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白百合革命(第1回/全4回)

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白百合革命(第1回/全4回)

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第8章 お見舞い

 空京にある、西シャンバラのロイヤルガード宿舎。
 ロイヤルガードの隊長である神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)のパートナーのアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は、普段はこの宿舎の割り当てられた部屋で寝どまりしている。
 彼女は侍女として女王に仕えているため、宮殿で過ごす事も多かった。
 しかし今日は全ての仕事を休んで、自室で休んでいるという……。

 知らせを受けて、ロイヤルガードに所属する秋月 葵(あきづき・あおい)は、お見舞いに訪れた。
「お世話ならこのまじかるナースのあおいちゃんにお任せだよ♪」
 アレナをベッドに寝かしつけて、葵は可愛らしいお花を部屋に飾ってあげた。
(何だか優子隊長も寝込んでるみたいだし……まぁ鈴子さまが付いてらっしゃるからひとまず大丈夫かな……)
 笑みを浮かべながらも、葵は内心心配していた。
 優子も、アレナも、病気や怪我が原因で、体調不良に陥っているわけではないようだったから。
「ご飯ちゃんと食べてる? プリン持ってきたよー」
「ありがとう、ございます」
 アレナは弱弱しい笑みを見せた。
 咳き込むわけでも、クシャミをするわけでもないが、とにかく苦しいらしく、時々大きな息をつき、手で顔を覆っていた。
「アレナ、色々買ってきたぜ!」
 もう一人、蒼空学園の生徒、匿名 某(とくな・なにがし)のパートナーの大谷地 康之(おおやち・やすゆき)も、アレナが不調だと聞いて、すっ飛んで訪れていた。
 部屋に1人の時に男性を入れてはいけないと、アレナは優子に強く言われているそうで、葵が到着するまでの間、康之はアレナに必要そうな物の買い出しに出ていたのだ。
「少しは食べないとな。ええっと……」
 部屋に置いてあったクッションを持ってきて、アレナをそっと起こして、彼女の背にクッションを入れてあげる。
「飲めるか?」
 それから紙コップにスポーツ飲料水を入れて、アレナに差し出した。
 アレナはこくんと頷いて、紙コップを受け取り、ごくごくとドリンクを飲んだ。
「あーん、する? それとも自分で食べられるかな?」
 プリンをスプーンで掬って葵が尋ねると、アレナは口を開けて一口いただき、その後は受け取って、自分でプリンを食べた。
「……また思い詰めたり、無理しちゃったの?」
「何か悩み事でもあるのか? 俺でよければ力になるぞ、遠慮なく言ってくれ!」
「いえ」
 葵と康之の問いに、アレナは複雑そうな顔をする。
「優子隊長も調子が悪いって知ってる? アレナちゃんはいつ頃から調子悪いのかな? 原因は解ってる?」
「そういえば、優子さんも寝込んでるんだってな。でも、優子さんが寝込むのって結構珍しいよな? 日頃から鍛えてるし、そういう姿見たことないからな……何か思い当たること、あるか?」
 アレナは少し迷った後、こくんと首を縦に振った。
「ゼスタさんが、行方不明になった日に、優子さんが倒れたんです。それから、私も調子が悪くなったり、治ったりの繰り返し、です」
「ゼスタ、か」
 ゼスタが蒼空学園に立ち寄った後、行方不明になったという話は康之の耳にも入っていた。
 ダークレッドホールの事件に巻き込まれたらしいという噂も。
(だとしたら、優子さんとアレナの症状はもしかして……)
 康之はアレナの不安そうな顔を見て、ハッとする。
(アレナを気落ちさせないように来たってのに、俺が気落ちさせそうな話題を思い浮かべてどうする!)
 康之は首を左右に振ると、普段通りの笑みを浮かべた。
「それじゃ、またすぐに軽くなって、完治するさ! 治ったら遊びに行こうな。あんまり飯食えなかった分、美味しいもの沢山食べようぜ」
 そう語りかけると、アレナは不安そうな顔ながら首を縦に振った。

 だけれど……。
 その日、アレナの症状は悪くなる一方だった。
 一人で生活できないほどではないが、明らかに呼吸が苦しそうだ。
「アレナちゃん、西シャンバラのロイヤルガードの誰か、呼んでこようか? それとも、あたしと一緒にヴァイシャリーに行く?」
 葵は夜にはヴァイシャリーに戻らなければならない。
 康之も、一晩中付き添った事実が知られれば――優子を怒らせてしまうかもしれない。
「葵、さん」
 アレナが葵の腕をぎゅっと掴んだ。
「東の宿舎に、連れて行ってください」
 それから、アレナは康之を目に涙をためながら見た。
「優子さんの側に、行きたい……です。……早く、側に、行かないと……もしもの時、一緒、に……」
 途切れ途切れのアレナの言葉に、康之は拳を握りしめる。
「……わかった。けど、俺も一緒にいるぞ?」
 康之の言葉に、アレナは強く頷いた。

