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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【5】暗雲低迷……2


「供回りはキョンシーだったか。パイロンを疑っていたが、九龍とは無関係なのか……?」
 孤立した九龍を追うのは、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)
 万博で見たニルヴァーナの石の伝えた不吉なビジョン、その正体を見極めるため、クローラは探索隊に志願した。
 空飛ぶ箒ファルケを駆り、空から廃都を走る暗殺者を追う。
「目標捕捉。これより攻撃を開始する」
 九龍の頭上からサンダークラップの稲妻を放つ。
 瓦がけたたましく空に巻き上げられる中、敵は不意に跳躍、建物の壁を蹴りあげながら空まで駆け上った。
「犬は死ね……!」
 繰り出される鋭い足技を、クローラはミラージュで回避。
 反撃のパイロキネシスを放とうとする……が、九龍は身体を強引に捻り、体勢を変えると素早く印を切った。
 次の瞬間、外套から放たれた無数の護符が、クローラごと箒を切り刻んだ。
「くっ……!」
 箒を捨て、屋根に着地する彼に九龍が襲いかかる。
「させないよ!」
 相棒のセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)は如意棒を手に念ずる。伸びろ。
 高速で伸縮する棒でもって胸をひと突き。そのまま敵を出来るだけ遠くに押し出す。
「得体の知れない技を使う奴だね……。さっきの傷は大丈夫なのかい?」
「なに、かすり傷だ」
 その言葉に、セリオスはひとまず安堵した。
「まぁ下ろし立ての軍服が破れてしまったのが残念だが……コンロンの仕立屋でまた作ればいい」
「あ、その時は今の礼に何か名物でもおごってもらおうかな」
「……俺の命は一食分か。泣けてくるな」
 軽口を叩きながら、クローラ達は前方を警戒すると、如意棒の一撃も効いた様子なく九龍は立ち上がった。
 しかしふと、彼は明後日の方角を見、掌で正面に円を描いた。
 どういう原理なのかはわからないが、空中に護符がピタリと貼り付いている。
「五行結界。急急如律令」
 そう言った途端、銃弾の雨が降り注いだ。
「とっとと九ちゃんやっつけてコンロンの写生するんだから〜〜! 芸術のために早く倒れて〜〜〜!!」
 師王 アスカ(しおう・あすか)は興奮した様子で馬賊の銃を連発していた。
 暴走気味なのは纏った紫銀の魔鎧ホープ・アトマイス(ほーぷ・あとまいす)のせいだ。
 野望を増幅すると言うその効果により、コンロンの絵を描きたいと言う願望が暴走しているのだ。
そして、メルメルのヌードデッサンもするんだから〜〜!
 本人の了承も得てない放言に、おおーっ、と探索隊のメンバーも暴走しそうな勢い。
 ただ、先ほどから撃ってる弾は全部、九龍の生成した謎の結界に阻まれ当たってない気がする。
「はれ?」
 弾が尽きるのを見計らって、彼はアスカに凄まじい速さで接近した。
「わ、今の九ちゃんの構図すごくイカスかも〜!」
「言ってる場合か!」
 彼女の脇を蒼灯 鴉(そうひ・からす)が疾風の如く走り抜けた。
 元殺し屋の経歴に偽りなく身のこなしは九龍に匹敵する。
 2人の距離が縮まり……スキルの射程に入ったタイミングで、サイコキネシスで九龍を宙に張り付けた。
「!?」
「安心しろ、殺しはしねぇ。メルヴィアがおまえを尋問したいそうだ」
 毒を抜いたダガー・タランチュラを肩に突き立てる。引き抜くや、刃を返し今度は太ももを突き刺した。
「悪く思うなよ……!」
 行動不能になるよう、手足を狙ってダメージを与えていく。
「……同業者か。しかし、手緩い」
「がっ!?」
 九龍は無理矢理呪縛を解くや、人差し指を鴉の肩に突き刺した。
 錐のように鋭い指先を傷付けられた箇所に同じように刺していく。
「やめなさぁ〜い!」
 アスカはおもむろにコピー人形を投げた。人形はむくむくとアスカそっくりの姿になる。
必殺のアスカッドミサイルよ〜!
