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「さあ、準備しなくっちゃ」
 佐倉 美那子(さくら・みなこ)が、ザンスカールの商店街で買ってきたたくさんの荷物をドンと床におきました。
 それを真似して、吾妻 奈留(あづま・なる)リラ・ウインドリィ(りら・ういんどりぃ)も、かかえていた荷物をドンと下ろします。
 これから、この大荷物で部屋を飾り立てるのです。
「壁は任せてよね」
 吾妻奈留が、パーティーセットの飾りで壁や天井を装飾していきます。最近のパーティーセットは全部完成しているので、後は飾りつけるだけです。色紙で作ったチェーンや、リラ・ウインドリィの名前の入ったお誕生日おめでとうプレートを格好良く――まあ、ちょっと斜めになったかもしれませんが――綺麗に飾りたてていきます。なんていっても、誕生日なのですから、特別です。
 その間に、佐倉美那子がキッチンでオードブルを盛りつけていきました。リラ・ウインドリィの好きな物を一緒に選んできたので、できあがったオードブルをテーブルに運ぶリラ・ウインドリィの顔もほころびがちです。
 テーブルの上には、次第にカナッペや飲み物が綺麗に並んでいきます。
「さあ、今日のメインだよ」
 佐倉美那子が、バースデーケーキを運んできました。
「始めよっ♪」
 三人でテーブルに着くと、佐倉美那子がケーキのロウソクに火をつけました。十八本の色とりどりのロウソクに小さな火が点ります。
 佐倉美那子と吾妻奈留が、リラ・ウインドリィの手をとってお誕生日おめでとうの歌を歌い始めました。二人の歌声が重なり、ハーモニーを奏で、思わずリラ・ウインドリィの口許もほころびます。自然と、歌声に静かな第三の歌声が重なりました。
「おめでとー。さあ、ロウソクの火を消し……」
 パチパチと拍手しながら、佐倉美那子がそう言いかけました。
 リラ・ウインドリィが、大きく息をします。ちょっと息が切れているようです。
「今、リラ、歌ってなかった?」
「私、歌ってた?」
 佐倉美那子の言葉に、リラ・ウインドリィ自身がびっくりして自分の唇を指先でなぞりました。
「うん、ホント、ホント」
「もう大丈夫ね」
 佐倉美那子と吾妻奈留が、両側から挟み込むようにしてリラ・ウインドリィをだきしめます。
 リラ・ウインドリィは、かつて魔物に襲われたときの恐怖で歌を歌えなくなっていたのです。その消えてしまった歌が、彼女の口許に戻ってきたのでした。これほど嬉しいことはありません。
「もう一度歌ってほしいな」
 確かめるように、また聞きたいと佐倉美那子が頼みました。それに応えてリラ・ウインドリィが賛美歌の一つを歌います。その頬を、涙が一筋伝い落ちました。
「そこは、笑うところだよ」
 佐倉美那子が、もう一度リラ・ウインドリィをギュッとだきしめました。
「ねえ、今なら、学校も行けるんじゃない?」
「学校……」
 二人に手を握りしめられて、リラ・ウインドリィが少し考えました。歌を失ったせいで、ずっと学校へも行ってはいません。でも、今なら――三人でなら、その場所を見てみたい気もします。そこには、もう魔物はいないでしょう、ううん、いたとしても……。
「じゃあ、ケーキを食べたら、すぐに制服を買いに行きましょう!」
 吾妻奈留が、リラ・ウインドリィをだきしめたまま言いました。
「うん」
 それにうなずきながら、二人と指切りを交わすリラ・ウインドリィでした。