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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

リアクション

 十数人がかりで強力スキルを使いつつも、相手はあくまでイレイザーである。
 イコン数機並みと言われるその強さと頑強さは、なかなか決定的なクマードスーツ破壊の糸口を掴ませてくれない。

「愛だねぇ〜、愛……みんなの一撃一撃に〜、クマチャンを救おうという愛が溢れているねぇ〜、そう思わないかいセリス〜。フォウ!」

 クマチャンを取り囲んでリンチ状態のダークサイズを見ながら、マイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)はむしろ感動してムーンウォークをする。
 愛ゆえに戦うのだと言うマイキーの持論を聞かされるが、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)はほとんど聞く耳を持たず、

「マグマイレイザーとはろくに戦えなかったからな……味方が憑依されたとはいえ、今日こそイレイザーに止めを刺すのは俺だ」

 セリスは【双龍箒【炎烈翼】】を構え、【龍鱗化】で防御力を大幅に上げる。
 マイキーの頭上にはマネキ・ング(まねき・んぐ)が乗っかっていて、

「なるほどのう、あれがお前たちの言う、イレイザー・クマか。確かに濃厚な闇のオーラに包まれ、その強さ凶暴さ共にイレイザー並みもしくは、それを上回ると。ふむ、あの者たちでは心もとないのは確かだ。どうやら、いよいよ我々の出番のようだな……」

 と、強力な助っ人の登場かと思わせるが、言っているのが陶器質の招き猫なものだから、どうにも説得力がない。
 マイキーは【極上の花束】を鼻に当ててその香りを胸一杯に吸い込んだ後、

「ヘェ〜イ、クマチャン〜、いやイレイザー・クマ。ボクらは君を傷めつけなければならないけどぉ〜、それは愛の形なのさぁ〜。その証にボクの花束を贈っておくよぉ〜」

 と、くるくるとスピンをして花束を華麗に投げる。
 花弁を振りまきながら、イレイザー・クマの方へ舞い飛ぶ【極上の花束】。

ずん!

 その花を、後ろから飛んできた大きな岩の塊が無残に踏みつぶす。

「アッハハハハハ! イエスマイロード、アルコリア様! お見事ですわ。試し撃ちは命中ですわあー!」

 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)の声が聞こえてセリスたちが振り返る。
 【ヘルハウンドの群れ】を周囲に従えその中央には【アルキメデスの投石機】が空母のように鎮座し、ちょっとした艦隊のような布陣で、投石機の上にアルコリア、ナコト、そしてラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)が乗っている。

「オーゴッド! ボクの花束を無慈悲に潰すなんて〜、いびつな愛だねぇ〜」

 と、マイキーが肩をすくめる。

「がおー、くまちゃん、かくごしろー。テロ・フナーレ」

 アルコリアは、毎度のごとく圧倒的な火力を用いて、近接で戦っているメンバーに全く気を使うことなく、対イコン用の攻城兵器から巨石を飛ばす。
 一方、マイキーの上のマネキが、

「間に合ったようだな。バルチック艦隊ならぬ、我がマネチック艦隊が」

 と言うのを、そんな作戦など聞いていないセリスが、ングを見上げる。

「な! あいつらはマネキが呼び寄せた部隊なのか!?」
「セリスよ、まだまだ我の事が分かっておらぬようだな」
「お前にそんな人脈と能力があったなんて……」

 マネキは胸を張り、

「我はマネキ・ング! 奇跡と偶然と偶然を起こすものだ」
「おい待て、偶然て! やっぱあいつら、たまたま通りかかっただけなんじゃないか!」
「分かっておらぬなセリス。まぐれを招き寄せるのも、我の力のうちなのだよ! 招き猫とは違うのだよ、招き猫とは!」
「同じだよ!」

 そんなセリスのツッコミも、投石機の騎馬の足音と車輪の音にかき消されそうになる。

「ポウ! ボクだってクマチャンに愛の鉄槌を落として、目を覚まさせてあげなきゃいけないからねぇ〜。先は越させないよぉ〜」

 と、マイキーはアルコリアたちに抜かされまいと、イレイザー・クマの方へ進んでゆく。
 何だかスピードの遅い徒競争のようになり、マイキーが投石機の前をリードして進む。
 マネキもマネキで、

