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リアクション
白輝精
男装の吸血鬼ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)は、白輝精(はっきせい)に声をかけていた。
「そういえば君は、エリュシオンの吸血鬼じゃなかったかい? 吸血鬼の始祖について知らないかな?」
白輝精はみずからの、長大な蛇の下半身を示す。
「私って厳密に言うと、吸血鬼じゃなくてラミアなのよねー。
タシガンに伝わる吸血鬼の始祖なら、シャンバラで調べた方が知ってる人がいるんじゃない?」
「それが見つからないから聞いてるんだ……」
ベファーナが遠い目をしながら答える。
そこに雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)がやってきた。
「ごきげんようヘルローズ先生ぇ。うふふ、お久しぶりですわぁ。
デパートで会って以来ですわねぇ。相変わらずお美しい、美の秘訣はぁ?」
「あらぁ、そこは生きのいい……って、くぉら」
白輝精はリナリエッタに指をつきつける。
「ヘルローズ先生って、どこの誰の事かしら?」
そこにいきなり、能天気な高笑いと共に派手な男が現れた。
「はっはっは! そこの美しいお嬢さんたち、ホストカフェ『タシガンの薔薇』の薔薇に遊びに来ないかい?」
リナリエッタと白輝精は、彼を上から下へのまじまじと見た。
「……何やってんのよ、ヘル」
「ヘルじゃないよ。僕は通りすがりのカミーユですよ」
彼が出した名刺には、『ホスト あなたのカミーユ』とか書いてある。
「どう見てもヘルよねぇ」
「あんたも帝都で出稼ぎを始めたの?」
「ヘルじゃないってばー!」
二人からヘルだと言われて、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は、じたばたする。ちなみにカミーユはホストカフェでの源氏名だ。
リナリエッタはとりあえず名刺をポケットに入れる(後でイケメンを探しにいく為)と、白輝精に視線を戻す。
「私、どうしても神様に聞きたかったことがあるのよぉ。百合園で教師をしていて、楽しかった?」
「ええ、楽しかったわよ。可愛い女の子がいっぱいだったもの」
にっこりあっさり答える白輝精。ヘルは一人で大あわてだ。
「ちょっとー! なに、バラしちゃってるの?!」
白輝精はヘルに生ぬるい視線を向けた。
「今のヘルを見てたら、私が実は百合園美術教師ヘルローズでした……って今さら隠してるのも馬鹿らしくなって」
「ええええええ! バレないように必死にフォローした僕の立場って……」
「邪魔」
きっぱり言われて、ヘルは泣いたフリをしながら、お目付け役のユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)に取りすがった。
「うええええん、ユニお姉ちゃん、白輝精がいじめるよー!」
190cm近いヘルが、幼い外見のユニコルノに泣きつく姿はシュールだ。
「これ以上の発言は、皆様を混乱させて立場を悪くするもの思われます。お控えください」
ユニコルノに注意され、ヘルはいじけた。
鼻をすんすん鳴らしながら、心の支えである、携帯電話に収めた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)の写真を見ようとする。しかし、あいにくと待ち受けは、呼雪の書いたヘルの似顔絵になっていた。
……実に、芸術が大暴発している。
「………………」
ヘルは見なかった事にして、ぱたんと携帯を閉じた。
(ふふふ……天音が呼雪にウゲンの似顔絵を書いてもらうとか言ってたけど、『こんな未来怪獣、見たことない』とか言われちゃうぞ)
たそがれるヘルを放って、白輝精はリナリエッタの話を聞いていた。
「で、今度こそ、女王様をお茶会に誘いたいのよぉ。その時に百合園は綺麗な所だからいいですわね、って先生からも言ってほしくてぇ。神様に認められた百合園! ってなんか素敵。ふふ」
「言うのは全然かまわないわよ。でも女王陛下にそれを言える状況になるかしら?」
白輝精は首をひねる。リナリエッタは気になっていた事を尋ねる。
「ね、白輝精さんにとって、百合園はどういう場所だったのかなぁって……教えてくれません?」
「ずばり、癒し! だわね。だって、どこ見ても可愛い女の子や、カッコイイ女の子ばっかりなんだもの。……ただアイリスとラズィーヤの疑いの視線がちくちくしてたから、あんまりハメを外せなかったのよねー」
生徒の間では「ヘルローズ先生」は「一応、ちゃんと絵を書いていれば及第点をくれる」ゆるい授業をしていた教師という印象なのだが。