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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

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シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「ミーミル、来てくれてありがとう」
「私こそ、メイベルさんが誘ってくれて、嬉しかったです。歌のことはよく分かりませんけど、頑張りたいと思います」
 
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)の誘いを受けて一緒に歌うことになったミーミルが、ぐっ、と拳を握って意気込みを示す。
「それほど気負わなくても、ミーミルさんがこの一年、エリザベートさんと一緒に過ごしてきた中で感じたことを、歌にすればいいのですよ」
「そうそう、ボクたちもこの一年、メイベルと色んなことを経験したしね。
 歌うんだ、声が枯れるくらいに、精一杯の想いを込めて」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)の言葉に、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)も同じ想いを抱いて頷く。彼女たちが経験してきたことはこの一年数多あるだろうが、その中で思い浮かんだのは、契約者としての力を持たない、いわゆるごく普通の人たちと精霊とが一緒に仲良く暮らしていくことを決めた街のこと。
「イナテミスの街の方々にも、聴いてもらいたいですね。……あら? 私たちの出番が来たのでしょうか?」
 自分たちがいる控え室の扉が叩かれるのに気付いて、ヘリシャが応対に出る。
「ああ、済まないな、本番前の貴重な時間を邪魔してしまって」
「さ、サラ様!? それに、皆さんまで!?」
 驚きの声をあげるヘリシャに挨拶をして、サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)が部屋内に入ってくる。後ろには光輝と闇黒の精霊長、ケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)セイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)の姿もあった。
「実は、私たち五名もバンドユニットとして参加登録を済ませていたのだ。ちょうど今リハーサルを終えて、戻って来るところで君たちの名を見かけたのでな」
「そうだったんですか。……あの、イナテミスにも、今日の様子は届いていますか?」
 ヘリシャの問いに、ケイオースとセイランが答える。
「精霊塔の受信機能は、正常に機能しているのは確認してきた。ただ、距離があるからな。もし受信出来たとしても音だけの上に、音質までは保証出来ない。……済まない、もう少し時間があれば、設備を整えられたのだが」
 イナテミス――空京間は、およそ千キロの隔たりがある。街の中心にそびえる『イナテミス精霊塔』には基地局としての設備も備わっているが、果たしてその距離を越えて受信出来るかどうかは、不明瞭であった。数日前までニーズヘッグの脅威に晒されていたこともあり、十分な調整が出来なかったのだ。
「エリザベート様とアーデルハイト様には、配慮していただくようお伝えいたしましたわ。
 ……それに、皆さんが想いを込めて歌った歌は、イナテミスの皆さんの心にきっと届きますわ」
 想いを込めて届けた言葉は、いかなる距離をも超えてきっと届く。そんなセイランの言葉にヘリシャが勇気付けられたところで、再び扉が叩かれ、スタッフがメイベルたちのスタンバイをお願いする。
「私たちの出番ですね。では皆さん、行ってきます」
「ああ、私たちも微力ながら、応援している」
 部屋の前でサラたちと別れ、そしてメイベルとミーミル、セシリアとフィリッパ、ヘリシャはステージへと向かっていく。
 
「ミーミルさんは『聖少女』とのことですが、私の元には『当初は一種族として登録するつもりだった』との情報が寄せられています。
 何があって今のようになったのでしょうね?」
「えっと、そうなんですか?」

 エレンが、エレアの入手した情報を元に、ステージに上がったミーミルを弄りにかかる。だが無論、ミーミルがそのことを知る由もなければ、言葉の裏にある言葉通りではない感情にミーミルが気付くはずもなく、ただキョトンとするばかりであった。
「……それでは歌っていただきましょう。『希望の明日(あす)へ』、どうぞ!」
 ちょっと残念そうな顔をしつつ、紹介を終えたエレンが引き下がり、照明が落とされる。
 
