼きにするでありますよ?」
「ならばこう言い換えよう。小さな子供たちが見ている前で無銭飲食するつもりか?」
 う、と吹雪は言葉を詰まらせると、おとなしく財布を用意して行列に加わった。
「うむ。ほら、完成だ。まだ熱いから火傷しないようにな」
「はーい!」
 そうして終始、吹雪、イングラハムのたこ焼きは大盛況となった。

■■■

 吹雪、イングラハムの二人が経営する屋台から少し離れた位置には、少々珍しい品ぞろえの屋台が構えていた。
「ただいま。ほら、たこ焼き」
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は吹雪たちの店で買ってきたたこ焼きの箱を、店番をしていたニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)に手渡した。
「ありがとう! 思ったより早かったわね。あ、いい匂い」
「ああ、すごかったぜ。店員さんが触手一杯持っててさ、器用に一本ずつ使って違う作業してるんだよ。あっという間に順番回って来たぜ」
「へえ、面白そうね。後で見に行ってみようかしら……っと、いらっしゃいませ!」
 ハイコドとニーナが営んでいる店はドリンク屋。ただし、並んでいるのは酒を真似た品々。
 屋台の看板には、ビールジョッキのイラストの上に大きくバツ印がついている。そして店の前の看板には『※この店ではアルコール飲料を扱っていません』と大きく書かれていた。
 今回のお祭りにはアルコールは一切持ち込みが禁止されているので、少し趣向を凝らして見た目だけアルコール飲料というキャッチコピーでやっている。
「じゃ、俺このニセビールで!」
「はい、ありがとうございます!」
 このニセビールなるものは液体7:泡3の黄金比率の飲み物。甘くて微炭酸。はちみつやジンジャーエール等を駆使して絶妙な色合い加減を再現。ラベルにビールと張ればきっと騙される。
「俺は……ニセワイン、赤で!」
 ニセワインはとろり濃厚ぶどうジュース。ちなみに赤が普通のぶどう。白はマスカット。
「ニセ日本酒とか面白そうだな。これくれ!」
 ニセ日本酒はリンゴジュースとオレンジジュースなのだが、プラスチック製の徳利と盃つき。使用後は燃えないゴミへ捨てられる仕様。
 三人の客を見送って、ニーナはふっと一息ついた。
「そういえば、あなた。妹とか他のメンバーはいないの?」
「ん? みんな忙しいみたいでな。ニーナしかいないんだ」
「……そう」
「それにここなら、ちょっと忙しいけど二人で花火を見られるし」
「え?」
 促されて見上げれば、屋台の屋根や提灯と一緒に、大きな花火が見えた。
 大切なパートナーと一緒に、花火を見上げる。それは嬉しいシチュエーションだし、心安らぐひと時ではあるのだが、本音では屋台ではなく二人きりで花火を見たかった。もっとも、こういう屋台を構えていればその場所は絶対に取られるわけではないわけで、そういう意味では特等席ともいえる。
「……あ、そうだ。皆にお土産買っていこうかしら」
「お、いいなそれ!」
「何がいいかしら。リンゴ飴とかいいかな?」
「わた飴とかもいいと思うぞ。たこ焼きとかは冷めるとあまり美味しくないからやめておくか」
「そうね……あ、花火連発!」
「うおお、ドハデだな! あ、ニーナ、客だ!」
「いらっしゃいませ! ニセビール三つ? かしこまりました。ハコくん! ビール三つ!」
「はいよ!」
 ハイコド、ニーナの屋台も時々やってくるお客様ラッシュをさばきながら、祭りを楽しんでいった。