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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

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ミュンヘンで飲みましょう!
 修学旅行二日目。
 この日も各地で生徒たちは、貴重な時間を過ごしている。
 ただし、一部の者は二日酔いにやられて、行動を制限されてしまっているが。

「ミュンヘンってのは、なんつーか……新しくて……白くて綺麗な所なんだな」
「そうですね。立派な劇場やスタジアムがある大都市ですね」
 久途 侘助(くず・わびすけ)香住 火藍(かすみ・からん)は、意外と近代的なミュンヘンの街に驚いていた。
「ミュンヘンといえば、やはりビールですか」
「そうだな。ビールは有名だけど、実はワインも美味いんだぜ!」」
 もう一人の同行者、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が明るく応じた。
 実はこの二組、一日目はそれぞれ異なる過ごし方をしてきたのである。
 侘助と火藍は、ミュンヘンに的を絞り、有名観光地を巡っていた。
 ラルクは、各地のワインを飲み比べて移動を繰り返し、二日目にここミュンヘンにたどり着いたのだ。
 修学旅行の運営が用意した宿が同じだったため、二組は出会うことができたのである。

 いま三人は、白壁の立派な建物の前にいる。
 この建物……市庁舎は、どんっとインパクトある大きさながら、繊細な細工が施され、まさにドイツらしい建物であるといえよう。
「立派なもんだ」
 見上げすぎて首がいたくなったのか、コキコキと首を鳴らしてラルクがつぶやいた。
「ドイツ! って感じだな」
「本当に理解して言ってます?」
 三人はしばらく、街や建物の感想を言い合った。
「……さて」
 ラルクが地図を取り出した。
 目的地が異なるため、ここから別行動となる。
「じゃ、いい思い出作れるように祈ってるぜ」
「そっちも。素晴らしいワインに出会えるといいな」
 笑顔で挨拶をすると二組は、それぞれの方向に歩き出した。



「……で、いきなりビールですか」
 ラルクと別れた後、侘助はまっすぐバーにやって来た。
「さっ、ドイツビールを楽しもうぜ!」
 いつの間に注文を済ませたのか、既に侘助の手にはジョッキが握られていた。
「ほら、早く注文しろよ」
「未成年にビールを勧めないでくださいよ。……俺はあんたの楽しむ顔を見れれば充分です」
「……へへ、そっか」
 侘助はビール、火藍はバイエルン州で採水されたというミネラルウォーターで乾杯した。
「わー! 見ろよ火藍! 路面電車が走ってるぞ!」
 バーの窓から外を見ると、ちょうど路面電車が通過するところだった。
「後で俺たちも乗ってみようぜ!」
「少し落ち着いてくださいよ。とりあえずゆっくり喉を潤わせる時間をください」
 火藍は、ミネラルウォーターを口に含み、味わった。
 水とはいえ、採水地、成分によってずいぶん味が異なるものである。
 いつも飲んでいるものとは明らかに違う。
 それは発泡性のミネラルウォーターで、口に含むと気持ちよくしゅわっとはじけた。
 火藍は、舌の上でドイツの自然を感じていた。
「あれ?」
 気がつくと、向かいに座っていたはずの侘助の姿がない。
「おーい火藍! ここでみやげ売ってるぞ!」
「……やれやれ」
 侘助の後を追っていくと、そこには数々のおみやげが並んでいた。
「おみやげも買って帰らないとな!」
「人に渡すんじゃなくて、自分みやげなんでしょうけどね」
 火藍の言葉の含み針は見事にスルーし、侘助は並ぶ品々を物色した。
「このあたりだと、どんなおみやげがいいんだ?」
「そうですね……どうやら木の置物や人形が人気らしいですよ」
「だったら、このくるみ割り人形どうだ? 可愛くない所が可愛いぞ!」
「意味が分かりませんが、くるみ割り人形はおみやげとしていいと思います」
 侘助は、くるみ割り人形を購入した。
 しばらくの間、この人形を使いたいがために、くるみばかり買ってくるのだろうなぁと火藍は予想した。
「しかし、いい街だよな。もっとたくさん観光の時間が欲しいぜ」
 店を出た侘助は、おみやげの包みを大切に抱えて、そう言った。
「なあ、また来年も来るか!」
「まぁ、いいですけどね」
 冷めたような返答をする火藍だが、本当はまた一緒に来たいと、心から思っていた。
「それにしても、いまはいまでたっぷり楽しまなくちゃな。ほら、行くぜ」
 侘助は火藍の手をとり、突然走り出した!
「ちょ、走らないでくださいよー!」
 二人は仲良く、ミュンヘンの街へと消えていった。



 ラルクはその頃、ワインを出す店に入っていた。
「なかなか品揃えが豊富だな」
 ワインリストを眺めて、ラルクはおおいに満足した。
 白、赤それぞれけっこうな種類が揃っている。
 それに加え、アイスワインと貴腐ワインといったデザートワインが豊富だ。
「ドイツといったらコレだよな」
 先にラルクが言った通り、ドイツのお酒といって最初に挙げられるのはビールだろう。
 だがワインも豊富にあり、特に糖度が高くて非常に甘いアイスワインや貴腐ワインがとても有名である。
 ラルクは、アイスワインを注文した。
 店員がすぐにグラスと、細いワインボトルをテーブルに持ってきた。
 ラルクが見ている目の前で、グラスにとろりとした液体が注がれる。
「プロースト」
 ラルクはグラスを目の高さまで持ち上げ、口をつけた。
 口の中いっぱいに甘さが広がる。
「すげぇな、アイスワインって!」
 思い立ったらすぐ行動。ラルクはがたりと立ち上がった。

 通行人に声をかけて情報を集めながら、ラルクはアイスワインを作っている場所へとやって来た。
 本来、畑でブドウを氷結させるアイスワインだが、最近は専用の冷凍庫を用いて作るのが一般的だという。
「おお、これがアイスワインになるのか!」
 醸造所の人が、アイスワイン用のブドウを一房、見せてくれた。
 赤みがかかった紫色をしたブドウは、思ったよりも小粒で、ラルクを驚かせた。
「一房からじゃ、数滴しかとれないだろうな」
 どのワインも、大量のブドウを使って作られるのだが、特にアイスワイン用のブドウは少なく、たくさん作ることは難しい。
 その一滴は、本当に貴重な、まさに黄金ともいえる一滴なのだ。
 見学を終えたラルクが、ワインを買って帰りたいことを申し出ると、醸造所の人が安く譲ってくれるという。
「こりゃラッキーだぜ」
 ラルクはアイスワインを二本買った。
「パラミタに戻るまで、残ってりゃいいんだけどな……」
 もしかしたら、今夜あたりなくなってしまうかもしれない。
 ラルクは、自分がこのワインを我慢できる自信が、まったくなかった。