「マネキ・ングが命ずる! 攻城兵器を以て、見事イレイザー・クマを駆逐してみせよ!」

 などと、すっかりアルコリア達を先導する指揮官の気分になっている。
 しかし、マイキーはムーンウォークとターンをやたらと繰り返しながら前進するので、

「パウ! アウ!」

 とかシャウトしている間に投石機が迫り、帽子を目深にして左手を股間に当てて右手を天に向かって指し、ピタリと止まってみせた所で、

「フォオオオォゥゥゥ……」

 と長めのシャウトと共に、車輪に轢かれていった。
 セリスは後に残った轍とつぶれたマイキーとマネキを見ながら少し考え、

「……あ、そうだ。こいつらはバカなんだった。そうだったそうだった」

 と呟きながら、急いでイレイザー・クマの討伐へと、独りで合流していった。

「おかしいな。誰も雷撃を使ってないはずなのに、どうして電撃がほとばしっているのだろう」

 シーマは、ナコトが【召喚獣:サンダーバード】を暴れさせているのに気付かず、首ばかり捻り、とりあえず近接の味方に【対電フィールド】を張ってまわる。
 さらに、周りにアルコリアが飛ばす巨石が落ちてくるのを見て、

「おかしいな、どうして岩が降ってくるのだろう。それにしても、ボクのパーティメンバーはどこで油を売っているのだ、まったく……」

 と首をひねりつつ、後ろで広域攻撃を展開するアルコリアたちに気づかず、文句を言っている。
 シーマ以外の者たちは、自分の周りに岩や雷撃を落としまくる犯人にとっくに気づいていて、

「あんたー! 危ないでしょうがー!」
「おいフィレ! 雷撃食らってクマードスーツーがショートしたぞ!?」
「じゃあ退避でございますですー」
「味方に殺されそうなんですけどー!」

 アルコリアの参戦で、味方が一気にパニック状態になる。
 ナコトは【超生命体】から【演説】を引きだして、

「偉大なる魔道書ナコト・オールドワンが主、アルコリア様の御親征である! 命ある者は須らくこうべを垂れよ! もしくは死にさらせ!」

 と、無茶苦茶なことを言って、味方への配慮など微塵も感じさせない。
 ラズンはいかにもやる気がなさそうに、

「説明しよう。【アルキメデスの投石機】とは、岩とか瓦礫をガゴンガゴンやるやつなのだ」

 と、一応解説者のような体を取っている。
 イレイザー・クマも、攻城兵器の参戦に気づき、皆が岩を避けた隙に投石機へ走る。

「し、しまった!」
「足を使わせるな!」

 皆の制止を振り切り、イレイザー・クマは投石機の上のアルコリアを狙って跳びあがろうとする。
 が、その瞬間、

ガギン

 と音を立てて、踏み込んだ右足パーツに大きなヒビが入って割れた。

「よかった! ダメージの蓄積は、ちゃんとあったのですね!」

 ベアトリーチェが安堵の声を上げる。
 けがをした時に血液が巡るように、割れて欠損した右足部位に黒い霧が流れ込んで、クマードスーツをカバーする。
 まだクマチャンの生身の肉体は見えない。
 イレイザー・クマは代わって左足を踏み込んで、アルコリア目がけて跳び上がった。
 対するアルコリアは【●式神の術】を用いて【深海のレガイア】を式神化し、ラズンを魔鎧化して纏う。
 式神から無数の手が伸び、イレイザー・クマの四肢を掴む。

「しんそくのいあいを、うけてみろー」

 アルコリアは【八丁念仏】を抜き放つと、容赦なく、本当に容赦なく、イレイザー・クマのボディに【マジックブラスト】【機晶ビーム】をかまし、

「かっこいいから」

 と、特に意味もなく八卦の陣状に刀を走らせ、【放電実験】。


めちゃくちゃである。


 高レベルスキルを、固定された状態で全てボディに食らったイレイザー・クマは、綺麗に吹き飛んで地面にたたきつけられた。

「チャーンス!」

 これに便乗した祥子が、溜めに溜めておいた【龍飛翔突】と【死刑宣告】の連続技を、同じくイレイザー・クマの上半身全体を目がけてぶっ放す。
 右足に続いて、ようやく胴部分が破壊された。
 【狂血の黒影爪】の霧は胴部分も覆う。
 装甲を破壊しても、イレイザー・クマそのものへのダメージはまだ弱い。
 イレイザー・クマは、歯ぎしりするような音を立てながら起き上り、左手を思い切り地面にたたきつける。
 その拍子に、左手の【狂血の黒影爪】が砕けた。