(今年は精霊祭でメイベルさんたちと知り合い、契約し、イナテミスの街やその周辺で起きた事件を始めとして、色々と経験をしました。
 そんな中で自分が感じた事は、決して諦めず、希望をもって進むこと。
 メイベルさんやイナテミスの町の人々の姿を見て、そう感じました。
 ……だから私も、そんな想いを込めて歌います。希望を持って進める助けになるような、この歌で)
 
 最初にスポットライトを浴びた、ヘリシャの想い。
 
(色々な人たちがそれぞれの考え、想いの元に動き、激動の一年が過ぎ去り、また新しい年が始まろうとしています。
 皆で今年一年を過ごせた事に感謝し、来年が無事過ごせるよう、祈る。
 ……そんな人々の想いを感じつつ、歌いましょう)
 
 次にスポットライトに照らされた、フィリッパの想い。
 
(色々とあったけれど、ボクらは次へのステップを踏み出すために、この歌に希望と祈りを込めて歌うよ。
 これからも皆で頑張っていけるように。
 イナテミスのように、ボクたちもいつか、シャンバラを始めとするパラミタの人たちと地球の人たちが仲良く暮らせるようになる、そんな日が来ると思う。
 それを信じて、ボクらはこれからも人生という旅を続けようと思う)
 
 セシリアの想いが加わり、そして、同時に照らされたメイベルとミーミルの想いが重なる。
 
 ――ここまで一緒に歩んでくれた者たちへの感謝と、これからも一緒に乗り越えていこうと信じる想いを込めて――。
 
 今ドキドキしているよ
 今日から踏み出す第一歩が
 明日(あす)へと繋がる
 新しいストーリー
 
 この瞬間から始まる
 夢を求める大冒険
 希望にあふれた
 瞳を輝かせて
 飛んでいくよ
 
 つまずく事があっても
 すぐに立ち上がる!
 周りの目を気にせず一直線
 ためらったら
 チャンスを
 逃がしてしまう
 
 後悔なんていらない
 勇気をもって駆け抜けよう
 まだ見ぬ世界が待っているよ

 
 歌い終え、ゆっくりと頭を垂れる彼女たちへ、温かい拍手が送られる。
 
 涼司:9
 鋭峰:6
 コリマ:7
 アーデルハイト:8
 ハイナ:7
 静香:10
 
 合計:47
 
 
「私のインタビューに答えたいがために白組への参加、本当に感謝します。どうしても紅組の方が参加が多くて――」
「んー? だってルイが男だから白組にしたんだよー?」

 クロセルの言葉を遮って、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)がツッコミを入れる。
 ちなみにこの齟齬は、クロセルの元にはセラがヴォーカルを務めることが伝わっていたため、『男女混合のチームの場合、基本は歌い手の性別に応じた組に入る』ルールに照らし合わせて、二人がそれでもわざわざ白組で登録してくれたと思ったクロセルと、単にルイ・フリード(るい・ふりーど)がリーダーだから(セラの保護者という意味で)という理由で白組に登録した二人の認識の違いから生まれていた。
「そうでしたか。いや、紅白歌合戦に出場など初めてのことですから。
 ですがどちらにせよ、セラが今までの想いを込めた、そして自分で作った歌を歌い、私はセラの為に全力で支援する、そのことに変わりはありません! これが私達の生き方なのです!」

 クロセルの指摘に、恥じることなくルイが言い切る。
「……いや、これは失礼しました。既に熱い魂を感じさせるお二人に、これ以上のインタビューは不要でしょう。
 ぜひ観客の皆さんに、お二人の想いをぶつけてきてください! 『全力☆Life』、どうぞ!」

