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里に帰らせていただきますっ! ~ 地球に帰らせていただきますっ!特別編 ~

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 ■ ティータイムはお茶とお菓子と恋話と ■



 イルミンスール魔法学校が夏期休暇に入る少し前、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の元に、長女のエイル・エンデルフィアからのこんな誘いがあった。
「リースさえ良ければ、夏休みくらい1度地球に帰って来ない? 勿論、マーガレットも一緒に」
 改めて考えてみると、かなりの期間実家に帰っていない。この機会に帰ってみるのもいいだろう。
「あ、あの、今年はイギリスのお家に、帰ってみようと思うんです」
 エイルから連絡があったことをマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)に言ってみると、すぐ賛成してくれた。
「いいんじゃない? エイルお姉様もきっと喜ぶわ」
「そ、それで……マーガレットも一緒に行きませんか?」
「あたしも? いいのかな?」
 せっかくの家族団らんに自分が交ざっても良いのかと心配するマーガレットに、勿論ですとリースは答える。
「エ、エイル姉さんもそう言ってました」
「そうなの? ならお邪魔しようかなっ」
「は、はい。是非」
 こうして2人は、夏休みに入るのを待ちかねるようにリースの実家に戻ったのだった。



 普段はどんよりとした曇り空の多いイギリスも、夏の間だけは青空が増える。
 気候も比較的過ごしやすいので、休暇を過ごすにはもってこいだ。
 イルミンスールももちろん好きだけれど、やはり自分の実家は落ち着く。
「アイラにリースたちが来てるって連絡したら、すぐに飛んでくるって言ってたわ。相変わらずね」
 電話を切ったエイルが笑う。
 上下黒のパンツスーツに、ノンフレームの楕円形の眼鏡。黒髪を後頭部でシニヨンにしていることもあって、いかにも仕事が出来る女、といった印象のエイルは、そうして携帯を手にしている姿までさまになっている。
 エイルが言ったアイラ・エンデルフィアはリースの2番目の姉だ。賑やかなことが大好きな上、リースとマーガレットと会えるとなれば、きっとすぐに駆けつけてくることだろう。
「あたしの憧れのアイラお姉様も来てくれるの? じゃあお茶会したいね」
「そうですね。せっかくだからお庭でお茶しましょうか。マーガレット、倉庫でテーブルと椅子を探すのを手伝ってもらえます?」
「うん。手伝うよ」
 2人は普段使わないものを納めてある倉庫から、丸テーブルと人数分の椅子を探し出すと、埃を綺麗に拭いてから庭に運び始めた。

 けれど、そのテーブルを庭の木陰に設置するより前に、耳に痛い音が飛び込んでくる。
 車の物凄いエンジン音、急ブレーキの摩擦音、それから少し遅れて、派手な衝突音。
「もしかしてアイラ姉さん?」
 リースはそちらに向かおうとしたが、それより早く車のハンドル部分だけを持ったアイラが車から転がり出た。リースたちがいるのを見てアイラは嬉しくてたまらないように飛び跳ねた。その動きでくるくるカールした金髪が勢いよく跳ね、セクシー系ドレスから覗く胸が揺れる。
 光翼で文字通りすっ飛んできたアイラは、
「リースちゃん、マーガレットちゃん、久しぶりー!」
 ハンドルを空高く投げ上げて、リースとマーガレットを抱きしめた。
「アイラちゃんの大事なリースちゃんとマーガレットちゃんがパラミタから帰ってきたって聞いたから、アイラちゃん、ダーリンとのデートをすっぽかして、急いで車を転がしてきちゃった♪」
「転がしてというか……ぶつけてませんで……うぐっ……」
「アイラお姉、さま……く、苦し……」
 アイラはやたらと力が強い。嬉しさの余り、手加減無しにハグしてくるものだから、リースとマーガレットの背中の骨が、ぎしぎしと軋んだ。

