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白百合革命(第3回/全4回)

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白百合革命(第3回/全4回)

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第3章 救護艇到着

 ダークレッドホールの先。シャンバラとは異なる空間の、かつては川が流れていたと思われる場所で、橘 美咲(たちばな・みさき)レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)は希望を持って、生きていた。
「あたし、いろいろバカだったよ。ごめんね」
 美咲に看病されながら、苦しげにレオーナは言った。
 突入の時の炎と熱による火傷と、落下時の衝撃によりレオーナの身体は酷く傷ついていた。
「イコプラを通じて、こちらの状況は皆さんに伝わっているはずです。すぐに皆が来てくれますよ!」
 美咲は虹のタリスマン、灼熱のマントをレオーナに纏わせて、岩陰に移動した。
 ロボット、それから人の姿をしているけれど表情がなく、シャンバラから訪れた生存者とは思えない光の武器を携えた若者がこの世界には存在していた。
 それらは巡回をしていたが、くぼんでいるこの辺りには下りてくることはなく、こうして静かに隠れていれば、今後もやり過ごしていけそうだった。
 石を使って地面を掘ってみるが、地面は乾燥しており、水が出てくる気配はなく、水分を補給できそうな植物も存在していなかった。
「ナラカとは違う赤い炎の空。大地は広くて、その先にあるのも炎の空なのかな」
 野生の勘を働かせ、レオーナは空や周辺を探っていた。
 彼女の勘によりロボットや武器をもった若者の接近に気付けていた。
「つぅう、美咲ちゃんお願い」
 そして、石を掴んで地面に文字を書いていく。
「わかりました。でも、無理はしないでくださいね!」
 美咲はイコプラをレオーナが書いた文字が見える位置に移動させた。
 まともに動けず、地面も乾いているため、単語を書くだけで精一杯だったが、それでもレオーナは目で耳で鼻で、五感で感じた周囲の情報を出来る限り地面に残していく。
 イコプラを通じて、これから突入しようとしている人に伝わるかもしれない。
 そして、自分が行き倒れたとしても、いつか訪れた百合園の皆が、読んで何かの役に立ててくれるかもしれない。そう思いながら。
「人の形をしている人が歩き回っていることから、どこかに休憩が出来る場所があるんでしょうね」
 美咲は巡回している者たちがどちらの方向から、どちらの方向に向かって行ったのか記憶しておいた。
 それから、レオーナの意識が朦朧としてきたことに気づいて。
「レオーナさん、少しお話しをしましょう!」
 レオーナが意識を失わないようにと、美咲は笑顔で話しかけた。
「テーマは今年下半期の恋模様!!」
「今年、下半身の恋模様……」
「違いますよ、下半期の恋模様です」
 笑いながら、美咲は語りだす。
「レオーナさんは、女の子が好きなようですが、私には好きな男性がいるんです。
 ……ファビオさんっていうんですが、年上なのに少々危なっかしいところがあって放っておけないんです」
 ここに来る前に、久しぶりにデートをしたのだけれど、また何か悩みを抱えているみたいであったこと。
 戻ったらその悩みを聞いてあげたいと思っていることを、話した。
「ダークレッドホールに突入する直前には、ルーシェリアさんに彼宛ての手紙を預けたんです。行ってきますって書いたんですけれど、本当は直接「行ってきます」を言いたかったなぁ」
 美咲は彼の事を思いながら苦笑をする。
「……だから無事に戻ったら彼に直接「ただいま」を言うって決めています。
 レオーナさんも無事に戻って大切な誰かに「ただいま」を言ってあげて下さい」
「うん、皆と一緒に帰って、待っていてくれている娘にもハグしてただいまって言うんだ。あたしの下半身の恋模様は、ハーレムだよ! リンちゃんも冬山ちゃんもリンちゃんもエリシアちゃんもイングリットちゃんも美咲ちゃんもみんな可愛いよ」
 苦しげな顔に、レオーナは僅かな笑みを浮かべた。
「いつも暴走百合アッー! なあたしだけど、こんなおバカなあたしだけど、それでもここにおいてくれてるだけで、恋なんてしなくてももうお腹いっぱいだよ……」
「レオーナさんには好きな子が沢山いるようですけれど、一途な恋はしてないんですね」
 くすっと美咲は微笑んだ。
 美咲はレオーナを介抱しながら、自分が彼女に護られていることにも気づく。
 もし1人だったら、無理して探索をして回っていたかもしれない。
 イコプラを通じて彼女の状況が伝えられていることで、助けがくるという確信も持てていた。
 彼女の存在が百合園の皆を、シャンバラの人々を動かしてくれる、と。

