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リアクション
第十章 そして、手にしたもの 1
二人が去ってしまうと、「ギフト」はおもむろに口を開いた。
『……茶番はもう済んだか?』
なんだかんだで、こういう時はちゃんと待ってくれる「ギフト」。
実は結構空気の読めるいいやつなのかもしれない。
「ええ、ですがまずは一つ確認させてください。このシェルターに眠る『ギフト』というのは、キミのことですか?」
そう尋ねたのは東 朱鷺(あずま・とき)。
それに対して、「ギフト」は一度頷いた。
『そう呼ばれることもある。そして我は、我をそう呼ぶ者に返す言葉を一つしか持ち合わせてはおらぬ』
「……その言葉とは?」
『我を手にしたいと望むならば、それに見合った力があることを示してみせよ、だ』
そこへ、魔鎧状態の清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)を纏った詩穂が割って入る。
「待って! 今、この世界は大変なことになっているの!」
『だろうな。だからこそ、我が力を求めたのであろう』
この「ギフト」にいかなる想いが込められているのか、触れられぬ今はわからない。
だが、少なくとも言葉を話せ、また理解できるのであれば、説得は可能なのではないだろうか?
そう考えてもみたのだが、残念ながら取りつく島もなかった。
『なればこそ、我と我が力はふさわしき者にこそ与えられねばならぬ』
淡々とそう答えると、「ギフト」は荒々しい声で一声吠えた。
『戦わぬ者は下がれ! 我と戦う意欲のある者のみ前に出よ! 我はこの爪牙をもってそれに応えよう!!』
その言葉に、戦う意欲と能力のある者のみが前に出て……そのうちの一人、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)がこう言った。
「……あ、もう少しだけ待ってくれるか?」
『よかろう』
「ありがとな」
「ギフト」の了解をとって、パートナーの龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)を呼び。
「久々にいくぞ! 変身だ!」
「ええ! カード・インストール!」
そのかけ声とともに、灯の姿が鎧へと変わり、牙竜と一つになる。
「ケンリュウガー、剛臨!!」
そのかけ声とともに、牙竜改めケンリュウガーの背後で爆炎が上がった。
もちろん、灯が演出のために火術で起こしたものである……のだが。
(……あー!)
いきなり頭の中に飛び込んできた灯の叫び声に、ケンリュウガー……いや、牙竜は驚いてこう聞き返した。
(どうした!?)
(すっかり忘れてました……私、これやると服が脱げるんでしたー!)
(……あ)
それを聞いて、ようやく牙竜も事態が飲み込めた。
脱げた服が普通どこに行くかと言えば、当然足元に落ちるに決まっている。
けれどもその足元は、ついさっきちょうど灯が火術で爆炎を起こした辺りである。
(燃えてしまいましたよね……着替え、どうしましょう!?)
(どうしましょうと言われても……そういや、さっきの地下二階が商業施設だし、服くらいあるんじゃないか?)
(あ、それもそうですね! では、帰りに必ず取りに行きましょう!)
こうして、この騒動はことなきを得た……かに思われたのだが。
すでにここまでお読みの方ならお分かりであろう。
あの衣料品店には、すでに「ある大事なもの」が一つも残っていない、ということに。
もっとも、それが問題となるのは、もうしばらく先の話であるが。
ともあれ。
変身するのは、別にケンリュウガーの専売特許と言うわけではない。
「おおっ! 師匠、あたしたちもいこうぜ!」
「うむ!」
奈津がマスクをかぶり、その次の瞬間、バロンが大きくマントを翻す。
その一瞬の間に、奈津の姿は制服姿からリングコスチューム姿へと変わっていた。
ちなみにこちらは服が脱げたりしない。その辺りはやはり個人差なのである。
そして、最後は八重である。
「ブレイズアップ! メタモルフォーゼ!!」
その声とともに、服が、髪が、そして瞳が紅に染まる。
それと同時に、心の内にも熱い炎が燃え上がる。
「紅の魔法少女参上! その試練、私たちの力で必ず乗り越えてみせます!」