校長室
【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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■ 宝くじで得たものは ■ 2018年――。 相田家は未曾有の幸運にみまわれていた。 どうせ当たらないだろうと言いつつも、望みを託して買った宝くじ。 それが見事、当たったのだ。 当然家族は舞い上がった。 当選金の使い道をどうしようかと連日相談を重ねるうちに、なかなか行けない場所に旅行してみてはという意見が出た。 子供はいつか巣立つから、いつまでも今の家族ではいられない。 だったらこの機会に、みんなで一生の思い出になるような家族旅行に出掛けよう。 そして相田家は、小型結界装置をレンタルし、なかなか行けない場所……パラミタへとやってきたのだった。 「おかしいなぁ……」 家族と一緒にパラミタ見物を楽しんでいた相田 なぶら(あいだ・なぶら)は、いつのまにか1人はぐれ、森の中へと迷い込んでいた。 パラミタは危険なことも多いと聞いている。こんなところに入ってしまうのは、かなりまずいことだろう。家族も心配しているだろうし、早くここを出なくては。 けれど、森を出ようと歩けば歩くほど、森の奥深くに入り込んでいるようだ。 深い森に、そこにある何かに呼ばれているかのように。 その先になぶらが見いだしたものは――。 「何だぁ!?」 燃え上がる炎だった。 そしてその中に横たわる人影。 「火事……山火事だぁ」 なぶらは慌てた。 山火事に巻き込まれて倒れている人がいる。生きているかどうか確かめなければ! 一刻も停止することなく揺らぎ燃える炎に、なぶらは近づいていった。 「近づくんじゃねぇ!」 不意に聞こえたその声を、なぶらは炎の中の人影のものだと勘違いした。 「生きてる……!」 助けなければ。 なぶらは鞄に潜ませていたポータブル消火器を取り出すと、炎へ噴射した。 「ギャーーーーーー!」 炎からは、まるで悲鳴のような不思議な音が響いた。 ■ ■ ■ その場面をなぶらと一緒に、龍杜の水盤の中に見ていたカレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)は、苦い顔つきになった。 「あぁ、今でも鮮明に覚えているぜこの場面……」 この時悲鳴をあげたのは、実はカレンだった。 炎熱の精霊であるカレンは、封印されているフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)を守っていたのだ。最初に、フィアナに近づこうとするなぶらに近づくんじゃねぇと警告したのも、カレンだった。 脅して追い返してやろうと思っていたのに、逆にそいつは近づいてきて、白いものを吹きかけてきた。 驚いたカレンは、悲鳴をあげて逃げていってしまったのだ。 「普通、火事だったら消火器を使うだろ」 「火事じゃねえ!」 カレンは大声をあげてから、龍杜 那由他(たつもり・なゆた)がこちらを見ているのに気付き、慌てて顔を伏せた。 ■ ■ ■ 炎が消え去った……逃げ去ったようにも見えたが、きっと気のせいだろう……のを見て、なぶらは手の中の消火器を眺めた。 「ポータブルの癖に消火器凄いじゃん!」 シュッと一吹きで人を包んでいた炎を消すほどの威力があるのかと感動した後、こうしてはいられないと倒れている人影に駆け寄った。 倒れていたのは銀髪の女性だった。 「翼がある……パラミタの種族かな」 炎に包まれていたにもかかわらず、纏っている服も髪の毛一筋も焦げていない。 不思議に思っているうちに、封印を守っていたカレンがいなくなったことにより、女性は眠りから覚めるように自然に目を開いた。 「大丈夫か?」 呼びかけたなぶらに女性は視線を合わせ、そして言った。 「……朝ごはんですか?」 「……………………もうとっくに朝ご飯の時間は終わってる」 「それは残念です」 封印から覚めたばかりでぼんやりした状態になっている女性は、つくづく残念そうなため息をついた。 何だか妙なものを助けてしまったのかと思ったが、少しすると女性はしっかり目を覚ました。 きちんと自分の名をフィアナであると名乗り、長い間封印されていたこと等を説明する彼女にはおかしなところはない。どうやらさっきのは寝ぼけていただけらしいとなぶらは安堵する。