リアクション
秋の深まってきたある日。 ◆ (こうして振り返ってみると、色々あったねぇ。あの子……行人も色々あって、成長したし……) 南條 託(なんじょう・たく)は那由他 行人(なゆた・ゆきと)のことを考え、物思いにふけっていた。 (そういえばまた行人のこと、行人の家族に連絡しておかないとねぇ。 家出したつもりが、行動全部知られてたなんて、行人は気づいてないだろうなぁ) 託は苦笑しながら、空を見上げる。 (あそこも自由だから、「行人が成長していって嬉しい」で済みそうだけど、行人はこれからどうするんだろうねぇ) 同じ頃霧丘 陽(きりおか・よう)も、物思いにふけっていた。 (この世界も色々あったけど、結局ぼくは何もせず終わったなー。ある意味ぼくらしいかもしれない。 帰ったら大学に入ってまじめに勉強して、父さんと同じ仕事に就きたい。いや、今もまじめに勉強してるけど) 陽の脳裏を、フィリス・ボネット(ふぃりす・ぼねっと)の姿が過った。 (後は皆パラミタに残る選択肢や魔界に帰る選択肢を選んだし、お別れか……そういえばフィリスはどこへ行くんだろ?) その頃、行人はフィリスに誘われて、久しぶりの散歩に来ていた。 「行人と散歩、久々かもな」 「へへっ、一緒ってだけでなんかうれしいや」 「そういえば行人、背が伸びたな。あんなの小さかったのに……」 フィリスは、並んで歩く行人の頭を見て呟いた。 「言われてみれば、フィリスが近くなったような……」 「一応背はオレのほうがまだ高いけどな!」 「このまま抜くからいいんだっ」 明るく笑う行人を、改めてフィリスは見つめた。 「ただ、身長よりも……すごくかっこよくなったな……」 「かっこよくなった?」 行人はピンと来ないような表情だ。 「まだヒーローたちには追い付けてないけど……そう言われると嬉しいな!」 フィリスは少し照れたような表情で、行人から目を逸らした。 「ああ、そうだ! 行人はこれからどうするんだ?」 「これから? うーん……もう結構経つし、確かに家に帰らないといけないかな……」 「やっぱ家に帰るのか」 フィリスは少し考え込んだような表情をしていた。 「……オレは帰る場所ないし、旅にでも出ようかなって」 「え? それなら俺も一緒に行くよ!」 「オ、オレと一緒に!?」 明るく答える行人に、フィリスは目を丸くした。 「い、いや、その……オレでいいの?」 「もちろん! フィリスと一緒がいいんだ! だって、姉ちゃんたちよりも、託にぃたちよりも……フィリスが大好きだから!」 笑顔を見せる行人を唖然と見つめるうち、フィリスの涙腺が熱くなっていく。 フィリスは黙って俯き、肩を振るわせた。 「え、泣いてるの……? お、俺何か悪いことしたかな?」 「な、なんで涙がでるんだよ……こういう時は笑わなきゃだろ! と言うか行人は簡単にそういうことをな!」 フィリスは涙を拭い、行人を見た。 「そういうところ、大好きだけど!!」 先ほど行人の言った「大好き」の言葉へのお返しのつもりでフィリスは言ったのだが、 「大好き……にへーっ」 表情を崩していく行人を見ていたフィリスは、次第に恥ずかしさが込み上げてきて思わず顔を手で覆った。 「うわあああ! 自爆した! 恥ずかしくて死にそう!!」 「どうしよう、嬉しいが止まらないや」 心底幸せそうに微笑む行人をちらりと見て、フィリスは視線を足元に向けた。 「でもオレにもこんな大切な人ができたんだ。この世界にきてよかった、陽たちと出会ってよかった。そして……行人と出会えてよかった」 また、フィリスの目に涙が浮かび上がってきた。 「と、とにかく、行人がオレと一緒に旅してくれるって言うならオレは大歓迎だ。前衛と後衛だし、なかなかバランスがいいパーティーだしな!」 「そうだな、俺とフィリスなら何が相手だって勝てるしな!」 「身長もあともう少しで抜かされるな……いや、オレだってまだ伸びるし、わかんないぜ!」 フィリスはそう、必死で笑おうとして、明るく答えた。 親の記憶も故郷の存在もわからないまま、フィリスは長く不安を抱えていた。 この世界が終わったらどこに帰ればいいのかと、不安に思っていた。 (これが家族っていうのかな、この暖かさが……) 行人はぼんやりと、後から流れ出るフィリスの涙を見つめている。 「……フィリスの涙、止まらないな」 「こ、この涙はちょっと目にゴミが入っただけだ! 気にすんな! それに……嬉しくて出る涙もあるし……」 「嬉しくて出る涙……」 行人は、それでもフィリスの涙を止めたくて、そっとフィリスの目元に手を伸ばした。 「門出の言葉ぐらい止まれよ涙!」 「あのな、フィリス」 行人は今思ってることを全部言わないといけない気がして、口を開いた。 「これからはずっと一緒にいるから。嬉しいときも悲しいときも、どんなときも一緒にいるから」 「……うん」 「涙は全部俺が止めるから、フィリスを一人になんて絶対にしないから。だから、大丈夫だよ」 行人は腕を伸ばし、ぎゅっとフィリスを抱きしめる。 「……行人、一緒にいてくれるって言ってくれてありがとう、そしてこれからもよろしく!」 「こちらこそ、ありがとう。それで、これからもよろしくな!」 行人は、これからずっとフィリスを離さずにいると決意する。 決して大好きなフィリスを離さないように、と。 |
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