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我を受け入れ、我を超えよ

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我を受け入れ、我を超えよ

リアクション

「(このカリキュラムでもっと強くなるんだ!)」

 パートナーたちには黙ってきた千返 かつみ(ちがえ・かつみ)はそう意気込みつつ、もうすぐ呼ばれるからと廊下で静かに待っていた。

 静かに集中していると、かつみを呼ぶ声が聴こえる。
 気のせいか、どこか聞き覚えのある声だ。

「(なんで、ノーンの声が? だって、ここには内緒で来てるのに)」
「かつみ」
「(やっぱりノーンの声だ)」

 閉じていた目を開き、視線を下にするとそこにはノーン・ノート(のーん・のーと)が立っていた。

「なんでノーンがこんなところに!?」
「ばかもの。かようなカリキュラムをかつみが受けないでいる訳があるまい」
「う……で、でもお願い! このカリキュラムを一人で受けさせて!」
「まぁ、よかろう(一人で乗越えようと考えてる時点で間違えてるんだ)」
「ありがとう。頑張ってくるね!」

 失敗は目に見えているが、とりあえず一人で対峙させてみることにするノーン。
 部屋に入っていくかつみを見送った。

 起動音と共に集中力を高めていく。
 そして現れたもう一人のかつみは、前髪を長くし目を隠していた。

「やぁ、俺の弱さの象徴。おまえを倒して俺は今よりも強くなってやる」

 かつみは封印解凍を行い、チェインスマイトとサイコキネシスをメインに攻撃をしかける。
 全力で倒しにかかるも、どうしても倒す事が出来ない。

 ブーストソードで斬りかかっても、黒薔薇の銃で撃っても、倒せない自分自身。

「なんで、倒せないんだ……俺はまだ弱い、のか?」


『別れの未来夢を見たって事は、あいつらから見捨てられる可能性はゼロじゃないってことだろ』

 ずっと無言で攻撃を避けたり、逸らしたりしていたもう一人のかつみが口を開きそんな事を言う。
 それは以前アゾート・ワルプルギスが作りだした未来体験薬によって視た、パートナーたちの別れの未来を言っていた。

 今でも、なぜエドゥとナオが自分から去って行ったのか分からないでいる。
 そこを突かれると何も言えない。
 ただ、なぜ? といった疑問が浮かんでは消えていくだけである。

『守るなんて言って、結局ナオだって守れなかった。あの時は帰ってきたけど、本当なら敵につかまった時点で終わりだ』

 動揺で呼吸すらままならないのに、更にもう一人のかつみはかつてパートナーが敵に捕まって洗脳された事を言いだす。
 かつみの心は軋みだす。

「(ナオやエドゥ達に心配されるくらい弱いのに……それでもここに居たいと思う我儘な事を願ってしまう。どうして俺はこんなに我儘で我欲が強いんだ!)」

 手にしていた銃も剣も投げ捨て髪を掻き毟る。
 もう一人の存在など、今のかつみには認識する事ができない。



◇          ◇          ◇




「あの部屋にいる、えーと……千返 かつみ、危ないんじゃないか?」
「そうね。装置を止めましょうか」

 監修員であっても、個人の一番知られたくない部分を見て良いとは言えない。
 この装置では見ている内容までは同じ空間にいない者には視えないようになっている。
 その為レオンと梅琳が装置を止めるか否かは、あくまでもこの場に残っている受講者の身体を見て判断するしかないのだ。

「あぁ、装置を停止させるぞ」
「受講者たちの内面を見ない為といっても、装置が停止するまでに時差があるのは、やはりネックね」
「ちょっと待ってほしい」

 レオンが装置を止めてかつみを救出しようとした時、外で待っていたノーンが待ったをかけた。

「どうしたんだ?」
「私がかつみの空間に行く。だから、装置は停止しなくて良い」
「大丈夫なの? 体に傷が反映されていないから、怪我はしてないみたいだけど、どうなっているかは分からないのよ」
「問題ない。もう一人のかつみといっても、かつみ自身には変わりはない。なんだかんだ言っても私に攻撃してこないだろう」

 はっきりと断言するノーンにレオンは、かつみをノーンに任せることにした。

「良いだろう。だが、起動中に入るのは負荷が大きい」
「覚悟の上だ」
「あのこの精神は彼方にかかっているわ。絶対に助けるのよ」

 こうしてノーンはかつみの世界へ乗り込むことになったのだった。



◇          ◇          ◇




 装置の負荷に耐え、ノーンはかつみの世界へ入ることに成功する。

「かつみ」

 しゃがみ込んでいるかつみの前に立って声をかけるノーン。

「どうして、ノーンがここに……」
「ここに来る過程などどうでもよかろう。こんなになってまで独りで耐えるな。ばーか」
「わっ」

 かつみの頭を撫でるノーン。
 いつになく優しいノーンの言動に泣きそうになるかつみだったが、恥ずかしさと悔しさから絶対に顔を上げる事はしない。

「誰もお前に強さなんか求めてない。むしろ欲しいのは『助けてほしい』という声だ」
「え……」
「前にも言っただろう。『誰かを大切に思うが故に間違える馬鹿は嫌いじゃない』って」


『かつみは、もう少し自分も大事にしろ』


 ふと数少ない友人に言われた言葉を思い出すかつみ。
 本当にこれでいいのか分からないけども、小さく音になるかならないか位で呟く。

「たすけて」

 俯いたまま本当に小さな声で助けを求めた。

『今の言葉を忘れるな。絶対に』

 攻撃もせず、じっとノーンとのやり取りを見ていたもう一人のかつみは、そう言って消えていった。

「おまえ自身からも言われたんだ、絶対に一人でなんとしようとしないで、ちゃんと助けを求めろ」
「うん。ごめんね」
「全く。何のためにパートナーがいると思っているんだ」
「あはは、ごめんて」

 ノーンからの御小言を受けつつ、かつみは助けを求める重要さを知るのだった。