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白百合会と未来の話

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白百合会と未来の話

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 制服姿の女子生徒が多い中、社交界用の正装で会場に現れたルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、人目を惹いていた。
 正装もだが、その手にラズィーヤへの両手一杯の花束を抱えていたからである。その大きな花束は、かつて百合園生たちの企画で植えたものではなく(その場にはいたが別の用で訪れていた)、ルカルカたちが花屋で束ねてもらったものだった。
「おかえりなさい」
 ルカルカの色々な気持ちを込めた一言に、ラズィーヤは振り向いて微笑んだ。
「まあ、こんな綺麗なお花をありがとうございます」
「ラズィーヤさんが留守の間、静香さん頑張ってましたよ。花火大会の開催をしたり、校長を立派に勤めていました」
 ルカルカは静香のことをラズィーヤに話す。
(でもそれは必ず無事に帰ってくるって、”頑張って信じていた”からだと思う。その気持ちも、きっとラズィーヤさんはきっとご存知だとは思うのだけど……)
 ……とはいえ、それは静香にだけ良かったという気持からではない。
 ダリルはラズィーヤが行方不明となる事件の当事者であり、そのことで苦しんでいた知り合いもいる。そういった人々もラズィーヤの帰還でほっとしたことだろうと思うのだ。
「俺からもおめでとう。必ず無事で戻ると確信していた」
 ダリルも祝辞を述べながらも、しかし心の中に良心の呵責も多少は存在していた。
 あの時。ラズィーヤが姿を消した時、一緒のヘリに乗らなかったことだ。
 ルカルカはそんなダリルの微妙な表情の変化を見て取ると、ラズィーヤへ向けて姿勢を正し紳士の振る舞いで手を差し出した。
「音楽もありますし、私たちとダンスは如何ですか?」
「……そうですわね、ではお相手いたしますわ」
 二人は空いたスペースに進み出ると、流れる曲に合わせて踊った。
 ルカルカが男性パート、ラズィーヤが女性パートだ。
 一曲踊り終えると、今度はダリルが相手を務める。
「此れからも続く自分達との関係を願い、ダンスを一曲踊って頂けたらと思う」
「……ええ、踊らせていただきますわ」
 踊るうちに、ダリルは自分の中の呵責が薄まっていくのを感じていた。あの時彼女と離れたとはいえ、彼女は今こうしてここにいるのだから。
 そしてラズィーヤは変わらない微笑を見せているのだから。
(攫われてた時や創造主から自由になった時の事を聞かれると辛いだろうな。彼女が話したい話題・話す話題を、一緒に楽しもう)
 一曲踊り終えると、ダリルは今度はルカルカを誘おうと、ラズィーヤとケーキや料理のたわいもない話をしながら待った。
 ルカルカはその時、フランセット・ドゥラクロワ(ふらんせっと・どぅらくろわ)を誘って踊っていたからだ。
 今のルカルカは、色々な人とどんどん踊って喜びたい気分だったのだ。
「お久しぶりです、フランセットさん」
「そうだな、内海の事件以来か……元気そうで何よりだ」
 白い軍服に赤毛の海軍提督とは、かつて同じ事件にかかわったことがある。元気そうと言ったフランセット自身も、あれから変わりなく元気なように見えた。
「今はどんな活動をされてるのですか?」
「相変わらず内海の調査だ。最近は余裕が出てきて、未踏の島の調査などもしている。それなりに充実しているよ」
「お仕事は順調そうですね。……好きな人とかいるんですか?」
 年頃の女の子らしい質問に、フランセットは苦笑いで応えた。どうも何度か聞かれたことがあるようだ……というより、メイドにせっつかれているのだろう。
「……いないよ。見合い話は貰うのだが……一生を船の上で過ごしてもいいと思っているような女に貰い手がいるとは思えないな」

 ルカルカが息を弾ませて二人の素に戻って来ると、ダリルは彼女をダンスに誘った。
「ルカ、踊らないか」
「喜んで。……あ、そうそう、終ったら、おっきなケーキ超食べるよーっ」
 ぐっと拳を握りしめるルカルカに、ダリルは笑った。
 ひとしきり踊り、笑い、踊り……。ルカルカは目に付く人、かたっぱしから声を掛けて踊る。
 流石に軽い疲労を覚えただろう頃、ルカルカはどこかに行ってしまったかと思うと、程なくして戻ってきた。
「ねぇ、みんなー、乾杯しようよ!」
 人数分の飲物をルカルカがトレイに載せて取って来た。
「乾杯!」
「乾杯!」
 ダリルも杯を掲げる。
(輝かしい時代が、この先も皆の上に続く事を願って……)
 打ち合わされたグラスとその中のシャンパンが、シャンデリアから注がれる明りにキラキラと反射して輝き、ラズィーヤを照らした。