 こちらもちょっと残念そうな表情を浮かべつつ、クロセルが紹介を終えて引き下がり、二人が歌う準備に入る。
「セラ、己の想いすべて、ぶつけてきなさい!」
「うん! もちろんだよ!」
 ドラムセットの前に座り、スティックを握り締めたルイが、その体格からは予想外とも言うべき、丁寧かつゆっくりなテンポのメロディーを響かせる。
(ルイがセラの生き方を変えてくれたんだ。
 この歌合戦でセラがどれだけ感謝しているか、セラの世界観がどれだけ変わったか伝えたい!
 ……これまで確かに悲しい事もあったけど、一歩ずつでも前に進みたい、心も、身体も!)
 そのメロディーに身体の動きを合わせるセラが、マイクを口元に持っていき、最初の言葉を発する。
 
「さ、皆! これがセラの歌だよ!!」
 
 そして、二人のステージが始まる――。
 
 暗い暗い本棚(せかい)の中 私は過ごしていたんだ
 本(なかま)も居て 楽しく過ごしてた
 
 人が寄り付かない本棚(せかい)でも退屈しなかったんだ
 いつも隣には 必ず本(なかま)が居たから
 
 時が過ぎ 気が付けば手足を 心を そう身体があった
 動ける事への 戸惑いと高揚感 今も忘れない
 
 だから私は

 
 それまでのゆっくりなテンポから、ルイが身体を躍動させ、テンポを速める。
 バックバンドもそれに追随し、そこへセラの想いを込めた歌が重なる。
 
 止まらない 私が決めた事は 心の底から「楽しむのさ!」
 拓けた世界は こんなにも 眩しいのだから
 
 これから起こる あるかもしれない 未知の体験
 黙って見過ごす 私じゃない
 楽しい事は 待っていてくれない 自分の手で掴み取れぇぇ!

 
 サビを、声を大にして歌い切ったセラは、勢いのまま2番へと突っ走る。
 面と向かって言うには恥ずかしい、だけどセラのルイに伝えたい言葉を歌にして。
 
 出会いは唐突に 私の世界観を変えた
 目の前に現れた漢(おとこ)に どうしてか【興味】を持ってしまった
 
 理由(わけ)も無く 私は彼を 眺め続けて
 視線が交差し 私に笑った顔を 向けたんだ
 
 心が動き 惹かれ 予感がした
 「付いて行けば こことは違う 楽しい事が待っている」と
 
 だから私は

 
 セラの想いを受け取ったルイが、力強く、熱い演奏で応える。
 歌の最後のパートを、ルイとセラ、二人が全力で駆け抜ける。
 
 止まらない 私が決めた事は 心の底から「楽しむのさ!」
 拓けた世界は こんなにも 眩しいのだから
 
 これから起こる あるかもしれない 未知の体験
 黙って見過ごす 私じゃない
 楽しい事は 待っていてくれない 自分の手で掴み取れぇぇ!

 
 湧き起こる拍手と歓声に、ルイのドラム演奏をバックに、セラがもう一度自らの言葉で答える。
 
 世界は変わっていく 多くの出会いと別れを与え セラ達もいずれ
 だから今を全力で生き
 全力で自分という存在を世界に刻んでいくんだ
 この信念(いきかた)は 自分である誇り
 これがセラだよ! 生まれなんて関係ない、今このパラミタで生きる一つの存在さ!!

 
 実に多くの種族が存在するパラミタ大陸。
 生まれも育ちも生活習慣も、物の考え方すら違う彼らは、しかし一つの共通点で繋がっている。
 
 それは、彼ら全員が、このパラミタ大陸に生きる存在であること――。
 
 よろしくぅ!!
 
 拳を突き出し、かけがえのないただ一つの存在を主張するセラへ、割れんばかりの拍手と歓声がもたらされる。
 セラと共に、己の生き様を主張し切ったルイに対しても、同様の称賛が浴びせられた。
 
 涼司:10
 鋭峰:7
 コリマ:7
 アーデルハイト:9
 ハイナ:9
 静香:7
 
 合計:49
 
「おおっと、白組にも49点を叩き出したチームが出現しましたー!
 これはますます勝負の行方が面白くなってきました!」

 
 紅白歌合戦はこれからが本番である――。