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空を観ようよ

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二年参り

 大晦日の夜。
 天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)は、恋人のイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)を誘って、空京の神社に初詣に訪れていた。
 とても混み合っていたからでもあり、手が冷たかったからでもあり……一番はそうしていたかったから、結奈はイングリットの手をしっかりと握りしめていた。
「さすがに混雑していますわね。もめごとが起きなければ良いのですが」
「いんぐりっとちゃん、少しもめごとが起きて欲しいとか思ってない?」
「……そんなことないですわ。勿論起きた際には、仲裁に向かわせていただきますけれど!」
 イングリットの目は期待に輝いていた。
「いんぐりっとちゃん、危ないことはしないでよ。一緒に新年を迎えようね」
「ええ、警備の方もいるようですし、何事も起きなけば、大人しく順番を待ちますわ。……何事も起きなければ」
「だから、事件が起きても、空京警察にお任せしなきゃだめだよー。あ、動き出した」
 イングリットの手をぐいっと引っ張って結奈は歩いて行く。
 並んでいるうちに、年が明けて。
 遠くで花火が上がり、鐘が響く。
「あけましておめでとう、いんぐりっとちゃん」
「おめでとうございます、結奈さん」
 今年初めての挨拶を交わして、本殿へと近づく。
 年が明けて数分後に、2人の番は訪れて。
 鈴を鳴らし、ニ礼二拍手一礼して、心の中で願い事を念じる。
(いんぐりっとちゃんとずっと仲良くいられますように)
 結奈が礼を終えて、顔を上げた時、イングリットも礼を終えていた。
(いんぐりっとちゃんは、何をお願いしたのかな? 百合園のことかな……。バリツのことじゃないよね。それはお願いしてできるようになりたいわけじゃなくて、自分の努力で身につけていきたいことだと思うから)
 再び結奈はイングリットの手をぎゅっと握って、ひっぱる。
「いんぐりっとちゃん、おみくじひこー」
「ええ、今年の運勢、結奈さんに負けませんわよ」
「勝負じゃないでしょー」
「そうですわね。お互い大吉をひき、切磋琢磨していけたらいいですわね……」
 列に並んで、2人はおみくじを引いた。
「……私は中吉。特別なことは書いてないかな……。あ、恋人ともっと仲良くなるには、沢山話をしましょう、みたいなことが書いてあるよ! いんぐりっとちゃんは?」
「わたくしは……吉ですわね。怪我に注意だそうです」
「やっぱり……当たるまえから当たってるきがするよ」
 結奈は心配そうな目でじっとイングリットを見た。
「わかっています。結奈さんを悲しませるようなことはしません。重傷を超える怪我は負わないよう注意いたしますわ」
「重傷もダメだってば……もう、いんぐりっとちゃん、心配ばかりかけるんだもん」
「ごめんなさい。でも、結奈さんとこうしている時間もとても楽しいですから。無謀なことはしません。
 だからそんな目はしないでください」
 心配そうにイングリットを見る結奈の頭に、イングリットは手を置いて微笑みかけた。
「それじゃ、おみくじ結んで、それから……お神酒もらおう! あっ、あっちではお餅ついてる。もらえるかな?」
 結奈はイングリットの手をぐいぐいとひっぱる。
「絵馬も書きましょう」
「うん! そういえば、いんぐりっとちゃんは、どんなお願いしたの?」
「結奈さんや、百合園の皆さんの健康をお祈りしましたわ」
「ほんと? ありがとー!」
「あとわたくしの拳硬を」
 と言ってイングリットは拳を上げて握りしめた。
「あっ、なんか違う。おなじケンコウだけど、発音が違う気がするよー」
「それで結奈さん、今年もどうぞお手合わせの程よろしくお願いいたします」
「もー、略っして『ことよろ』ね、いんぐりっとちゃん」
「はい、ことよろですわ」
 楽しそうに笑い合って。
 2人は手を繋いで、境内を回っていき。お神酒を戴き、健康祈願の絵馬を掛けて。
 つきたてのお餅を貰いにいくのだった。