天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

海で触手でスライムでキノコ!?

リアクション公開中!

海で触手でスライムでキノコ!?

リアクション


1.まっとうに海水浴

「無人島だからと言って、むやみにハメない!」
 無人島ビーチ。
 きらめく海と、どこまでも澄んだ青空の元――
 しょっぱなから大変な台詞が飛び出した。
 発言者は変熊 仮面(へんくま・かめん)
 お手製のビーチ監視台で腰に手を当て仁王立つその姿は、今日も今日とて全裸にマフラー、薔薇学マント。
「……いや、もとい。ハメを外さない!」
 どうやら言い間違えてしまったらしい。
 言い間違いなら仕方ない。
「あとそこ! そこの怪しげな集団は何だ!」
「ん?」
「あっ、いえあのっ!」
 そんな変熊の前をぞろぞろと歩いていたのはドクター・ハデス(どくたー・はです)高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)
 ハデスは秘密結社オリュンポスの戦闘員として特戦隊を引き連れていた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! この島は我ら我ら秘密結社オリュンポスのアジトにするのにちょうどいい場所だと聞き、秘密基地として開拓するためにやって来たのだ!」
「ふむ…… ならばビーチでのごみのポイ捨て、海岸への車の乗り入れ等の迷惑行為は?」
「それはしない」
「なら良し!」
「良いんですかっ!?」
 今初めてハデスの意図を知った咲耶は監視員変熊の基準に非難の声をあげる。
「うむ。注意事項を守り、清く正しい無人島ライフをおくりたまえ」
「ああ」
 変熊に見送られ、ハデスたちは秘密基地開拓へと取り掛かった。

   ◇◇◇

「ひゃっはー!」
 はしゃぐ声と、ぱしゃーんと波が飛び散る音が響く。
 無人島ビーチで海水浴を楽しむノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)
 今日も今日とて留守番の御神楽 陽太(みかぐら・ようた)を余所に、1人海を満喫していた。
 いや、1人ではない。
「じゃじゃーん!」
 天高く掲げる球体、ビーチボール。
「せっかくだから、みんなでビーチバレーしようよ! こんだけ人がいればチームに分けて遊べるよね!」
「面白そう! やりたいです!」
「わーい、ノーンちゃんナイス! やりましょう!」
 ノーンの提案にビーチにいた遠山 陽菜都(とおやま・ひなつ)サニー・スカイ(さにー・すかい)が嬉しそうに手をあげる。
「ね、ね、柚ちゃんも三月さんも、一緒にやりましょー」
「はい!」
「僕もビーチボール持ってきたんだけど…… まあ、サニーさんが楽しそうだからいいか」
 サニーに手を引かれた高円寺 柚(こうえんじ・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)も参戦する。
「おかーさんモ、やりますよネ……?」
「ええ、サリーちゃんも一緒に遊びましょう」
「うンー」
 結和・ラックスタイン(ゆうわ・らっくすたいん)の手をぶんぶんと振りながらサリー・スカイが嬉しそうに笑う。
「面白そうじゃん。セフィーは入らないのか?」
「あたしは、泳いでいますから」
「私も」
 エメラルド色の海を堪能しているセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)の誘いに手を振って返す。
「では、自分は参戦させていただきます!」
 そんな3人を余所に葛城 沙狗夜(かつらぎ・さくや)は1人気合を入れて参加する。
「ほらほらっ、夢悠も雅羅も、早くしないと試合が始まっちゃうよ!」
「う、うん。今行く……わっ!」
「そんなに押さなくっても大丈夫よ」
 想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)を押し出すようにしてビーチボールに誘う。
 夢悠はサングラスをかけ、どこか表情が分からないようにしていた。
 そんな夢悠を気遣ってか瑠兎子はあえて明るく振る舞う。
 ビーチバレー中に何度かビーチボールが雅羅を直撃しそうになったが、夢悠と瑠兎子はさりげなく動いて雅羅の不幸を回避していった。

 ビーチバレーは気合の入った沙狗夜のチームが勝利した。
 途中、熱が入りすぎてビーチボールが割れてしまうハプニングが発生したが、三月が持ってきたもう1個のボールが役に立った。
「はー、楽しかったあ!」
 勝負の余韻冷めやらぬままに、ノーンは砂浜にごろりと横になる。
 抜けるような青い空と、白い雲が目に入る。
「ふふふ。ノーンちゃん、はりきってたもんねー」
 ノーンの横には陽菜都が座っている。
 サニーとサリーに結和、そして三月と柚も思い思いにビーチに寛いでいた。
「ぷはぁ、おいしいー。陽菜都ちゃんも飲む?」
「うん。ありがとう」
 ノーンはほどよく冷えたレインボージュースを飲み干すと、もう1杯のコップを陽菜都に渡す。
「陽菜都ちゃん、果物好き?」
「うん」
「ワタシも! あとね、最近マイブームなのが、かき氷! 宇治金時が一番。それから冷やし善哉でしょ、わらび餅でしょ……」
「ふふ。それって今食べたいもの?」
「あははっ、そうかも」
「ノーンちゃんお腹空いてるのー? もうちょっと待っててねー、今レインとクラウドがバーベキューの用意をしてるからー」
 開放的な雰囲気がノーンの口を軽くする。
 ノーンは陽菜都と、サニーと、一緒にビーチにいる友人たちといっぱい話をした。
 好きな食べ物のことから始まって、趣味のこと、家族のこと、そして将来のこと……
 話題はいつまでも尽きなかった。