○     ○     ○


 ヴァイシャリーに存在する、東シャンバラのロイヤルガード宿舎。
 夕方――。
「お手伝いに来ましたー。雷霆リナリエッタ入ります」
 桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)の友人である雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、鈴子から優子が不調で寝込んでいると聞き、鈴子の手伝いのために訪れていた。
 なんでも、優子の看病はとっても大変とのことだ。
(入浴の手伝いなんかもしてるのかしら? 鈴子さんより体大きいから大変だろうけど……)
 そんなことを思いながら、リナリエッタは優子の部屋に入り、寝室を覗き込んだ。
「雷霆……解いて、くれ。今日は……大事な、約束が……ッ」
 ベッドの中で優子が呻いている。
「誰がこんなことを!?」
 優子は鎖で縛られていた。
「私です」
 ベッドに近づこうとしたリナリエッタの肩を掴んで留めたのは、鈴子だった。
「その鎖を自分で引きちぎれるくらい元気になったら、仕事に行ってもいいですよ」
 くすくす、笑みを浮かべながら鈴子が言った。でも目は笑ってない。
 優子は体調不良ながらも、ロイヤルガードとしての仕事に行こうと何度も脱走を試みたらしい。
「体調に大きな波があるようで、調子の良い時は長時間調子が良いのですが、悪くなるとまっすぐ歩けないくらいに、ふらふらしだすので」
「それで、ベッドに縛り付けた、んですね。ですけれど、体調が良くなっても鎖を引きちぎるのは無理では」
「優子ならできますわ。さ、ご飯を食べさせてあげましょう」
 鈴子はベッドに近づくと、背もたれを起こした。
 それからキッチンで作ったきた雑炊を、蓮華で掬って優子に「あーん」と言って、差し出した。
 優子はふて腐れた表情ながらも、鈴子に従って食事をしていく。
 リナリエッタは事態が事態なだけに、茶化すこともせず、苦笑しながらベッド脇の椅子に腰かけて優子の症状を見る。
(……風邪でも、変な呪いやフラワシの影響でもなさそうね。
 となると、やっぱり――パートナーロスト?)
 優子は数日前の仕事中に突然倒れたという。
 しかしすぐに回復し、しばらくは普通に仕事をしていたらしい。
(波があるってことは、パートナーの状態が悪くなったり、良くなったりしているってこと?)
 食事を終えるまで見守り、思考を巡らせた後、リナリエッタは優子に尋ねてみる。
「症状の発生タイミングは、ゼスタの行方不明のタイミングだった?」
「……そうだよ。奴の身に何かが起きていることに、間違いはないだろうな」
 頭痛がするのか、優子は頭を押さえて、けだるげに答えた。
「その前後に、ゼスタや風見さんと接触したり、話をしたりしなかった?」
「特に何もしていない。学校訪問についても、2人のその日のスケジュールに関しても、私は全く把握していなかった」
 そして、事件後に優子に連絡が来ることもなかったとのことだ。
「ゼスタには何度か電話をかけてみたが、繋がらない。携帯電話が受信できる状況にない、ということだと思う」
 優子は眉間にしわを寄せて、目を強く閉じている。
 かなり調子が悪いようだ。
「風見さんのパートナーのところに、友人がお見舞いに行ったんですけれどぉ、聞いた話では風見さんとも連絡がとれないらしいです。ただ、風見さんのパートナーは、パートナーロストの影響は出ていないっぽいらしいです。風見さんは無事なようですよー」
 円からテレパシーで聞いた話を、リナリエッタが優子にすると、優子は少し表情を和らげて頷いた。
 またこちらの状況をもリナリエッタはテレパシーで円へと伝えておく。
 と、その時。
 優子の携帯電話が鳴った。
「代わりに出ますわよ?」
 鈴子がテーブルの上の携帯電話に手を伸ばした。
「頼む。内容によっては、自分で話す」
 頷いた後、鈴子は電話に出て、数回返事をしただけで電話を切った。
「……パラ実の方が、お見舞いにみえられたそうです。ロビーでお待ちのようですけれど、管理人さんもどう対応したら良いのか分からないそうで……」
「若葉分校の生徒か?」
「いえ、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)と名乗られたそうです。恐竜騎士団の副団長、らしいですが……」
 どんな関係? というような目で、鈴子が優子を見る。
「対応できる状態じゃな……」
 苦しげにそこまで言った優子だが、突然目を大きく開くと、瞬きを数回して。
 巻かれていた鎖を引きちぎ……りはしなかったが、ゆっくり自力で解いて起き上がる。
「治ってきた。今度こそ完治させる」
 そして、すぐに身支度を始める。
「治そうと思っても、治せる症状じゃないでしょ」
 鈴子は苦笑しながらも手伝う。
「鈴子さん、付き添って出かけるんですか? もしよろしければ私はお供しますよー」
 リナリエッタが立ち上がって、ドアを開けた。
 その時、再び優子の携帯電話が鳴った。
「……そっちは大丈夫か? そうか。分かった。ただ、今から出かけるんで、そっちに来てほしい」
 電話の相手はアレナだった。
 彼女は今、友人達と一緒に優子の元へと向かっているらしい。
「パラ実の、ジャジラッド・ボゴル……か。どんな人物か全くわからんが、会ってみる、か」
 パラ実の講師でもあるゼスタがいたらな、と優子は苦笑しながら、鈴子、リナリエッタと共にロビーへと向い、ジャジラッドと面会したのだった。
 腹積もりは解らないが、ジャジラッドは若葉分校の喫茶店で購入した土産の品を持ってきており、友好的な姿勢を示してきた。