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リアクション
『マジカラット』の未来
2025年の立春の頃。
アイドルユニット『マジカラット』は、ライヴ公演の為に空京に来ていた。
今年に入って知名度が随分と上がり、チケットは初日で完売、満席状態だった。
そこまで大きな会場はなかったが、ライヴはとても盛り上がっていた。
その合間の休憩時間。
マジカラットのメンバー、白波 理沙(しらなみ・りさ)、チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)、白波 舞(しらなみ・まい)、愛海 華恋(あいかい・かれん)の4人は、楽屋で一緒に過ごしていた。
「午前はすっごい盛り上がったわね。とっても楽しかった」
理沙は濡れタオルで顔の汗を拭いた。
野外の会場だから、気温はとても低いのだけれど。
力いっぱい歌って踊ったため、メンバーも観客も沢山汗をかいていた。
「観客の皆と一緒に歌って踊って楽しく過ごせるこの時間、今では大好きなの!」
目を輝かせて言う理沙。
「ええ、まるで別の世界、別の時間での出来事のようですわ」
チェルシーも汗を拭いて、化粧を直す。
衣装も着替えた方がよさそうだった。
「そうね。めいっぱい楽しんでおかないと損よね。……冷たいのが良いかしら」
舞は汗を拭いた後、皆の分の飲み物を用意して配っていく。
「うんうん、皆とお客さんとわいわい楽しめるのっていいよねっ」
華恋は上気した顔ですっごく嬉しそうに微笑んでいた。
「ありがとう」
舞から受けったスポーツドリンクを飲んで、理沙はふうと息をついた。
「そういえば、華恋は本格的にアイドル活動してるみたいね。ライヴだけじゃなくて、テレビにも出演してるみたいだし」
「うん♪」
理沙の言葉に、華恋はにこにこ笑みを浮かべながら、頷いた。
「えへへっ♪ 今度正式にドラマデビューすることになったんだよっ♪」
「ほんと? 凄いじゃない」
「おめでとうございます」
「大変そうだけど、頑張ってね」
理沙、チェルシー、舞それぞれの言葉に、華恋はうんうんっと頷く。
「歌だけじゃなくもっと皆に楽しんでもらいたいからお芝居の方も積極的にやっていこうと思ってね。
ボク、ソロでも芸能活動していきたいんだ」
「そっか……。華恋は俳優の勉強もするのね。大変だと思うけど、応援してるわ♪」
理沙自身は、手が回らないため、俳優活動については考えていなかった。
「ありがとう♪ 理沙は卒業後は、どうするの?」
「私は大学を卒業したら、ニルヴァーナ校で正規教員として、働かせてもらうの」
今は臨時で教師を務めさせてもらっている程度だが、大学卒業後――今年の春からは、正式に就任予定だった。
「だから今以上に、アイドルの仕事を増やすことは出来ないかな……。楽しいんだけどね♪
でも、教師としての仕事もやりがいのある、大切な仕事だと思うから」
「そうだね。チェルシーはお店に専念するの?」
華恋は、着替えをしているチェルシーに尋ねた。
「わたくしはもうすこし大学に残って、色々学ぼうと思いますわ」
ステージ衣装ではなく、チェルシーは普段着に着替えた。食事をとるために。
「卒業したら本格的にお店の経営をしていかなくてはなりませんし……」
彼女は、ニルヴァーナにオーナーとして最近開店させた店を持っている。
大学に通っており、こうしてアイドル活動もしているため、あまり店にはいられず、部下に殆ど任せっきりな状態だけれど。
大学で経営等の勉強をもっとしてから、本格的に店を経営していきたいと思っていた。
「お店の経営かあ……難しくて、大変そうだね。舞は?」
華恋はお弁当の準備を始めた舞にも尋ねた。
「うーん……春には大学を卒業するんだけど……その後、新しく何するって決めてないし私は特に変わらないかしらね……」
目を逸らし、舞はそう言った。
「まぁ、もう少ししたら考えるわ。さ、お弁当食べましょう」
話を逸らすかのように、皆をテーブルへと呼ぶ。
実は舞には恋人がいて、恋人との間で、結婚の話が出ていた。
でもまだ、具体的なことは決まっておらず、日取りも何も相談中なので、皆には話せないのだ。
(もしかしたら、6月に結婚して、専業主婦になるかもだけれど……今の段階じゃ、言えないわよね)
「うん、お腹空いた〜」
理沙が椅子に座り、チェルシーと華恋もテーブルについた。
「お茶でいいかな」
舞がクーラーボックスからペットボトルを取り出して、皆のグラスに冷たいお茶を注いだ。
「それじゃ、いただきまーす♪」
「その前に」
食べ始めようとした華恋を止めて、理沙はグラスを手にした。
「華恋のドラマデビューを祝い、乾杯しよっ」
「ええ、乾杯」
「乾杯〜」
「えへへっ、ありがと♪」
グラスをカチンと合わせて、4人は明るく笑い合う。
「午後も頑張ろうね。めいっぱい楽しもう!」
理沙の言葉に、チェルシーと華恋、舞は明るい笑顔で返事をした。
そして、午後のライヴが始まり、再び会場は熱気に包まれる――。