「あらあら相変わらずね」
 アイラに締められているリースとマーガレットを微笑ましげに見やると、エイルは紅茶とお菓子を用意する為にキッチンに向かった。
「茶葉は……この間買ったダージリンがあったはず。あら……?」
 棚から出してみると、ダージリンの缶の蓋は開けっ放しになっていた。この間1度飲んだとき、開けたままで閉め忘れていたみたいだ。
 エイルは缶を覗き込んでみた。
「虫やゴミは入ってないみたい。良かったわ」
 問題なしと判断してお湯を沸かし始めたエイルは、次にティーカップを用意する。
 この間クライアントからもらった耐熱ガラスのカップが、紅茶の色も見えて良さそうだ。
 お湯が沸くと、湿ったダージリンの茶葉を入れたポットに注いで蒸らす。
「紅茶のお供はやっぱりスコーンよね」
 温かいのを食べさせてあげたいとの姉心で、エイルはスコーンを温めることにした。そのまま電子レンジに放り込もうとして、いけないいけないと手を止める。
 以前電子レンジでスコーンを石ころのようにしてしまったことを思い出したのだ。
 同じ失敗は繰り返さない。エイルはスコーンをアルミホイルでいい加減にくるんでから、電子レンジに入れた。
 バチバチバチバチと恐ろしい音がしてきたけれど、気にしない。
 もうそろそろ良い頃合いだろうと、エイルは紅茶をカップに注いだ。
「そういえば、ジャムを紅茶に入れると美味しいって教えてもらったのよね」
 手探りでジャムの瓶を取り出して、スプーンで少しすくって紅茶に垂らす。
 妙に粘度が高いジャムが垂れてくれないので、スプーンをそのままカップにつっこんでぐるぐるかき混ぜてみた。
「うーん、完璧ね」
 そこに料理下手の姉を心配して、リースがやってくる。
「エ、エイル姉さん……あの、スコーン……温められま……きゃっ!」
 妖しい光がスパークしている電子レンジに、リースは小さく悲鳴を挙げると、あわてて扉を開けた。
「どう? 温まってる?」
「え、えっと、アルミホイルで包むと、温まらないです……それに、アルミホイルが庫内に触れると、火花……出てしまいます」
「そうなの? じゃあやり直しするから、お茶を運んでくれる?」
「……な、なんだかお茶から、い、異様な臭いが……してますけど……」
 黒ずんだ物体が漂うお茶にリースがひるむと、エイルは手にしていた瓶を見せる。
「ジャムを紅茶に入れると美味しいらしいのよ」
「そ、それ……マーマイト、です」
 マーマイトの独特で強烈な味を好きな人もいるけれど、少なくとも紅茶に入れて飲む気はしないだろう。
「お、お茶、私がいれます。ス、スコーンも温めますから……」
 このままだと何が起こるか分からないからと、リースは姉に代わって紅茶とお菓子を用意した。

 庭の隅ではまだアイラの車が白煙を噴き上げていたり、ダージリンの予定だった紅茶がニルギリに変更されていたり、という細かなことはさておいて。とりあえず無事に庭でお茶会が開かれた。
「アイラちゃん、リースちゃんとマーガレットちゃんがパラミタで何してたか、全然知らないのよねぇ。格好良い彼氏は出来たのかしら?」
「そ、そんな……彼氏だなんて……」
 リースは自信なさげに目を伏せた。マーガレットは恥ずかしそうに頭の後ろを掻いてから、思い切って話し出す。
「毎週彼氏が変わってる恋愛経験豊富なアイラお姉様なら、良いアドバイスしてくれるかな。あー、えーっと……誰にも言ったことないんだけど、あたし実はナディムに片思いしててさ。伝えたいとは思うんだけど、親友同士って今の関係も楽しくて、告白できないでいるんだよね」
 マーガレットの好きな相手ということで、アイラがずいっと身を乗り出す。
「その人はどんな人? ルックスとか家柄とか性格とか、何処まで関係が進んでるかとか分からないと、アドバイスしにくいわぁ」
「外見は……すらっと背が高くて、顔も取り敢えずブサイクじゃないと思う。性格とか明るくて、話してて楽しい人だよ。関係は親友、かな。……お姉様、あたしどうしたら良いと思いますか?」
「うふふ、任せておきなさぁい。恋愛経験豊富なアイラちゃんが、ばっちり教えてあげるわよぉ」
 真剣な表情で尋ねるマーガレットに、アイラは恋のアドバイスの数々を伝授していったのだった。