「……それにしても、不思議ね」
 柚、三月とおしゃべりに興じていたサニーが、ふと呟いた。
「もう、2年も前になるかしら……私が病気で臥せった時。枕元でデートしてくれた人がいたの。……それが、三月さんと初めて会った時だったっけ」
「……そういえば、そんな事もあったね」
「懐かしいですね」
「それが、今、こんな事になるなんて……信じられないなぁ」
 サニーの瞳は遠くを眺める。
 それから遊園地で遊んだり、サニーが再び倒れたり。
 本当に色々な事があった。
 サニーの、そして三月の瞼の裏に様々な情景が浮かぶ。
 そんなしんみりした空気を振り払うように、柚はサニーに声をかける。
「サニーさんは、もうじき私の妹になるんですね」
「妹じゃないよ。僕がお兄さんなんだから、姉なんだって」
 柚の言葉に三月が食いついた。
「サニーさんは姉と妹、どっちが欲しいですか?」
「もちろん、お姉さんよ! 妹はもういるから、ずーっとお姉さん欲しかったんだ」
「ほら!」
「ええー……」
 砂浜に少女二人の笑い声が響く。

「うフふふふふフー」
「サリーちゃん、ご機嫌ですね」
 サリーは終始結和にくっついて、笑っていた。
「はイ! だって……」
 結和に声をかけられたサリーは元気よく返事をする。
 そしてその後、少し恥ずかしそうに口籠った。
「だって?」
「……結和おかーさんヲ、独り占めできるかラ」
「まあ」
 そう言うとサリーは結和にぎゅうっと抱き着いた。
 そういえば結和がサリーたちの所に遊びに来る時は、いつも誰かと一緒のことが多かった。
 サリーと結和が2人きりになるのは、めったにないことだったのだ。
「……また今度、一緒に遊びましょうね」
「はイ」
「今度は何のイベントがいいかしら。そろそろ秋だから、果物狩りもいいですね」
「果物狩リ、楽しそうでス、色々狩ってみたいでス!」
「……何だか別の狩になってしまいそうですね」
 サリーと結和は二人で笑いあう。
 その姿は、年はそれほど離れていないものの、まるで本当の家族の様だった。

   ◇◇◇

「ふふふ……あなたもこちらに来れば良いのに。冷たくて、気持ちいいですわ」
「オレはここでいい。こうして楽しそうなおまえを見てるだけで満足さ」
 波打ち際で水と戯れるフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)と、それを見守るジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)
 2人は家族水入らずでゆっくりできる所を探して、この無人島にやって来た。
 たまたまウェザーのイベントと重なってしまったため、ビーチは他にも遊びに来た人々の声でいっぱいだった。
 しかしそれはそれで楽しいバカンス気分を盛り上げるBGMとなる。
「おーい、あんまり腹を冷やすなよ」
「まだちょっとしか入っていませんわー」
 時折ジェイコブは気遣わしげにフィリシアを見る。
 見るだけでなく、声をかける。
 フィリシアは見た目はまだそれほど目立たないものの、お腹の中にはジェイコブとの間にできた新しい命が宿っていた。
 そのためジェイコブは、お姫様を守る騎士のごとく彼女を守り、エスコートしていた。
(……こうして愛する家族と2人きり、何も考えずにのんびりと過ごす時間はいいものだな――)
 そんな、らしくない事を考えたりもする。
(子供が生まれてからも、こんな時間を大切にしたい……)
「ほら、あなたも……1人だけじゃ、つまらないですわ」
 ばっしゃーん!
「ぶはっ!?」
 そんなジェイコブにフィリシアの奇襲攻撃。
 フィリシアがかけた波を頭からかぶったジェイコブはまんまと海の中に誘き出され、2人ではしゃぎまわった。
「やったな!」
「追撃ですわー!」
 ――やがて、たっぷり遊んだ2人はビーチチェアに横たわる。
 パラソルが作る影が、2人を優しく包み込む。
 心地よい疲労と規則正しい波の音、時折聞こえるはしゃぐ声。
 いつの間にか、2人、いや3人は気持ちよく夢の中に――

   ◇◇◇

「――おい、何だ、こいつ等」
 ビーチで遊んでいた酒杜 陽一(さかもり・よういち)酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)の元に、小さな生物が集まってきた。
 うにうにとした触手を持つ、不定型な生物。
 2人は知る由もなかったが、それはこの無人島に住む触手とスライムの子供たち――触手スライムだった。
「よく分からんが、遊んで欲しいみたいだな……よし!」
 触手を伸ばしながらふるふると震える触手スライムたち。
 そんな彼らの前に、陽一はボールを取り出した。
「ボール投げ、分かるか?」
 陽一の言葉に意味は分からないながら嬉しそうに体を揺らす触手スライム。
 どうやら、遊んでくれるということは分かったらしい。
「そーれ、取って来ーい!」
「ピギー!」
「追いかけっこだー!」
「プギー!」
 陽一の狙いは、触手スライムたちとエロくない遊び相手をしてあげること。
 この島を訪れる相手が、全てエロOKなわけではない。
 そんな時の為に、エロではない遊びを覚えさせてあげようと考えたのだ。
「……ってお前は何をやってんだよ!」
 美由子が触手スライムに何やら怪しげな物体を渡しているのを見た陽一は慌てて聞いてみる。
「そりゃあ、決まってるでしょ?」
 美由子がごろごろと取り出したのは、ブラックアリスのアーガマーハ。
「これを遊び道具としてあげるから! いっぱい楽しんでねー」
「おいおい! そんなの渡して大丈夫か?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。ブラックアリスのアーガマーハは、一度海水に濡れたら増殖する事は二度とないからね」
「……ツッコんだら負け、か……」
 マイペースな美由子に言葉を失いながら、それでも陽一は触手スライムたちと遊び続けた。