「やたー、やっぱり地道な努力は大事だねー」

 と、レキとチムチムがハイタッチ。

「しかーし! イレイザー・クマはまだ倒れない! カウントツーで立ち上がりました!」

 どこからともなく冬月 学人(ふゆつき・がくと)の熱いアナウンスが流れる。

「おっとここで? 乱入! 乱入です! 『魔法少女ろざりぃぬ』だあああー!」

 学人が指す神殿の屋上には、魔法少女ろざりぃぬこと九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が仁王立ちして立っている。

「おのれイレイザーの怨念め! 私の友達である九条さんと一緒に大総統の館二階ガーディアンを務めるダークサイズ大幹部のクマチャンを取りこむとは、その非道、許さないんだぞ!」

 ローズ、いやろざりぃぬは、【魔法少女スーツ【オリオン】】の服装よろしく、キラッと指を振って跳び下りる。
 イレイザー・クマは立ち上がるものの、クマードスーツのパーツの破壊で動きに鈍りがようやく見えてきた。
 それをよしとしたろざりぃぬは【痛みを知らぬ我が躯】と【歴戦の立ち回り】で突進し、魔法少女コスなのにプロレスラーのようなボディタックルを食らわせた。
 学人の実況が入る。

「なんとゴア! ゴアだ! ゴアです! ゴアが入ったあああ!」

 ろざりぃぬのタックルは『ゴア』という技らしい。

「だがイレイザー・クマには右の【狂血の黒影爪】が残っている! 爪を振り上げるが? ここでろざりぃぬ、ゴアからの? ゴアからのー!?」

 ろざりぃぬはイレイザー・クマの背後に回り込み、顎と足の間に腕を通して持ち上げる。

「出たー! ゴアからの! ゴアからのアルゼンチンバックブリーカー! アルゼンチン式背骨折りーっ!」
「さあどうだっ、いい加減クマチャンの身体から出ていけ、イレイザー!」

 アルコリアが招いた混乱以降、突然舞い降りた超攻撃と格闘技への謎の流れ。
 満を持してと言うか待ちきれなくてと言うか、ろざりぃぬに持ち上げられのけぞっているイレイザー・クマの腹に、テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)が飛び乗った。

「ぅぐるぁぁー♪ ぐぁぅがぅぅー!」

 テラーは攻撃と言うより、単にじゃれているようにしかみえない。

「くっくくくく。話に聞いたイレイザー・クマとは、あなたのことですのね?」

 バックブリーカーで逆さまになったイレイザー・クマの顔に前には、バーソロミュー・ロバーツ(ばーそろみゅー・ろばーつ)が立っている。
 如何にスーツの破壊が進んだとはいえ、不用意にイレイザー・クマに近づく二人に、

「もう、テラー! バーソロミュー! 【狂血の黒影爪】はまだ一つ残ってるんですよ!? 危ないじゃないですか!」

 サー パーシヴァル(さー・ぱーしう゛ぁる)は自由に動くテラーとバーソロミューに心配そうに声をかけるが、パーシヴァルの隣のグラナダ・デル・コンキスタ(ぐらなだ・でるこんきすた)は、

「あーあ、また危なっかしいことしちゃって……」

 と、離れて傍観を決め込んでいる。
 バーソロミューが携えた【スナイパーライフル】をあえてしまいこみ、

「我(わたくし)は大航海時代最後にして最大の海賊、バーソロミュー・ロバーツ。あなたが『くま』の名を冠する者なら、我がやることは一つ!」

 かつて海賊船の甲板を駆け回ったように、軽やかに近くの岩を蹴ってジャンプする。

「テラー様! イレイザー・クマの足にぶら下がってみるとよいですわ。とても面白い事が起こりましてよ!」
「ぅがるるるるー♪」

 バーソロミューの言葉通りに、テラーが楽しそうにイレイザー・クマの足にぶら下がる。
 バーソロミューは、跳び上がった空中で片膝を折り、その膝小僧をイレイザー・クマの首目がけて降下した。
 学人の実況によると、

