リアクション
神崎 優(かんざき・ゆう)は自分と瓜二つの存在と向かい合っていた。 ◇ ◇ ◇ 部屋の中に入ると装置の起動音以外になんの音も聞こえない。 あちこちで己と向き合う試練が起き続けていることなど、音も傷もない無機質な部屋までは届く事はないだろう。 いくつもの試練を見せていたこの部屋で、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)はもう一人の自分が出てくるのを待ち構えていた。 宵一とそっくりなようでどこか違う存在の宵一が現れる。 現れた彼は、凶悪な目つきで己を見、そして己と同じ禍々しい光を放った神狩りの剣を持っていた。 「最悪だな、アレも持って出てくるなんて」 『……どうしてお前は本能のままに戦わないんだ? 賞金稼ぎとして、世のため人のために戦うのが、少し面倒に思っただろう? たまには欲望の赴くままに、暴れまわりたいと思っていた事があるはずだ』 (俺の弱い心というのは、暴力を振るう事で得られる快感なのだろうか? いつの間に俺の心にそんな心が生まれてしまったのやら) 声にせず向こうが言ってくる言葉を思案していると、また向こうが口を開く。 『賞金首どもに慈悲をかけてやる事なんざないのに、お前は殺意を抑えてなる命を奪わないようにしている。――殺してしまえばいいのに。自分の気持ちに正直に生きる事もできないお前に、生きる意味はない。ここで引導を渡してやるぜ』 にやっと笑い、神狩りの剣をこちらに向ける。 「……違う、違う。正直に生きる事はそういう事じゃない。誰も彼もが、欲望のままに生きたいと思っている。だがそれをすると大切なものを失ってしまう」 『それの何が悪い』 「まだ俺は大切なものを失いたくない。ここで弱い心と立ち向かい、自分の信念のままに生きる事の強さを思い知らせてやろう」 『ふん、良いだろう。勝った方の言葉が正しい、実にシンプルな事だ。受けて立とう』 チャージブレイクとゴッドスピードで素早さを上げ、守りを捨てた攻撃がぶつかる。 鍔迫り合いが続き、同時にバッと離れまた剣と剣が攻め合う。 奪われていく体力。 勢いと剣の重さ、力が剣に乗せられて何度も交わっては距離を取る。 「さすが、俺といったところか」 『そうだな。だが、勝つのは俺だ!』 「(来たな!)」 撃ち出されるアナイアレーションに合わせて宵一もアナイアレーションを放つ。 中央で激しく交じり合う剣と剣は、周囲を巻き込んでクレーターを生み出す。 それでも互いにぶつけた剣を離す事なく睨み合う。 「これで終わりだ!」 アナイアレーションにチャージブレイクを乗せ、凶悪な目つきをした方の宵一の神狩りの剣が折れる。 そしてそのまま剣圧で宵一が吹き飛んでいった。 『うぐ……』 仰向けに倒れた宵一の首に神狩りの剣の剣先を当てる。 「勝負あり、だな?」 『………そのようだ。お前の勝ちだよ』 負けを認めた宵一の首から剣を離す。 上半身だけ起こした宵一の表情は満足げだ。 『生きる強さ・信念、確かに受け取った。だが、次に勝つのは俺だ』 「返り討ちにしてやるさ」 『ま、せいぜい頑張って生きる事だな』 空間が壊れていき、元の部屋へ戻っていく。 あちこちに出来たクレーターや傷も消えていき、宵一もあわせて消えていった。 残ったのは、神狩りの剣を持つ宵一と設置されている装置だけである。 |
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