○     ○     ○


 11月中旬に、百合園女学院から救護艇がダークレッドホールに向かい発進した。
 元白百合団の団長の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)をリーダーとし、副団長補佐のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が、指揮を担当することになった。
「向こう側の環境は苛酷だから、救護班は固まって離れずに行動しよう。
 救助に来て二次遭難なんて洒落にならないからね」
 レキの他、救護艇には九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が乗っていた。
 シリウスとサビクは、ダークレッドホール突入時はイコンのシュヴェルト13に乗り込む予定だ。
 脱出用ポッドに乗るのは3人。
 開いた空間に、レキは薬と水を沢山入れてきた。
 レオーナが地面に書いた情報により、ダークレッドホールの先の世界では、あまり魔法の効果が望めないという情報も得られていた。医者のローズが同行してくれることになったため、多少の医療器具も積み込んでおく。
「情報を元に、兵装の準備はしてきたが、どこまで正常に動作するやら……ボクらも込みでね」
「イコンが誤作動起こしたら大変なことになりそうだね」
 サビクの言葉に、レキは少し心配するが。
「そうなりそうなら、稼働停止し熱避けとか避難所として使用するしかないな」
 得ている情報からして、イコンは多分大丈夫だろうとサビクも白百合団も判断していた。
「っと、近づいてきたな。それじゃ、そっちも気を付けて」
 鈴子に目配せをすると、サビクはシリウスと共にイコンへと向かっていく。
「救護艇の進路をダークレッドホールに設定した後、脱出ポッドに移動します。準備はいいですか?」
 鈴子がレキとローズに目を向けた。
「はい!」
「ええ、覚悟は出来ています」
 2人の言葉に頷いて、鈴子は進路を入力し、2人と共に脱出ポッドへと移動した。

 赤黒い渦に近づいた途端、救護艇内に警報が鳴り響く。
「シートベルトをして、きちんと掴まっていてください。荷物はちゃんと固定しましたか?」
「はい、しっかり固定してあります」
 鈴子の問いにレキが答えた。
「準備は整っています。負傷した方々の元へ――」
 ローズは赤黒い渦を睨み据えた。
 付近にはレグルス・ツァンダを始めとした調査を続けている契約者達の姿がある。
 人々に合図を送り、百合園女学院の救護艇はダークレッドホールに突入した。

 突入直後から、救護艇は凄まじい衝撃を受ける。
 激しい揺れと衝撃で吐き気がし、シートベルトが身体に食い込み強い痛みを感じる。
 声を出す事も出来ず、ひたすら耐えること数分。
 辺りが赤黒い渦の空間から、薄く赤い空間へと変わった。
 渦の力に流されていた救護艇は、大地へと急降下していく。
 鈴子が脱出ポッドを射出させる。
 サビクはハッチを撃ち抜いて飛び出した。
 そして墜落する救護艇を捨て、シュヴェルト13は脱出ポッドに近づき、両腕で掴んだ。
『一応正常に動くみたいだ』
 通信を送ってみたが、反応がない。
 通信機能は使えないようだった。
「内部からの操作は可能だが、リモートコントロールは出来なそうだな。センサーの類も使えないか」
 カメラで大地の様子を確認する。
 イコンでは人を正確に捉えることは難しいが、大地の様子は分かる。
「救助対象がいる場所は、川だったよね。ちょっとそこまで我慢してもらうよ」
 サビクはまずは美咲とレオーナが居る場所。干上がった川を探して飛ぶ。
 人と思われる存在がちらちらと地上に見える。
 だが今は、危機に瀕している2人の救助を優先しなければならない。
 サビクは高度を下げずに飛び、それと思われる場所――かつては川が流れていたと思われる場所に到着を果たす。
「といっても、長さ50キロくらいはありそうだよね」
 低空を飛べば、美咲が気付くかもしれない。
 しかし、イコンのカメラが美咲を見落とさず捉えることができるかどうか、敵を寄せ付けてしまい、美咲達に危害を加えたりしないかどうか心配であった。
 サビクは脱出ポッドをそっと地面へと下ろす。
 そしてイコンのハッチを開けて、自らも地上へと下りた。
「うう、気持ち悪い……でも、生身でダークレッドホールを越えた人の受けたダメージはこんなものじゃないから」
 シートベルトを外すと、レキはリュックに入れた水と薬を背負って、外へ出た。
 酷く熱い世界だった。
 太陽の熱ではなく、強いエネルギーの力。魔力と電磁波が渦巻いているようだった。
 また、集中をするのもとても難しい。集中を要する魔法の使用は特に困難と思われる。
 携帯電話を調べてみたが、こちらは誤作動を起こしておりパートナー通話も無理なようだった。
「なるべく早く見つけないと……。敵にも見つからないように」
 レキはエリシアが作成したイコプラ周辺の地図と地形の情報が書かれた紙を取り出した。
 目印となりそうなのは、岩と朽ちた木だが、この辺りにはない。
「威力はかなり弱いですが、多少魔法は使えるようです。体力の温存を最優先にしましょう」
 ローズは、クライオクラズムを発動して確かめてみた。また、冥界渡りの能力を用いて、体力の温存を図る。
 突入時に負傷をしていないこともあり、発動しているリジェネレーションで自身の消耗は防げそうだった。水分補給を怠らなければ。
「それじゃ、行こう。……桜谷先輩はイコンと一緒にいたほうがいいかな?」
 レキの問いかけに鈴子は頷いた。
「力の全てを負傷者の回復に当てたいので、それまでの間は出来るだけ消耗するようなことは控えたいです」
「それなら、脱出ポッドの中に入っていてもらうか。空調は長くは持たなそうだけれど、風避けにはなるだろうからね。避難所として活用しよう」
 サビクは鈴子にそのまま脱出ポッドに入っているように言うと、再びイコンに戻り、脱出ポッドを抱えた。
「ピピ、センゾンシャハッケン。ホカク――」
 機械音が響いた。
「っと、サビクさんお願い」
 レキはマントで体を覆い、光学迷彩で姿を見えにくくしてローズと共に歩き出す。
「生存者はこっちだ、こっち」
 レキや要救助者を巻き込んだりしないよう、弾薬は使わずサビクは斬龍刀を振り回したり、イコンを動かして敵の注意を引き付けるのだった。

