校長室
【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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■ 出会いは突然に ■ 「大助が生まれてもうすぐ1年になるんだな……」 長かったような短かったような、と柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)は真田 大助(さなだ・たいすけ)を見やった。 「あぅ、もう1年も経つんですか……」 それを生まれたと言ってしまっていいものかどうか、大助にもよく分からないが、大助が氷藍と真田 幸村(さなだ・ゆきむら)のもとへとやってきてから、1年が経とうとしている。 「龍杜で過去見をしてくれるらしいから、折角だから生まれたときのことを思い返してみるか?」 そう大助に言ってから、氷藍は幸村を振り仰ぐ。 「そうだ幸村、俺とお前の出会いも思い返してみないか? あん時のお前、今とは全然違うけどな。随分と衝撃的な出会いだったよなぁ、お前にとっては尚更さ」 「……俺には色々と小恥ずかしい思い出でしかないのですが……!」 さすがに直視しかねるとひるむ幸村を氷藍は笑い飛ばす。 「なぁに、そんな大変なところとかは俺もはっきり覚えてないし、大丈夫だろ♪」 これも記念だと、氷藍は幸村と大助を伴い、龍杜を訪れた。 ■ ■ ■ 2022年夏――。 無理矢理に幸村を襲撃した氷藍は、彼にはその事実をはぐらかしたまま、いつ子供が産まれるかと楽しみにしていた。 その日の蒼空大社はちょうど皆が出払っていて、残っているのは氷藍1人だった。 いつもと同じように行動していた氷藍は、不意に眩暈に襲われた。 もとより身体は丈夫な氷藍のこと。少し休めばすぐに収まるだろうとたかをくくっていたのだが、この時はそうはいかなかった。 眩暈は一層ひどくなり、氷藍は自室でぶっ倒れてしまった――。 大助は目を開けた。 大きなタライに満たされた産湯が、ちょうど良い温かさで大助を包んでくれている。 「あぅ……」 タライから出ると、ぽたぽたとお湯をしたたらせながら、あちこち歩き回る。 途中で適当な着物を拝借して羽織ると、大助はよたよたと蒼空大社を歩き回った。 まずは台所を物色し、何かおいしいものはないかとあちこち散らかして探す。 物入れがあれば何が入っているのかとかき回し、たんすの引き出しを階段代わりにして上によじのぼる。 大助が通った後は、何もかもが引っ張り出され、ひっくり返され、まるで家の中を嵐が吹き荒れたかのような惨状を呈している。 でてきた様々なものを、ちらっと見ては放り投げて遊んでいた大助は、ふと写真の前で足を止めた。 写真に写っているのは、幸村と氷藍だ。仲睦まじい様子の写真をじっと眺めたあと、大助は呟く。 「ちちうえ、ははうえ」 それは大助がはじめて口にした、意味ある言葉だった。 写真を見た大助は、早く2人に会いたいという気持ちが募った。 こけつまろびつ、蒼空大社内を走り回って2人の姿を求め、やっと自室で倒れ伏している氷藍を発見した。 「ははうえ、ははうえ……」 大助に揺り動かされ、氷藍は目を覚ました。 「な、なんだ?」 目の前にいる幸村にそっくりな子供の姿に、さすがの氷藍も目を白黒させる。 けれど自分を母上と呼んでくれる子供に、氷藍はすっかりめろめろになってしまい、しばらくして帰宅した幸村に、 「俺とお前の子供だ!」 と満面の笑みで紹介した。 幸村は大混乱に陥りはしたけれど、自分を無心に慕ってくる子供が可愛くないはずもない。 本当に大助が2人の息子なのかは不明だが、それでもこれは自分の息子だと受け入れ、生前の息子だった『大助』の名を与えたのだった。 ■ ■ ■ 氷藍と幸村との出会いはそれよりずっと前のこと。 氷藍は親に内緒で冬の山中でこっそりと遊んでいた。 危ないからと止められても、否、止められるからこそ山は興味の宝庫であり、絶好の遊び場だった。 その途中、誰かに呼ばれたような気がして、普段は入らない山奥にまで恐る恐る足を踏み入れた……のが、幸村との出会いのきっかけだった。 山を進んでいった氷藍は、そこで大木にもたれかかり、死んだように眠っている男……幸村を見付けた。 「おい、なんでこんなところで眠ってるんだ?」 呼びかけてみても幸村は目を覚まさない。 どうすれば良いのか、氷藍は懸命に考えた。 (えっと、おかーさんは俺を起こすとき、どうやってたっけ……) 同じようにすれば間違いないだろうと、氷藍は母親が自分を起こすときにいつもやっている方法をとってみることにした。 幸村の上にかがみ込み……口づける。 唇に触れる感覚に幸村が目を開けたときには、もうすでに契約が結ばれていた。 「なっ……!」 己の唇に手を触れ、一瞬愕然とした幸村だったが、すぐに怒りも露わに立ち上がる。 「こやつ、なんという事を……!」 殺してやるとばかりに刀を手に、幸村は氷藍に斬りつけた。 が。 「お、元気になったな」 氷藍は嬉しそうに跳ねてそれをかわすと、身軽に走り出す。 「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ」 「誰が鬼ごっこをすると言った!」 「こっちこっちー!」 遊び相手が出来たことに喜んで、氷藍は手を叩いた。 幸村もむきになってそれを追う。 深い山の奥で、時ならぬ鬼ごっこが開始された。 契約者となったことで、氷藍の身体能力は格段にアップしている。 疲れを知らず、楽々と山を駆けては幸村をからかった。 幸村はといえば、先ほどまで死を覚悟して眠っていたほどに疲れ切っている。その上空腹ときては、子供の体力に敵うすべもない。 すぐに肩で息を始め、もつれた足を木の根にひっかけて倒れた。 「どーした?」 幸村が倒れたのを見ると、氷藍は急いで戻ってきた。 「腹が減ったのか? だったらこれを食え」 昼ご飯にと持ってきたおにぎりを、氷藍は幸村につきつけた。 おにぎりを食べて少し休むと、幸村の身体も随分回復した。 「もう大丈夫か?」 「ああ……」 殺そうとした相手におにぎりを恵んでもらっていては世話はない。 空腹は収まったものの、幸村がぐったりした気分でいると、その態度をどう思ったのか氷藍は胸を張って豪語した。 「おにーちゃんはほっとけないから、俺が守ってやる!」 「おまえ……」 その先を継げぬぐらい幸村は呆れたが、氷藍は至って本気らしい。 「……母親の顔が見てみたい」 思わず幸村がぼやくと、 「だったらうちに行こう!」 その意味をまっすぐに取って、氷藍はさあさあと幸村を自分の家へと促したのだった。 この後幸村は、氷藍の母親を見てまた驚かされることとなる。 まこと、出会いは不思議な縁のなせるわざ――。