覇ッ!!
 鉄拳の閃き。発射2秒で人形の顔面を粉砕。
「きゃあああああっ! 女の子の顔を殴るなんて最低〜〜!!」
「!?」
 砕ける人形に紛れ、鴉を引き離すと去り際、パレットナイフで九龍のアキレス腱を断ち切った。
 機を逃さずセリオスは焔のフラワシを放った。しかし、敵は見鬼でフラワシを見破る……!
「それをすると思ったよ……!」
 なまじ見えてしまったが故にフラワシを避けるのに気をとられる。
 その間隙をクローラのカタクリズムが飲み込んだ。
「はあああああ……っ!!」
 念波が空間を押しつぶした。屋根は球状に圧縮され、巻き込まれた九龍は血反吐を漏らしながら、地面に落ちた。
 戦局を見守っていた大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は仲間を鼓舞するように叫ぶ。
「チャンス到来や! このまま一気に押し切ったるでぇ!」
 九龍のダメージは傍目にも甚大。片足を引きずり、先ほどの攻撃で折れた左腕をだらりと垂らしている。
 泰輔が天のいかづちを落とす中、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が懐に飛び込む。
 隠れ身は見鬼で解除されてしまったが、泰輔と息を合わせ、剣と稲妻による連撃ですこしづつ体力を奪っていく。
「もうその身体では戦いは困難でしょう。大人しく投降してください」
「頭に乗らんほうが身のためだ……!」
 ふと、見たこともない不思議な構えをとった。両手の爪を立て、獣の牙のような形を作る。
「まさかあれが、叶少尉の報告にあった……」
 後方から戦闘のタクトを握るフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)は戦慄した。
「レイチェル! その技は絶対に食らっちゃダメだ!」
「フランツさん……?」
 言われるがまま彼女は身を引き、九龍の繰り出した拳を紙一重で避ける。
 とその時、わずかにかすった拳が、薄紙を裂くが如く女王のバックラーを容易く引き裂いた。
 暗殺拳『黒楼館』の奥義『抜心』。素手で内臓を引きずり出すと言う恐るべき技だ。
「事前に報告がなかったら……」
 フランツは想像し……頭を振った。
 屋根に固定した機関銃をぐるんと旋回させ、やや上方を狙いつつ……弾幕援護を行う。
 後退するレイチェルと九龍とを隔てる空間に降り注ぐように、すこしでも拳の圏外に行けるように銃弾を降らせた。
「まったく物騒な技やな……、そいつで何人ものお偉いさんを始末してきたってわけか!」
 泰輔は言い放った。
「我らにあだなす連中には痛みをおしえねばならん。邪魔をするならどうなるか、をな」
「他の奴らをビビらすための見せしめか。陰湿な連中やで、ほんま……」
「ならば、関わらないことだ」
「ここまで突っ込んどいて今更、首を引っこ抜くわけにゃいかんやろ」
「では死ぬしかないな……!」
 銃弾を身に受けるのもものともせず、九龍は泰輔に襲いかかる。
 その時、フランツが叫んだ。
「今だ、顕仁を呼べ……ファイア!」
「来い、顕仁!」
 泰輔の召喚……と同時に悪魔讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が敵の背後をとった。
 振り替える間など与えるつもりはない。アルティマトゥーレの一閃で九龍の身体を氷付けにする。
「話を訊くなら舌が残れば十分じゃな」
 顕仁は目を細め、高周波ブレードを二度滑らせた。九龍の両腕がくるくると虚空を舞った。
「悪さをするこの手はいらんじゃろう?」
「……すこし見くびっていたようだ」
「なに?」
「同じシャンバラの犬は犬でも、椅子の上でふんぞり返る家犬ではなく、貴様らは猟犬だな……!」
「そなた……!」
 あわてて九龍の頭を覆うフードをあばいた。
 白日の下に晒されたのは、額に護符を貼った一体のキョンシー。
 見開いた目がぐるりとこちらを見る。
「残念だったな」
「ただの人間にしてはしぶといとは思うたが……、遠隔操作だと……!?」