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 忘れられない日

 あの時、あの瞬間――生涯忘れる事のない大事な日がある。
 もう一度、あの日に戻ってあの瞬間を自分の目で見て、誓いたい。


 あたしの運命を開いた人――セレアナ・ミアキスへ


 ◇   ◇   ◇


 青空広がる5月の陽気が降り注ぐ中に、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はイーシャンとシルヴァニーに送られ、中央公園に降り立った。
「浸りたい思い出っていうと、この日の事が一番だったのよね」
「……そうね、私もよ」
 ベンチに座って一休みするセレンフィリティとセレアナを遠くから見守っている2人だったが、ここからでは声が良く聞こえない。
「もう少し近くに……木陰の後ろへ行きたいわね」
「セレン、あんまり近付いて過去の私達と鉢合わせもマズいと思うわ」
 そう言いつつも、シャンバラ教導団での訓練の賜物なのか――忍び足やら匍匐前進やらでベンチの後ろにそびえる木陰の後ろへ上手く隠れた2人であった。

「あたしは……セレアナと一緒に、これからもずっと、2人で歩いて行きたい……2人で同じものを見て、2人で季節や時の流れを感じて、2人でいろんなことをして……。最後のひと息を吐き出す、その瞬間まで、ずっとセレアナのこと、愛していたい。だから――」
 その時、スッとセレアナの指がセレンフィリティの唇に触れて、彼女の言葉を止めた。この時のセレアナの瞳が優しさと愛情に溢れていた事を忘れた日は無い。
「答えはもう決まってるのよ。私たちはこれからもずっとずっと、永遠に一緒よ」
 セレンフィリティを抱き締めたセレアナは、とても――とても優しい眼差しをセレンフィリティに向けていた。この時は互いの表情を伺い知る事は出来なかったが、今なら――
「……セレンが泣いていたのはわかっていたけれど……顔は見えなくてもあなたを『護りたい』と思った事は良く覚えているわ。本当に、護らなければいけない……傷付いた小さな子供の顔をしてる……」
「ええー……セレアナ、そこは一大告白してプロポーズして目一杯大人の女全開でセレアナに伝えたのに……でもね、抱き締めてくれるセレアナがすごく愛情に満ちてて……大きな庇護の翼に包まれているみたいで……どうしても、涙が止まらなかった」

「あた、あたし……あたし。幸せに、なりたい……!」

 望んではいけないと思っていた言葉――最初から望まなければ楽だと自分に言い聞かせ、楽しければいい、今面白かったらそれで充分、そうして毎日を過ごしていこう、そんな風に思っていたセレンフィリティだったが本当は幸せになりたかった。

 セレアナが居たから、セレンフィリティは幸せになりたいと望むことが出来た。


「ねえ、セレアナ……」
 木陰から当時の自分達を見つめていたセレンフィリティが不意にセレアナへ声をかけた。
「……ん? なに、セレン……」
 いつの間にか繋ぎ合った手を強く握るセレンフィリティに応えるように、セレアナも握り返す。
「セレアナ……あたし、もう一度誓うわ。これからの生涯を共に生きていくことを」
「……セレンが誓いをくれるなら、私は2人で生きる事の意味を考えましょう。セレンが居てくれたから“私”から“私たち”になれたのだから……」
 繋ぎ合った手は温かいぬくもりを互いに伝えた。知っていたはずの温かさを再確認したセレンフィリティとセレアナは、ベンチの自分達が交わすキスに合わせて口付ける。
 たった1つの偽りない想いを伝えるのは言葉であり、温もりであり、2人が積み重ねた時間と、これから紡がれる未来への道。


「セレアナ……あたしの恋人、伴侶……魂の片割れ、最愛の人、月並みの言葉では表現出来ないけど……絶対的な、存在」
「セレン、ありがとう……私の言葉もあなたと一緒……愛しているわ……セレン」

 

 もう一度見てみたかった、忘れられない想い出。
 誓いたかった、大切な人への想い。
「また、この想い出を見に来ましょう……その時も、2人で」

 後の未来、魔道書達はセレンフィリティ、そしてセレアナと約束する。
 2人が望んだ時、想い出の時間への旅を。

「あたしはきっと、その度にセレアナに誓う……セレアナと共に、生きて行くと……」
 未来へ向かって歩み出し、時には振り返って過去を懐かしむ――2人のこれからは、世界に1つしかない2人だけの宝物なのだった。