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リアクション
第九章 襲来! 魔剣獣ギフトン!? 2
「フハハハ! 出たな、魔剣獣ギフトン!!」
高笑いをあげつつ、さりげなくルメンザの横まで後退するハデスと、それを守るように向き直るヘスティアたち。
そんな彼らを、狼は紅く輝く目で見回し……やがて、こう吼えた。
『我を「ギフト」と呼ぶか……ならば、我を手にするに足る者であることを示してみよ!』
……いや、本当、どうしてこうなった?
もちろんハデスの推理そのものは真相とは完全に明後日の方向からのアプローチではあるのだが、「ギフトの正体が高い戦闘能力と戦意を持った何者かである」という点では、見事に的中してしまっていたのである。
「すごいな、ギフトンは本当にいたんだ……!」
……いえ、男Cさん、それはさすがに違うと思います。
ともあれ、そうしてギフトン……もとい、「ギフト」が身を低くして戦闘態勢をとったのを戦闘開始の合図と認識して、男たちが「ギフト」めがけてトミーガンを乱射した。
「ギフト」がただの狼であれば、それで蜂の巣になるのは間違いない、はずだった。
何が起こったか、その場に誰か一人でも正確に把握できた者はいただろうか。
気がついた時には、男たちはまとめて吹っ飛ばされており、運悪くその真後ろに立っていたルメンザも巻き込まれていた。
「くっ! ならば、これならどうだ! ヘスティアっ!!」
「はい、博士! 魔剣獣ギフトンに対し、一斉射撃を行います!!」
ハデスの指示で、ヘスティアが六連ミサイルポッドを三つ一斉に全弾発射する。
合計十八発ものミサイルを……しかし、「ギフト」は黙ってギリギリまで引きつけた後、文字通り「目にも留まらぬ」動きであっさりと全弾を回避する!
『……その程度か?』
あざ笑うかのような「ギフト」の言葉に、ハデスは不敵に笑い返した。
「やはり魔剣獣ギフトンには、この程度の攻撃は効かぬか……こうなったら、もはや新兵器を出し惜しみしている場合ではないな!」
そう、ハデスの切り札はただのミサイルではない、というか、そんなものであるはずがない。
「変形せよ、カリバーン!」
「ああ、悪の大魔獣を倒すのは勇者たる俺の役目だ!」
その言葉とともに、カリバーンが人型から剣型に変わり……だが、今回はそれで終わりではない。
「チェンジ! キャノンモード!!」
剣の先端が割れて銃口が現れ、柄の部分が90度近く折れ曲がって銃把となる。
そして、その巨大な大砲が、ヘスティアの背中の追加武装ユニットにジョイントされる。
「これぞ新兵器! 聖砲カリバーン・キャノンだ!」
その巨大な大砲が、目の前にたたずむ白銀の狼に狙いを定め。
「やれ、ヘスティア! カリバーン!!」
「はいっ!!」
銃口から、何物をも貫く閃光が放たれた。
「くらえ! 必殺・カリバーンビーム!!」
……とまあ、「変形・変身中、及び必殺技の演出中は攻撃しない」というお約束に従って、そんな長々としたやり取りを黙って見守る程度の情けが「ギフト」にもあったのだが。
その理由の一端は、「別に撃たれても避けられる」という確信があったからに他ならない。
当然のごとく、必殺のカリバーンビームはあっさり避けられ、遥か彼方の壁に大穴を空けたに留まり。
撃ち終わりを狙って飛び込んできた「ギフト」の超高速カウンターによって、その場に倒れ伏したのはヘスティアの方だった。
『当たらなければ、どうということはない』
何でもないことのようにそう言い放ち、冷たい目でハデスを見つめる「ギフト」。
その背後では、「ギフト」の体当たりをくらって気絶したままの男たちを押しのけ、どうにか体勢を立て直したルメンザがことの成り行きを見守っていた。
彼の右手はすでに懐のデザートイーグルに触れてはいたが、「撃ったところで当たらない」、そして「当たったところで一、二発ではどうにもならない」という確信めいたものが、それを取り出すことをためらわせていたのだった。
ちょうどそのタイミングで、本隊がその場に到着した、というわけなのだが。
……おわかり、いただけただろうか。
つまり、最初に彼らが聞いた爆音はヘスティアのミサイルの音であり、次に見た謎の光線はカリバーンビームだったのである。
要するに……彼らが「まさか、これが『ギフト』か」と思ったものは、実はどちらも「ギフト」ではなく、単なる「オリュンポスの仕業」だったのだ。
当然、本隊の一行が走りながら懸命に行っていた「強大な火力を持つ相手といかにして戦うか?」というシミュレーションも、残念ながら全く無意味である。
「……御雷」
その声に、ハデスがびくりとして振り返る。
「あんたが何をしようと勝手だけどね」
声の主は、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)。ドクター・ハデスこと高天原御雷の実の姉である。
「あたしの調査の邪魔をするなら……」
「ち、違う! 俺はニルヴァーナ八神獣の一体、魔剣獣ギフトンを倒そうと……!!」
必死に自説を展開するハデスであるが、あいにく鈿女はそういったトンデモ説にはさっぱり興味がないらしい。
「……判ってるのよね?」
静かに親指を下に向けて、鈿女はきっぱりとそう言った。
「ま、待った! そ、そうだ、ヘスティア、カリバーン! 俺を助けろっ!!」
慌てて部下たちに助けを求めるハデスだが、あいにくヘスティアはまだ気絶したまま起き上がってこない。
「問答無用」
かくして、ハデスは鈿女に襟首を掴まれ、そのままどこかへ引きずられて行ってしまったのであった。
合掌。