「あ、あれはー! 伝説の悪魔の将軍様的な超人が筋肉的なマンにかましたと言われる、地獄の断頭台! 足にパートナーが重しをしているところを見ると、その変形技のようだー!」

 バーソロミューの落下の勢いで、ろざりぃぬを支点にシーソーの要領で、イレイザー・クマの足が振り上がり、頭から落下する。
 足の振り上がりの勢いが良すぎて、

「ぐぅぐらぐげぁぁぁ〜……」

 テラーは、楽しそうにどこかへ飛ばされていった。

「えええー! て、テラー!」
「あれは放っておく……わけにはいかないか」

 パーシヴァルとグラナダは、飛んでいったテラーを追って走っていった。
 そんなことに気づかないバーソロミューは、そのままイレイザー・クマに馬乗りに飛び乗って、

「はーっはっはっは! いかがかしら、クマの上にバーソロミューが乗りましたわ。これがホントのバーソロミュー(と)くま! バーソロミュー(と)くまですわー!」

 と、バーソロミューはひとしきり高笑いをした後、

「さて、目的も遂げたことだし、帰りますわ。おや、テラー様? パーシヴァル様にグラナダ様まで、どこへ行ってしまったのかしら?」

 と言って、技の勢いで落とした【海賊船長の帽子】をかぶり直し、歩き去ってゆく。

(……何しに来たんだあいつら……)

 などと思っている暇はない。
 首に強烈なダメージを受けても、イレイザー・クマはまだ人間を殲滅しようと身体を起こす。

「起き上がる隙は与えない!」
「おおっと、ろざりぃぬ! 起こした上半身に、今日二度目のゴア! 低めのゴアだ! そしてゴアからのー!?」
「こんのぉー! 早くクマチャンを解放しなさーいっ!」

 と、ろざりぃぬのタックルに続いて、美羽が【戦乱の絆】をわなげの要領で投げ、両足を拘束したかと思うと、その小さな体からは想像できない怪力でイレイザー・クマを振り回し始めた。

「またしても大技だぁーっ、ジャイアントスイング! ロープで拘束からの反則ぎみの変則スタイルだーっ!」
「よしっ、みんなで止めだ!」
「うおおおおっ!」

 イレイザー・クマと戦ってきた全員が、美羽を中心に円状に並ぶ。
 イレイザー・クマが振り回される弧の軌道上に、各々が武器を掲げると、

ガンゴンガンガンガンゴンガン……

 自動的に武器ががしがし当たる。
 イレイザー・クマがいなければ、円卓の騎士とか三銃士の誓いのようにカッコイイ画になりそうなのに、これではまるっきり残酷な私刑である。
 地味な上に恐ろしい連携技だ。

「えっとこれは……だ、ダークサイズ円卓の、いや、円敵の騎士団! ダークサイズ・円敵の騎士団としておきましょう!」

 学人が、とりあえずの技名をつけてみる。
 円敵の騎士団によって、イレイザー・クマの頭部と最後の【狂血の黒影爪】が、ようやく破壊される。
 円の外で、放出されたイレイザーを警戒して【イレイザーキャノン】を構えていたコハクが叫ぶ。

「ちょ、ストップストップ! 当たってるって! みんなの武器がクマチャンの顔にー!」

 クマードスーツの頭部が破壊されても円敵の騎士団が少し続き、見るとクマチャンの顔はボコボコにされていた。
 銃器や杖系の鈍器ならまだしも、刃物も食らっていたはずのクマチャンの首が、よく飛ばなかったものだ。
 美羽がコハクに駆け寄る。

「ねえ、コハク。イレイザーは飛びだした? キャノンでやっつけられた?」
「いや、それが……出てこないんだ……」
「え……」

 円敵の騎士たちは、クマードスーツが破壊され、黒い霧も消え失せて、ズタボロで気を失っているクマチャンの肉体を見下ろした。