パラミタに来て、森で迷子になった上に妙なものと関わり合いになりました、では洒落にならないというものだ。、 なぶらの方も自分が地球から旅行に来ていること、この森に迷い込んできたこと等をフィアナに話した。 「地球から……ということは、パラミタは再び地球と繋がったんですね……」 なぶらの話にそう呟いた後、ふとフィアナは周囲を見渡した。 「私の近くに、赤髪の小さくて可愛い女の子はいませんでしたか? カレンという名前なのですけれど……」 「誰も見かけなかったけどなあ」 自分が山火事だと思った炎こそがカレンなのだとは知らず、なぶらは首を振った。 「私を守っていてくれたはずなのに、一体何処にいってしまったんでしょう」 不安そうなフィアナを見かねて、なぶらは周囲を探すことにした――。 ――そうして自分を捜し回るフィアナを、カレンは物陰から見つめていた。 すぐにでもフィアナの傍に行きたい。けれど、ずっとくっついているあの男が邪魔だ。 極度の対人恐怖症であり恥ずかしがり屋であるカレンは、どうしてもなぶらに近づくことが出来ない。フィアナのことは気になるけれど、こうして影から見守ることしか出来ないのが、歯がゆかった――。 そんなカレンの葛藤も知らず、なぶらはフィアナと共に周囲を歩き回った。 「うわ……もしかしてこれがカレン、だったり……しないよな?」 禍々しい剣に貫かれた白骨死体を発見し、なぶらは唸った。 「何か目印があるなら、俺が探してみるから」 確認させるのは酷だと思ってそう言ったのだが、フィアナは自分で確認したいからと白骨の上にかがみ込んだ。 骨に絡みついて残っている衣類の切れ端。それを見た途端、フィアナは小刻みに震え始めた。 「やっぱりこれがカレンか」 「違います、これは……」 父様、と呟いてフィアナは両手で顔を覆った。 父の白骨との対面にショックを受けているフィアナをどう慰めて良いのか分からず、なぶらはただその背を見守り続けた。 しばらくするとフィアナは落ち着いたが、状況を受け入れられたのではなく、虚脱に陥ってしまっただけのようだ。 父を失った悲しみに加え、唯一の従者であるカレンも行方知れず。 どうしたら良いのか、何も考えられなくなり、フィアナはただその場に立ち尽くしている。 偶然とは言え繋がった縁、このまま彼女を放ってはおく訳にはいかないだろう。 「取り敢えず行くあてが決まるまで、家に来ない?」 「あなたの家に、ですか?」 「ああ。ちょうど家族ごとこっちに来てるから、すぐに紹介できる」 「そうさせていただければ助かりますが……」 迷惑なのではと心配するフィアナに、なぶらは平気だと請け合った。 「いいっていいって。困ってる人を放置したら、そっちのほうが怒られるし」 「では……よろしくお願いします」 フィアナは有り難くなぶらの申し出を受け、そして自分からも提案する。 「このこともそうですが、封印を解いてくれた恩もあります。もしよろしければ、私と契約を結びませんか? そうすれば少なからず何かの力にはなれる時が来るでしょう」 今のフィアナにとって、それがなぶらに出来る最大の感謝の印だった。 「契約かあ……」 普通の学生だったなぶらにとって、自分が契約者になるなんてこれまで考えてもみなかった。 けれど……。 契約者となれば、新しい未来が開ける。今まで諦めていた夢の勇者を目指すことだって可能になる。 「分かった。契約しよう」 なぶらはフィアナの提案を受け入れ……2人はパートナーとして契約を結んだのだった。 ■ ■ ■ 「あの後、お前とフィアナ様、地球に行っちまったんだよな……。後追うのめちゃくちゃ大変だったんだぜ」 カレンは恨みを込めた視線をなぶらに送った。 自分が見守るしか出来ないうちに、フィアナはどこの馬の骨とも知らない地球人と契約を結んでしまうし、どこかに行ってしまうしで、あの頃はかなり凹んでいたのだ。 「ですが私は、あの時何も考えられなくなっていましたから……なぶらの提案は本当に有り難かったのですよ」 フィアナがカレンを取りなすように言う。 「相田家の方々にも本当にお世話になりましたし……この恩、正直返しきれるかわかりませんね……」 普段フィアナはそんなことを口に出して言ったりしないけれど、こんな機会くらいは良いだろう。 改めて全体を見通した出会いの時。 その巡り合わせを心から嬉しく思える、こんな機会のときだけは。