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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【5】暗雲低迷……3


「やはりそう言うことだったのね……」
 確信を得たザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)は残る三名の供回りに目を向けた。
 昨晩、パイロンから譲ってもらった護符をサイコキネシスで彼らに放つ。
 不意を突いたその攻撃は二人に命中。電撃を流された囚人が如く、全身が反り返りそのまま動けなくなった。
 間髪入れずパイロキネシスで焼却し、二度と起き上がれぬよう念入りに焼き払う。
 しかし、残る一体は飛来する護符落とし、火炎も容易く回避してみせた。
そろそろ正体を見せなさい、九龍!
 断言すると、彼はふと姿勢を正し、額の護符を剥がした。
 漆黒だった外套が、みるみる真紅に変わり、九匹の龍がその上を這う。
 年は30半ばだろうか。短く刈り上げた髪に、恐ろしく冷たい目がザウザリアスの印象に残った。
「何故、わかった?」
「暗殺者が正攻法で戦うとは思えなかった……と言うのが理由かしら」
 ゆっくりと円を描くように彼女は距離を縮める。
それにあなたがその目立つ外套……、私たちが握っているあなたの外見に関する情報は『九龍の着ている外套』のことだけ。キョンシーに自分の服を着せ、自分はキョンシーに成りすませば、効果的に私たちの意表を突くことが出来る
 そして、私があなたならそうするわ、と付け加えた。
「なるほど。しかし、そこまで辿り着いたなら、こう考えるべきだったな。本当に敵は9人なのか、と」
 殺気を感じはっと上を見上げた。新手のキョンシーが建物の屋根から飛び、ザウザリアスに襲いかかる。
 念を収束させる彼女……しかし、それよりも早く後方から放たれた朱の飛沫が、敵を爆散させた。
「それは既に想定済みだ」
 冷たい風に銀髪をなびかせ、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が援軍に駆け付けた。
「『九龍』という名と8人の供回り、全ては分かりやすいイメージを作るための心理的な落とし穴に過ぎない。俺はずっと考えていた。何故、おまえ達が軍の捜査網をかいくぐることが出来たのか。答えはひとつ、実行犯が死体だからだ。現地で死体を調達し、現地で破棄すれば捜査網を突破する必要もない。おまえは常に網の外から死体を操っていたんだ
「犬のように鼻の利く男だ……」
「この廃都ならその方法で幾らでも手下を増やせる」
 そして……と続ける。
「おまえの狙いはウォンドだけではなく、あの怪物も目的ではないのか?」
 九龍の顔色が変わった。
「屍を使役するおまえだ。あの強力な怪物をしもべに出来ればと目論んでるのだろう」
 しかし、その推察を聞くと、彼の表情は元に戻った。
「奴とは因縁がある。使役する気などあるものか。奴はこの手で消滅させる……!」
「なに……?」
「さて、話にも飽きた。そろそろ死ね」
 不意に激しい揺れが辺りを襲った。
 その瞬間、大地が沈んだ。まるで底が抜けたかのように、次々と周囲の建物が地面に飲まれていく。
「何をしたの!?」
「おまえ達は知らんだろうが、この辺りには古い地下道がある。支柱を何本か潰せばこのとおり、容易く崩壊する」
 九龍は無表情で突き付ける。
おまえ達が俺を追い込んだのではない。俺がおまえ達を狩り場に誘い込んだのだ
「おのれ……!」
 レンとザウザリアスはなす術なく崩落に飲まれた。
 同様に九龍らを包囲するため、周囲に展開されていた残る探索隊も巻き込まれ、続々と壊滅に追い込まれていった。
「ば、馬鹿な。この私が一杯喰わされたと言うのか……!?」
 メルヴィアは次々に途絶える無線機からの声を前に茫然と立ち尽くした。
慢心はおまえだけではなく仲間も殺すことになるぞ
 パイロンの言葉が、今、彼女の胸に木霊する……。
「こ、この私が……!」




 続

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村象山です。
公開が遅くなってしまい、申し訳ございません。
また、本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございます。


始めに、ブライドオブヴァラーウォンドの表記に訂正があります。
ガイドではヴォラーウォンドとなっていましたが、正しくはヴァラーウォンドです。
誤字と言いますか、梅村が完全にヴォラーウォンドが正式名称だと思い込んでました。
名前から考察を進めて下さったプレイヤーの方には申し訳ないことをしてしまったと思います。
本当に申し訳ありません。

今回は前後編シナリオになります。
前編で後編の手がかりとなる情報をどの程度得られるかが、ポイントになったのでないかな、と思います。
実は今回で、シナリオの全貌を解き明かすことも可能だったのですが、幸か不幸かそのアクションはありませんでした。
意外と単純な行動でそれが可能だったので、マスター的には大丈夫かな……と若干心配だったと言う(笑
ただ、後半の手がかりとなる情報の八割は出ています。
ちょうどいい具合に全貌を推理する余地が残ったのではないでしょうか。

また、今回時間的余裕がなく、私信を送って下さった皆さんにお返事を送ることが出来ませんでした。
すみません……。
ただ、私信は楽しく読ませて頂いてますし、リアクションを書く上でとても励みになっています。
本当にありがとうございます!


次回シナリオガイドの公開日はまだ未定ですが、事前にマスターページで告知出来たらいいな、と思ってます。
告知するする詐欺になってきてるので、ハードルを自ら下げました。

追記(20111023)
文字タグのミスを修正しました。