 救助者を探して歩きながら、レキとローズは若者の遺体を何度か目にした。
 そう古いものではない。ダークレッドホールに飛び込み、耐えられたなかった者と思われる。
「偽物を送り込まれた、冬山小夜子さん、牛皮消アルコリアさん、リン・リーファさん、それからヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)さん、マリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)さん、そして藤崎 凛(ふじさき・りん)さんも必ずどこかで生きているはず!」
 レキは行方不明者のリストを持ってきていたが、誰であるのかの確認は後回しにして、美咲たちの元へと急ぐ。
「……あ、木がある。地図に書かれている木かな?」
 朽木を見てレキが言い、ローズが辺りを注意深く調べる。
「見てください文字です」
 ローズは地面に書かれた文字を発見した。
 『ごめんね』
 それは、レオーナがが書いた文字と思われた。
 レキは周囲を見回して、敵の姿がないことを確認すると声を上げる。
「美咲さん、レオーナさん、どこですかー!」
 呼んですぐに。
「こっちです! レオーナさんも一緒です」
 岩の影から、美咲が顔を出した。
「よかった、間に合いました」
 駆け付けて、ローズは倒れているレオーナの容態を見る。
「もう大丈夫です」
 そして、命の息吹とヒールで、レオーナの傷の治療を試みた。
 やはり魔法はあまり効果を発揮できなかったが、多少癒すことは出来た。
「地球の医療的な治療の方が効果あるかも? 後は桜谷先輩の力に期待しよう」
「そうですね。脱出ポッドまで戻りましょう。歩けますか?」
 ローズは美咲にもヒールをかけて、肩を貸そうとする。
「ありがとうございます。私は大丈夫です!」
「その前に、飲んで。レオーナさんも!」
 レキはもってきた水筒を渡して、美咲とレオーナに水分をとってもらった。
「さ、乗って」
「ありがとう。幸せすぎる……」
「幸せを感じるのはこれからですよ。百合園に帰還してからです」
 レオーナは感激しながら、美咲に手伝ってもらいレキにおぶってもらった。
「大人しく掴まって。それとも姫抱っこしましょうか?」
 軽くふらついた美咲の腕を、ローズが掴んだ。
「大丈夫です。でもやっぱり、肩かりますね」
 美咲はイコプラを抱え、ローズの肩を借りて歩き出す。

 シュヴェルト13は近くまで移動してきており、敵の注意を引き付けていた。
 引かない敵には、地道に土をかけ、石を投げて沈黙させていった。
 敵の姿が無くなってからレキとローズはレオーナ、美咲を連れて合流を果たし、出来る限りの治療を施したのだった。