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そして、蒼空のフロンティアへ

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そして、蒼空のフロンティアへ
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    ★    ★    ★

『相談したいことがあるにゃ』
「これが、山田からの手紙だとぉ。なぜ貴様の方に届く! いや、今はそれどころではないな」
「ああ、一度説教をしてやらぬとな。幸い住所も書いてある。行くか?」
「いかいでか!」
 というわけで、ナン・アルグラードとレティシア・トワイニングは、山田とサクラの愛の巣へとむかっていました。レティシア・トワイニングは、頭にはボタンを乗せ、モミジをお供に連れています。
「まったく。まさか、貴様と小競り合いをしている間に駆け落ちされてしまうとはな。素直にサクラを嫁入りさせていればこうはならなかっただろうに」
「その言葉、そっくりそのまま返そう」
「ああ。確かに、これはオレにも言えることだったな……」
 お互い、悔恨の思いにかられながら、仲良く山道を登っていきました。それにしても、こんなにツァンダに近い山奥に隠れていたとは、盲点でした。
「それで、二匹に会ったらどうするんだ?」
「必ず連れ戻す!」
 ナン・アルグラードの言葉に、レティシア・トワイニングがきっぱりと言いました。
「やれやれ。もし、あいつらが、子を成して家族を作っていたらどうするんだ」
「それは……」
「無理矢理連れ帰ろうとかは、なしだ」
 一応、ナン・アルグラードがレティシア・トワイニングに釘を刺しました。二匹だけであれば、今までの繰り返しもありですが、子供を前にしてやることではありません。
「ここだな」
 木々に囲まれたちょっと開けた場所に、レティシア・トワイニングが小さな小屋を見つけました。ここは、以前悪戯な魔女が住んでいた小屋のはずです。空き屋になっていた小屋を直して、周囲を切り開いたのでしょう。
 見れば、中からちょっと大人になった山田とサクラが出てきます。
「みなさん来てくれて嬉しいですにゃ〜。ずっと怖くて連絡できにゃかったけどサクラは山田さんと夫婦円満生活にゃと知ってほしかったのですにゃ」
「御主人たちの所から逃げだして早数年……。山田は家族を持って、りっぱになったにゃ」
「このバカ猫共。よくも、今さら便りをよこせたな、いい度胸だ」
 開口一番ナン・アルグラードが怒鳴ると、二匹の後ろから大小の仔猫がわらわらと出てきました。
「そ、それは……」
 思わず、レティシア・トワイニングが仔猫たちの可愛さに絶句します。
「ずいぶん家族が増えたな、お前。そうか、家族ができたか……。最初で最後の問いだ、山田! 今、お前は幸せか?」
「サクラとの間にたくさんの子もできて、とても幸せにゃ」
 ナン・アルグラードの言葉に、山田とサクラは、揃ってにゃあと笑顔を作りました。それに続くように、仔猫たちもみゃあと鳴きます。
 もうダメです、レティシア・トワイニングが溶けました。へなへなと地面に崩れて座り込むレティシア・トワイニングを心配してか、仔猫のアンズがトコトコと近づいてきました。ぺちぺちと、小さな手で、レティシア・トワイニングを叩きます。
「なら、いい」
 山田たちの答えに、ナン・アルグラードは、彼なりに納得したようです。
 そのとき、年長らしい仔猫が、トコトコとナン・アルグラードの前に進み出てきました。
「こらっ、ススキ! 御主人にちょっかいを出すんじゃ……」
「ボク、オトモになりたいにゃ!」
「あにい!? オトモとして旅立ちたい?」
 息子の言葉に、山田がびっくりして飛びあがりました。
「このチビは? オトモ志願か……。お前らの子らしいな、いい目をしている」
 新たにお供ニャンルーになりたいという意をくみ取って、ナン・アルグラードがその仔猫、ススキを吟味しました。珍しい、三毛のオスです。
「いいだろう、だがお前の主は俺じゃない。今、揃って修行に出ているが、俺の弟子でもある紫苑の妻か娘がふさわしいな。分かった。二人の所までは、俺が連れていこう。そこに着くまでの間に、見習いにまで鍛えるぞ。旅支度をしておけ、お前のフロンティアを歩む準備をな」
 そうナン・アルグラードは言い放ちました。
「うみゃ……。おにぃたんずるいみゃ〜! おかーたん、おとーたん、あたちはレティさまのお供になりますみゃ」
「ああ、もうダメ……」
 レティシア・トワイニングは、アンズにスリスリと甘えられて、もう再起不能です。どうやら、レティシア・トワイニングの方には、アンズがお供としてついていきたがっているようです。
 結局、ナン・アルグラードはススキを預かり、レティシア・トワイニングはアンズをサクラに代わるお供として迎えました。
「御主人方、どうか我が子らをお願いします」
「お願いしますにゃ」
 山田とサクラが、頭を下げたまま、いつまでもナン・アルグラードとレティシア・トワイニングたちを見送りました。
「また来るからねー」
 こんな近くに猫の楽園ができたことを喜びながら、レティシア・トワイニングは嬉しそうに手を振りました。
 そして、その後、この二匹のニャンルーが世界を……。

    ★    ★    ★

「なんなんですか、このお話は!」
 物語の途中で本をバタンと閉じてベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが言いました。
「元ニ戻シテ……」
「ひえっ!?」
 突然注意されて、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが飛びあがって驚きました。
 見れば、パーラ・ラミの小さな分身が、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントから本を取りあげて、壁の書架へと戻していきます。
「コレハ、マダ先ノ本。見チャだめ」
 そう言うと、細い一筋の髪の毛を長く後ろへのばした分身は、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントを元の大図書室へと送り返していきました。